第1噺「非日常へようこそ!」
雪男side
―カフェ「ダイアンズダイナー」―
やぁ兄さん、元気かい?
僕は元気でやってるよ。
「えっと……ブレンドコーヒー、以上で」
この街に来て、もう三週間が過ぎた。
外からはとやかく言われがちなこの街だけど、暮らしてみれば意外に居心地も良く。
存外に平穏な日々を送っているよ。
「バブラデュゴバーガーとダイエットブローダソーダお待ち!」
ドンッ!「……………;」
そう言って店員さんが隣の席に置いたバーガーから、サソリの様な恐ろしい手足がワサワサ動いていた。
第1噺「非日常へようこそ!」ここ数年世界の注目を集めまくっている都市、ヘルサレムズ・ロット。
略すとHL。更に追加すると、元・紐育。
今は虚無界と物質界が交わる場所だ。
そう、事の始まりはたった一晩で起こった……
一夜にして「虚無界ゲート」は開き
一夜にして虚無界の侵蝕が始まり
一夜にしてニューヨークは崩壊し
一夜にして都市が構築され
一夜にして大戦が勃発・終結し
一夜にして結界が張られた。
アメリカ政府が事態を察知し、第二艦隊が展開。
配置が完了した時は、全てが手出しの出来ない霧の彼方に隠されてしまった。
その中で只の空想上の産物と思い込まれていた「異世界」が、
現実と繋がって居ることが判明するのは、その12時間後。
世界はその日から混乱の中に陥り、未だ混乱の中から抜け出せずにいる。
そんな中、その出来事をゲームの様に楽しんでいるものが、此処に一人……
―秘密結社 正十字騎士團―
セレネside
「主、今日のデザートは紅茶ゼリーですよ」
粗方書類を片付けた後昼食を食べ終えた僕らは、食後のデザートを楽しんでいた。
「ありがとうメフィスト、べリアルの淹れたレモンティーも美味しい!」
「喜んで頂けてなによりです」
「確か昨日の夜にレイがチーズケーキを作っていましたね。
今日の夕食後に皆で食べましょう、シャンパンも一緒に開けて☆」
「うーん……シャンパンが合うのは分かるけど、僕お酒未だに苦手なんだよねぇ;」
「クックック、酔った主は実に愛らしい。ああ勿論普段もですよ?
学生の頃よりは飲めるようになったでしょう、
少しでも耐性をつけておいた方が宜しいかと。」
悪魔は人間と違い理性が薄く、己の欲に忠実です。
貴女のその小さな器に奇跡的に納まっている膨大な魔力が、飲酒することにより不安定になる。
その魔力は我々にとってとても魅力的です、飲酒くらいで毎回不安定になってもらっていては困ります。
私にも我慢の限界というものがあるんですよ…………何が言いたいか、分かりますね?
そう言ってメフィストは僕の顎に手をかけて持ち上げ、目を合わされる。
まるで獲物を狙う獣の様な目で見つめる彼に、僕は苦笑いしながら「善処するよ」と言った。
メフィストは「結構です」と言いながら手を離し僕の頭を撫でる頃には、
既にいつものニコニコとした彼に戻っていた。
ガチャッ
「あ、来たね」
「ふむ、最近私が造った“騎士團の鍵”はキチンと機能しているようですね☆
この建物の入り口に入ったとしても、そのまま扉を開けるだけでは此処へは辿り着けない。
騎士團の鍵を使って開けることで、漸く此処へ辿り着くことが出来るのです。」
「やぁ、君が新しい僕らの同士だね?
