第1噺「混ぜるな危険」
これより古、人里離れた憂国の地に
封印されし一本の槍
闇を切り裂き邪を祓うその名は獣の槍
獣の槍の宿縁により出会う二つの魂在り。
彼らの名は零ととら――……
ゼロside
「いいか零、この芙玄院は由緒正しい寺でな……
身分の高低を問わず多くの人の魂を沈めてきた。
それだけではないぞ……」
いつもと変わらない話を延々と語る親父の話を右から左に受け流しながら、
俺は飯をかっこみ卵焼きに素早く手を伸ばす。
「うちの寺に祀られとる槍は、
妖怪退治の名人のありがたーい…
「おかわり」」もぎゅもぎゅ
俺が話を遮って茶碗をスッと差し出すと、
親父は米神に青筋を浮かべながらゴンッ!!と俺の頭に拳骨を落とした。
「人の話をちゃんと聞かんかッ!!」
「痛ってぇえええッ!!やりやがったなッ!!つか親父今年でいくつだよッ!!」
「47だ、それがどうした」
「47ッ!?57くらいに見え
ゴンッ!! 痛てぇよッ!!
分別盛りの寺の住職が毎朝毎朝息子にお化けの説教たれてんじゃねぇッ!!
有り難い槍があるって言うけどなぁ、見せたことねぇだろが一回も!
ホラ吹くんじゃねぇこの禿げ爺ッ!!」
「誰が禿げだってこの馬鹿息子がッ!!」
「何度でも言ってやらぁハゲチャビ…
ゴンッ!! くっそぉおおおおおッ!!」
第1噺「混ぜるな危険」ゼロside
―蔵―
俺は蒼月零、今のは寺の住職をやっている俺の馬鹿親父だ。
つかアイツ仕事で日本海行くっつってたけど私服だったぞ?そんなんでいいのか住職。
うちの寺は結構古くて、五百年くらいの歴史があるらしい。
そんなだからこの蔵には、檀家からの寄贈品やらお祓いを頼まれたものやらがいっぱいある。
それが親父のホラの原因になるわけだ。
「なぁにが妖怪だよ、槍だって何処にもねぇしさぁ。
餓鬼の頃から口説口説聞かせやがって……よっと」
ブツブツ文句を垂れながら蔵の古本を虫干ししていると、
床にあった取っ手に足を引っ掻けてしまい、俺はズデーンッ!!と盛大に転けた。
「痛っつー……なんだよこの扉、明らかに何かありそうな………
何が出るかな♪何が出るかな♪たらららんたんたらららん♪ごきげんよっう…
ミシミシミシ バキンッ!! あ゛……」←某お昼の番組ごきげん〇う
「ギャァアアアアッ!!」ダダーンゴロゴロゴロごちぐしゃーんッ!!「……………」
返事がない、ただの屍(ry←黙れ作者
「うおービビったぁ、此処は……地下室か。」
あの扉は元々ボロかったんだ、壊れたのは俺のせいじゃないソウダヨキット。
なんてことを思いながら、俺は暗い地下室をキョロキョロ見回していると……
ゾクリと背筋に寒気が走った。
「…………人間か」
「は…?ってうわぁああああッ!!Σ( ; ゜Д゜)」
声が聞こえ振り返って見ると、そこには虎の様なデカイ化け物がいた。
あまりの出来事に俺は思わず後ずさる。
「やれやれ…五百年ぶりの人間は随分喧しいな。
でも、まぁいいか……この槍を抜けるのは、人間だけだからな」
「槍……?」
よく見てみると、奴の肩には大きな槍が突き刺さっていた。
もしかして、親父が言ってた妖怪退治の名人の槍ってこれのことかッ!?
マジかよ、あの話本当だったのか……
スマン親父、ホラ吹きだと思ってムカついて冷蔵庫にあった肉まん食っちった。
「どうした、今じゃそんなに妖怪が珍しいのか?
ならばついでに、自由になった妖怪も見せてやる。この槍を抜きな……小僧!」
そう言って、奴はニイィ…と口角を上げる。
「五百年の間、わしはこの忌々しい槍で此処に張り付けられてきた。
どんなにもがいてもこの槍は抜けぬ、この……“獣の槍”がよ」
「獣の…槍?」
「知らんのか?人の魂を食いながら邪を裂き鬼を突く、
このクソッタレな槍を……まぁいいから早くコレを抜け」
なんで頼む方が偉そうなんだよ。
「えー、それ俺が抜いたらお前どうすんの?」
「フフン、知れたことよッ!!
まず己を食らって、昔の様にこの辺の人間共を地獄へ引き摺りこんでくれるわッ!!」
「…………」
おまいら、やることは分かってるよな?