歓迎するよ、僕はセレネ・V・ラインヘルツ。
秘密結社正十字騎士團へようこそ!」
僕はザップンと共に入ってきた黒髪の眼鏡をかけた東洋人のお兄さんに、ニコリと笑いかけた。
それと同時にザップンはギラリと目を光らせ、勢いよく僕の元へ走ってくる。
僕はそんなザップンにまたかと溜め息をつき、
「サマエル」と彼の名を喚んだ。
ドカァアアンッ!!ザップンの動きを足だけで止めただけなのに、物凄い音が聞こえた。
チッと舌打ちをしたザップンの胸ぐらを素早く掴み、
メフィストは彼の背をゴスッ!!と蹴り、伸びたザップンをそのまま床へドサリと落とした。
「全く……飽きませんねぇこの男は。
隙あらば私の主人を襲おうとしてきましてね、それも心底本気なので厄介なんですよ。
申し遅れました、私は此処の司令官をしているメフィスト・フェレスという者です。
八候王の“時の王サマエル”でもあります、以後お見知りおきを☆」
「あー…、やっぱりそうなんですね……うわぁ引くわぁ…」
三人でザップンに軽く引いていると、テラスからチェイたんが風のように速く現れ、ザップンの顔面に着地した。
チェイたんはザップンに冷めた視線を向け、
「おっと、靴底が汚れたかな?」と言ってグリグリと顔面を踏みつける。
「彼女はチェイン・皇、諜報活動のエキスパートです。」
「何しやがるんだこの野郎ッ!!」
「床に寝てるお前が悪い」
「床にあるものは何でもかんでも踏むのかオメェはッ!!立体でもッ!!」
「馬鹿言わないで、踏んでいいものだけに決まってるでしょう」
「「「…………」」」
この二人は本当に仲悪いね、まさに犬猿の仲。
まぁザップンの女癖があまりにも悪すぎるからだけど。
「雌犬……テメェとはやっぱり勝負しねぇといけねぇみてぇだなぁ」
「喚くなって銀猿、セレネちゃん襲うとか言っといてガードがあまりにも堅いから八つ当たり?
二流のやることはこれだから薄ら寒いよ」
「なんだとぉおおおおッ!!(泣)酷ェと思わねぇか修ッ!!あの女はオッパイがデカければ、
生きとし生ける者の頂点に立てると思ってやがんだぞッ!!」
「いや知らねぇよ僕に振らないで下さいよ」
そう言って泣き嘆くザップンに、眼鏡お兄さんは無視を決め込む。
「……誰?」
「彼は新入りですよ、チェインさん☆」
「え……新入りって三雲〇?
三〇修なら来ないわよ、ていうか来れないわ」
「「「は?;」」」
僕達は顔を見合わせて、キョトンとした顔でチェイたんの方を向く。
「何言ってんだお前、現に此処に…」
「……どういうことです?」
「さっき通達があったのよ、ハドソン川で死体が上がったの」
「あのな雌犬、こちとら写真を見て…「どれよ」これだよ」
そう言って写真を取り出して、僕達四人でお兄さんと写真の青年を交互に見る。
「あーなるほど………って、ええええええッ!!似すぎだろコレッ!!」
「前髪の分け目以外殆ど変わらないじゃないですかッ!!」
「それは僕の黒子のコンプレックスへの当て付けですかッ!?」
「ていうかアウトッ!!別の作品じゃんこれワー〇ドトリガーじゃんッ!!」
「おいこらッ!!これは何のつもりだこの野郎ッ!!」
「すみませんッ!!どうしてもあの場から助かりたくて…ッ!!
それにザップさんが、正十字騎士團の名を口にしたのでッ!!」
自分を偽るくらい助かりたい状況って……いや、うん。
この街は爆発とか当たり前だもんね、凄いことがあったんだねきっと、うん。
お兄さんの発言に周りがシーンとした中、僕は全く関係ないことを考えていた。
「知りたいことが…知らなきゃいけないことがあるんですッ!!
裏の世界に通じている貴方達なら分かるかと思って…ッ!!」
「……すまねぇセレネ、フェレス卿。俺のポカだ。
テメェ爆弾しこたま体に巻いてるとかじゃねぇだろうな?
何しろこの街で俺達を殺ろうって奴等は引きもきらねぇ…」
ザップンがそう言っていると、突然TVがプツンとついてニュースが流れる。
どうやら魔神サタンが街中で暴れているようだ。
サタンは楽しそうに建物を破壊し、ロードローラーをSATの連中に投げつけている。
「おうおう大胆なことで」
「わぁ…楽しそうだねぇ……超笑顔だよ爆笑してるよ」
「ロードローラーって前に別の作品でゲフンゲフン、おや虚無界ゲートまで開きましたね。
SATの人達も呑み込まれて父上の青い炎が周りを燃やして……まさに地獄絵図ですね」
「呑気なッ!!神業どころの騒ぎじゃないですよッ!!」
「ちょっと待って、画面が変わるわッ!!」
先ほどの地獄絵図の画面が切り替わり、ザザザッ…と変わったその画面には……
「ごきげんよう、ヘルサレムズ・ロットの諸君。私だよ、堕落王フェムトだ」「いや知らないよ何処のオレオレ詐欺だよ」
フカフカの椅子に座って足を組んでいる堕落王の姿が映っていた。
僕は彼の発言に思わずツッコミを入れてしまう。
だって私だよとか言われても……あ。
私だ、お前だったのか、暇を持て余した、神々のあ・そ・びってことだね!
流石ニート王、暇潰しの為ならどんな盛大な悪戯も平気でやっちゃう、そこに痺れる憧れ……ないな、うん。
「相変わらずだねぇフェムちゃんは。悪戯の域越えてるよねコレ」
「フェムちゃんッ!?悪役にあだ名つけるってどうなのッ!?」
「どうだい諸君、最近は?僕は全く退屈しているよ。
そういえばサマエルとセレネは元気かい?主従関係で結婚するなんて相変わらず面白いねぇ君達は。結婚するなら僕も呼んでくれたら良かったのに、会場を爆破してドッキリを仕掛けてあげるよ」「ちょっとフェムちゃんが僕達の名前出してるんだけどッ!!」
「チッ、あのニート王が……余計なお世話だ、
一々私の主にちょっかいをかけてくるのが気に食わん」
うーん、フェムちゃんって僕らの反応見て面白がってるからなぁ。
僕の手の甲にキスしてメフィストの反応見たりとか、
暗い路地裏を通りがかった時に素早く引きずりこんで僕にホラー現象見せたりして泣かしてきたりとか。
………うん、本当に暇人なんだね。コッチは良い迷惑だよ全く。
「さて、話を戻すとしよう。
それもこれも僕が退屈してるのは、皆君達人間のせいだぞ。
口を開けて食べ物が落ちてくるのを待ってる豚共よ、
この本当に下らなくて息苦しい世界を作ってるのは君らだ………だからね?
だから僕はまた遊ぶことにしてしまったよ、ごめんね♪」その時のフェムちゃんの狂気的な笑みに、僕はゾクリと背筋が凍った。
久しぶりに彼の奥深くに潜む獣という名の狂気を見て、
僕の脳内で警報が鳴り響き、今回の事件(ゲーム)も危険だと警告している。
「さて、今回のゲームのルールを説明しよう。
君達が今見ている魔神は、僕の悪友である魔神サタンだ。
先ほど見た通り彼は虚無界ゲートを出す事が出来る……おっと、興味半分で触れちゃ駄目だよ、
SATの様に吸い込まれてしまうから。まぁその前に彼に燃やされちゃうだろうけどね。
で、気になるのは彼が追っている“何か”だが……当然今この街の何処かで絶賛召喚中だ。
え?何を召喚してるかって?
そりゃ勿論虚無界ゲートだよ、彼の血を使ってタイミング良く召喚出来るようにしたのさ。
サタンが追っている何かを捕まえるのを合図に……おお考えただけでも恐ろしい、
この街はおろかそれを包む結界すら燃やしてみせるだろう。
………それが何を意味するか、賢明な諸君なら分かるよね?
そうなる前に虚無界ゲートを召喚している何かを発見し、破壊したまえ。
制限時間は117分……何だって?手がかりが少なくてゲームにならない?