ガンガンガンガンッ!!「うっぎゃぁあああああ痛てててててお前何しやがるッ!!」俺はコイツにぶっ刺さっている槍を思いっきり蹴りつけてめり込ませてやった。
ふっザマァ m9(^Д^)プギャー
「何をするだぁ?んなこと言われて自由にする馬鹿がいるかこのボケなすッ!!」ガンガンガン
「痛ててて痛てッ!!くっそぉお覚えとれよおお
お前はわしが絶対に食ってやるからなぁあッ!!」
「ふーんあっそ、それは次の奴に言うんだな」
「あー待て待てッ!!」
俺が階段を登って去ろうとすると、コイツは必死に呼び止めてきた。
コホンとか咳して誤魔化してんじゃねぇよ馬鹿、お前の本性はバレバレなんだよ。
「そうだこうしよう!この槍を抜いてくれたら何でも言う事を聞いてやる!」
「ほー、それで自由になったらどうすんだよ?」
「そりゃまずお前を食って…「はい終了、人の命が食いもんにしか見えねぇ妖怪を、
野放しにするわけねぇだろバーカ。じゃあな」おっおいッ!!“イノチ”ってなんだよッ!!
動けるってことだろッ!?お前は動けるように食わないってッ!!
他の人間はお前に関係ねぇだろッ!?気に入らん奴でもなんでも殺してやるからッ!!」
「一生そこで磔になってろボケ妖怪」
そう言って、俺は地下室の入り口に重石をドサリと乗せて塞いだ。
しかし驚いたな……あんな奴がうちの蔵の中にいたなんて。
なんてことを考えながら外へ出ると、俺の幼馴染み二人が玄関前に立っていた。
「やっぱここはピンポンダッシュが良いと思うんだよレイ」
「いやお昼の余り物お裾分けに来たのに意味なくなるから………あ、いた」
「ようお前ら、てかピンポンダッシュって俺の家……ッ!?」
俺はいつもの様にしょうもないコントを始めようとしたが、周りのある異変に気づいた。
なんか魚類みたいなやつとか変なのがウヨウヨと宙をさ迷っている………なんだこいつら、てか二人には視えてな…「あれ、何この魚みたいなの」ってお前は視えるのかよセレネッ!!
「志村後ろぉおッ!!ってお前には視えてないのかよレイッ!!」
「え、二人共何言ってんの?いつものコント?」
「違ぇよッ!!ってお前危な…「何処触ろうとしてんだこの変態」理不尽ッ!!」
レイに近寄ってきた魚類(?)を追っ払おうとしただけなのに、
視えてねぇコイツに叩かれた。
なんか俺こんなんばっか……;
なんで今までいなかったのに妖怪が出てきてんだよ。
まさかさっきのあの化け物、何かしやがったな?
そう思って俺は先程の蔵の地下室へ行き、奴に問いかける。
「おいボケ妖怪、お前何かしたか?さっきから変なのがウヨウヨしてやがるんだよ」
「ギャーッハッハッハッ!!そりゃわしの妖気が呼んだ虫怪と魚妖共よッ!!」
なんだそれ、どれが魚妖でどれが虫怪なのか分かんねぇよ。
ヒヨコの雄雌判断くらい難しいんじゃねぇの?
「この地下には、500年間閉じ込められていたわしの妖気や鬱憤が溜まっていた…
それをお前が解放した。妖気は流れ出て、この辺りの低級な小妖怪共を引き寄せたのさ。
わしに接したお前は他の人間より早く見られるだろうがな、
いまに奴等は実体化して人を襲うぞ?」
うおぉマジかよ……これ俺のせい?
いやいや取っ手が出てたのが悪いんだよ
足引っ掻けやすいじゃねぇかよ、それにもう古かったしよぉ。
そうこう考えている内に、外から二人の悲鳴が聞こえてくる。
このままじゃ不味いな……。
「ほう、他に人間がいたのか……女だな。
無駄だぜ、お前にゃ助けられん。魚妖共は厄介だからな。」
「チッ……生身の人間じゃ無理ってか」
「分かってるだろ……わしなら出来るんだぜ?その為にはこの槍が邪魔だがなぁ」
このシチュエーションは……僕と契約してこの槍を抜いてよゲフンゲフン、
何処の久〇衛だよ何言ってんだ俺。
「………仕方ねぇな、やっつけてくれよ?」
「約束は守るさ」
俺はコイツの言葉を信じ、
頑丈に突き刺さった(自分で蹴ったけど)獣の槍をユックリと抜いた。
しかしコイツは抜けるや否や、俺のことを攻撃して突き飛ばしやがった。
痛って……頭打っちまったじゃねぇか。
「よくもわしをコケにしてくれたなぁ…」
「おい待て、さっきの約束はどうなるんだよ」
「誰が人間との約束なんて守んだよッ!!アーッハッハッハッ!!」
「汚ねぇぞ……テメェ………」
俺が怒りで頭に血が昇ると、
獣の槍からザワザワと何かが伝わってきて、髪が伸びていくのが分かった。
力が漲ってくる……まるで人間じゃねぇみたいだ。
「しまった!コイツまだ槍を持ったままだったんだッ!!