大丈夫、僕を誰だと思ってるんだい?ちゃあんとチャンスタイムを設けているよ。
ゲートは13分に1度、1ナノ秒だけ解放するようサタンに伝えてある。
虚無界ゲートを視認するには短いが周囲を吸い込むくらいは容易なものだ。
つまり13分に1度街の何処かでブラックホールパーティーが起こるって寸法だ、
君達はそれを手がかりにすれば良いのだよ。」うわぁ……今回は本当に危ないなぁ、下手したら物質界が虚無界に呑み込まれてお仕舞いだよ。
「チェインッ!!レイを初めに各位に連絡、階上にて反応検出に備えて下さいッ!!」
「了解ッ!!」
「ザップは此処で待機し、いつでも出られる様にしておいて下さい」
「おいーす」
「セレネは…」
「ん?」
「私の膝上で待機です☆
「「「おい」」」冗談ですよ☆」
「いや冗談に聞こえないよメフィスト」
「さぁ、最初の解放がもうすぐだ」3…2…1………ズズン……ッ!!突然僕らの周りが吸い込まれた。
まさか僕らの所で始まるなんて……ッ!!
「
サマエル、お兄さんをッ!!」
「そう言うと思ってほら、此処に」
メフィストは既に眼鏡のお兄さんを避難させた後だった。
流石時の王、瞬間移動させたんだね。
ていうか此処で開いたってことは虚無界ゲートは……
「おいコラッ!!やっぱりお前が差し金かこの黒子眼鏡ッ!!」
「いや違っ……てか黒子は関係ないでしょうッ!!」
「手を離してザップンッ!!その眼鏡お兄さんは…ッ!!」
「脳味噌使いなさいよクソ猿、
セレネちゃんが“このままでは吸い込まれる”と判断してフェレス卿に助けてもらったのよ?」
そう、被害が及ぶのは周囲のみ。
虚無界ゲートを仕込んだ本体が死ぬようなことを、フェムちゃんがする筈がない。
「ってことは……まさか………」
そう言って、全員が
ゴゴゴゴゴ……と効果音が聞こえそうな雰囲気で
眼鏡お兄さんが連れてきた音速のお猿さんを見る。
「「「お前かぁあああああッ!!」」」あれ?でも……なんか可笑しい気がする。
ハッキリとした根拠はないけど、何か違和感を感じる。
「……本当にお猿さんなのかな?本体は。」
「あ?何言ってんだよセレネ」
「主のこういう勘は鋭いですからね……何か、感じたんですね?」
「うん……なんかフェムちゃんにしては、単純過ぎる気がして。
今のを見たら誰だって猿って分かるし、思い込む。もしその思い込みを利用しているとしたら……?」
そう、あの悪戯好きなフェムちゃんのことだ。
誰が見ても猿だと分かるのはつまらない、もっと意外なものにするに決まっている。
「でも、それがなんなのかまでは……」
「……………眼鏡君」
「はっはいッ!!あ、雪男です…奥村雪男。助けて頂いてありがとうございます」
「礼なら主に言って下さい……それと貴方、
視えていましたね?」
それを聞いて、全員の視線がお兄さん改めユッキーに向けられる。
「はい……猿の頭上に禍々しいゲートが…」
「何だとッ!?どういうことだフェレス卿、
俺はあの吸い込みを眼の端で捉えるのに精一杯だったんだぞッ!!」
「君の、その“眼”に関係しているんですね?
さっき言っていた、「どうしても知らねばならない」事は」
「はい…あれは、丁度半年前でした……」
僕達は家族でこのHLを見に来ていました。
と言っても、対岸から霧に包まれた街を観るだけでしたが。
僕と双子の兄、そして僕らを養子にしてくれた義父……
「何で俺達しか撮らねぇんだよ雪男、境界都市まで来てんのに」
「別に、あんな所には興味ないよ」
「まったまた〜彼処はもう三年連続で世界の興味の中心だぜ?
お前の新聞記者魂はどうしたよ?」ニヤニヤ
「煩いよ父さん、だからこそ僕が追いかけることは無いじゃないか」
僕が頑なだったのには理由があります。
口には出さないものの、僕らを拾ってくれた父さんに僕らは感謝していました。
父さんはもう50を過ぎているし、残り少ない人生はせめて少しだけでも一緒にいたい。
少しだけでも沢山の思い出をと、僕らが思っていたからです。
……そんな時でした、魔神が目の前に現れたのは。
ソイツは目の前にいた父さんを意図も簡単に、原型を留めないくらいぐしゃりと殺し、
あっけらかんと当然の事を口にするように、悪魔の笑みを浮かべこう言いました。
「選べ、見届けるのは何方だ」言外に、こうも言っているのを何故か僕達は理解していました。
「見届けぬものにその視力は必要ない」と。
兄さんは僕の前に立って、堂々としてこう言いました。
「雪男には手ぇ出すな、奪うなら俺から奪えッ!!」ポタリと、ユッキーの頬から雫が滴り落ちた。
ユッキーは歯を食い縛り涙を堪えながら、悔しそうに話す。
「動けなかったッ……僕は、その間ずっと…固まって……ッ!!
僕は……僕は、卑怯者です…ッ!!」
「ユッキーは卑怯者じゃないよ」
そう言った僕を見下ろすユッキーに、僕はニコリと笑った。
「そんな怖い状況で動ける人は然々いないよ。
ただ、お兄さんは他の人より勇気があった。
誰もが我先にと逃げるような状況の中、お兄さんは弟を……君を護ろうとしたんだよ。
……良いお兄さんをもったね」
「……はい、僕の自慢の兄です。
ちょっと馬鹿だけど、強くて優しくて…僕の憧れなんです!」
そう言って、ユッキーは目元を服の袖でゴシゴシと擦り、晴れやかな笑顔を見せた。
「奥村君……貴方の能力のこと、その事情、全て了解しました。
その上で私は取引を申し出たい……宜しいですか?」
「え…?」
「恐らく今回貴方の能力はこの局面を左右する鍵になる、ついては…私達に協力してほしい。
私達も貴方の目的の達成に助力することを約束しましょう。」
「それって…」
「そうです、改めてようこそ…騎士團へ☆」
ユッキーが驚いて眼を見開く中、メフィストは星を飛ばしてウインクする。
ザップン達もやれやれといった風に呆れた顔をしており、「これだからフェレス卿の旦那は」と溜め息をつく。
「主、先程あの猿に違和感を感じていましたね?しかし、それがなんなのかは分からないと。
そして奥村君は先程こう言いました、「猿の頭上に禍々しいゲートがあった」と。」
「はい、確かに僕には視えていました」
「つまり、奥村君があの猿を間近で観察すれば良いのです☆」
「「「は?」」」
全員がメフィストの発言に驚く。
あの音速のお猿さんにどうやって近づくのだと。
「お猿さんは警戒してすぐに逃げるじゃないか」という視線をザップン達はメフィストに向けているが、メフィストはそんな事も気にせずに僕の方を向く。
「大丈夫ですよ……そうですよね、主?」
「うん、了解!」
何が了解だとユッキーはハテナを浮かべているが、
二人は今のやり取りで理解したらしく、ハッとした表情で僕を見つめている。
僕はビクビクしているお猿さんにゆっくりと近づいていき、優しく声をかける。
「おいで」「キキッ!?キィ、キキィッ!!」((((;゜Д゜)))
「大丈夫だよ、僕は君に何もしない。」「キィ……キキ?」( ;ω;)
お猿さんは目の前まで来た僕を恐る恐る見上げる。
そんなお猿さんに僕はクスリと笑い、しゃがんで同じ目線になって目を合わせた。
そうして見つめ合っていると、お猿さんは僕が危害を加えないことを理解して駆け寄って来る。
僕はお猿さんを抱き上げ、ユッキーの前まで歩いていった。
「はい、次はユッキーの出番だよ!」
「は…えッ!?今のは一体…ッ!?」