ということはあの時と……五百年前わしを磔にしたサムライと同じだぁああッ!!」
「………」ニヤリ
おまいら、やることは分かってるよな?
※本日二回目
「ギャァアアアアアアッ!!」
ドカーンッ!!
奴は追いかけてくる俺を見るなり外へ飛び出し、
小妖怪共を切り裂いていきながら逃げ続ける。
「どけぇええいッ!!」
お、雷炸裂したかと思いきや炎まで使えるのかコイツ。中々良い技持ってんじゃん。
「わあああ参った参ったぁッ!!
約束通り妖怪はやっつけてやるぜ!だから勘弁してくれぇえッ!!」
「さぁーてどうすっかなぁ?折角抜いてやったのに吹っ飛ばしやがってよぉッ!!」
俺達が追いかけっこしていると、
玄関に入って避難していた二人の悲鳴が再び聞こえてきて、
よく見ると妖怪共は玄関に押し寄せていた。
しかしそれらが集まっていき、一つの巨大な化け物へと変わっていく。
「チッ、アイツら小せぇクセにやってくれるぜ」
「おい、先にお前が行け。俺が止めを刺す」
「なんでわしが命令聞かなきゃなんね「早くしろ」はっはいぃいッ!!」
獣の槍でツンツンされた奴はスピードを上げてバッと空へ飛び上がり、
化け物を真っ二つに切り裂く。
「うぉおおおおおおおッ!!」俺はそれに続いて飛び上がり、化け物の体を更に細かく切り裂いた。消滅した化け物を横目で見ながら着地すると、先程まで長かった髪が抜け落ちていき、元の長さに戻る。
「槍が教えてくれた……この槍は妖怪を退治する為だけに二千年も昔、中国で造られた“獣の槍”」
人の魂を力に変えて妖怪を討つ……故に使う者は獣と化し、槍と一体となり妖怪を倒す為だけの生き物になってゆく。
「お前を刺した侍もそうだったんだろ?」
「あぁ……」
奴は思い出していたのか、ピクリと反応して少し固まっていた。しかしそれもすぐに終わり、俺に背を向け去ろうとする。
「じゃ、あばよ
「待て」ジャキッ うおっ危ねぇッ!!」
「まさか許されると思ってんじゃねぇよな?」
「だって魚や虫はやっつけただろッ!!」
「お前の五百年分の妖気だ、まだ当分は他の妖怪を呼ぶんだろ?お前には妖怪共を倒す責任がある!」
「所でお前!なんだって他人の“イノチ”を守ったりするんだッ!!」
「お前には一生分かんねぇよ、てか名前無いと不便だな……」
「じゃあとらちゃんは?」
「「は?」」
いつの間にか二人が俺達の側まで来ており、セレネが俺の肩にいる奴を見てそう言った。
レイも先程の化け物のせいで視えるようになったらしく、「え、何それ重くないの?」と吃驚している。てかツッコムとこそこかよ。
「だって虎っぽいじゃん」
「そういやそうだな、じゃあ今日からお前のこととらって呼ぶわ。顔ソックリだしな」
「なッ…!!嫌だぞワシはそんなのッ!!」
「煩ぇな、俺の肩に止まってるクセによぉ」
「別に半透明化してる時は体重かかんねぇから良いだろッ!!
くっそー人間め、こうなったら憑りついてやる。隙を見て絶対に食ってやるぞッ!!」
「ヘッ、出来るもんならやってみろよ。
お前みてぇなヤツを世の中に放つわけにはいかねぇからな。
いつか絶対この槍で滅ぼしてやるッ!!」
「言ったなクソ人間ッ!!」
「んだとこのボケ妖怪ッ!!」
「お前らいい加減にしろッ!!」ゴンッ!!「「痛ってぇえええッ!!」」喧嘩に発展しそうなほど顔を近づけて言い合っていた俺達の頭にレイの拳骨が落ちた。
「痛てて……あの女ただ者じゃねぇ」
「だろ?くっそータンコブ出来た、
さーてレイの持って来た昼飯……「もう夕方になってるよ」え?」
……………お前のせいだぞ、とら。
結局その日は昼飯抜きになった。
To be continued…