「セレネはな、どんな虚無界の住人とも大抵は親しくなれるんだ。
コイツは相手がどんな奴だろうと平等に接する、だからこうやってなつかれやすい。
まぁこの街ではなんでもアリだからな、普通だろ普通」
「いや普通なわけないですよッ!!なんですか今のナ〇シカみたいなのッ!!」
「いいからさっさとその“眼”で観察なさいッ!!」
「はいッ!!すみませんッ!!」ユッキーは慌てて僕の腕の中にいるお猿さんを覗きこんで、
その“眼”で視た。すると、良く見てみるとそこには……
「…………ノミ、ですね」
「は?」
「猿の頭にノミが一匹います、血のついた。」
「………ノミ?」
「はい」
「こんだけ街中を騒がせておいてゲートの本体がノミ?」
「はい、そうです。」
「「「はぁあああああッ!?」」」その場にいた全員が絶叫する。
そりゃそうだ、ニュースで大々的に取り上げて、SATまで犠牲になって、
街中大混乱しているのに、本体はただのノミだったのだ。
…………やるねぇフェムちゃん、一杯喰わされたよ。
「ってもうあれから13分経つぞッ!!」
「何ッ!?奥村君さっさとそのノミを潰しなさいッ!!」
「えッ!?あの…
「いいから早くッ!!」はいッ!!じゃあ…」
プチッ……それはあまりにも呆気なく、
先程までの騒ぎは何だったのだろうと思うには十分すぎるくらい、本当に呆気なかった。
††††††
「…………ッ!!
あああああああああクソッ!!
何故だッ!!何故猿を殺さないッ!!1500%そうするだろッ!!
ここはヘルサレムズ・ロットだぞッ!!」先程までの出来事を観覧していた堕落王は、ノミを潰されたことにより絶叫していた。
「お蔭で台無しじゃないか……何の為に苦労して猿を鍵にしてノミのゲートと連動させたと思ってるんだ。
猿を殺すと同時に結果サタンにその伝達がいき、サタンが街を燃やしてしまうという僕の爆笑シナリオが…ッ!!
門鍵(モンキー)とモンキーもかかっていたのにッ!!」
意外とギャグで決めていた堕落王に呆れるかもしれないが、
彼がここまでやったことはとんでもないことだと思うと恐ろしい。
堕落王は先程猿を手懐けたセレネをチラリと見る。
「………そうか、セレネには誰にでも好かれる独特な雰囲気があったな、うっかりしていたよ。
本人は無自覚だが、大抵の者は彼女の頼みごとを了承してしまう。そしてあの“眼”をもった少年……
彼女が猿を懐柔したことにより、彼は眼を使って猿の仕組みに気づけたということか。
……クックック、
アハハハハハハハハハッ!!本当に飽きないね君は、相変わらず面白いよ!
君がアイツの傍ではなく僕の傍にいてくれたら、どんなに楽しいだろう。
そして僕に溺れて堕落してくれたら、最高なんだけどねぇ………
堕ちろよ、セレネ」
そう言って堕落王は仮面から目を覗かせ、ニヤリと嗤った。
††††††††
やぁ兄さん、元気かい?僕は元気でやってるよ。
先日結構な事件がこの街では起こったんだけど、驚いたことにものの一晩でいつもの平穏さに戻ってしまった。
最近僕は勉強したことがある。
困難にぶち当たった時こそ、本当に眼を見開いて向き合う瞬間なのだと。
背中を向けると、余計に怖くなるから。
……前兆に従ってゆこう。
どんなに沢山のハプニングがあっても、その“前兆”を信じて行動し続けるんだ。
すると、必ずそこに答えがある。
そしていつも、ハッピーエンドなんだ。
ガチャッ…
「おはようございます!」
「あ、ユッキーおはよう!早速だけど事件だよッ!!」
「え、またですかッ!?」
僕は見続ける。
もうちょっとこの街に留まり続けて、もうちょっとこの街で見続けようと思う。
何だか今は、それが自分の役割の様な気がして、仕方が無いから。
To be continued…