第32噺「ムカ着火ファイヤー」
サタンはセレネの後ろから走ってきて藤堂に飛び蹴りを喰らわせた。
物凄い勢いで吹っ飛んだ藤堂を見てセレネはポカンと呆ける。
そのままスタスタと藤堂の元へ歩いていき、無言で首を片手で鷲掴みして持ち上げ、
ギリギリと絞めだした……青い炎を纏った手で。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」『どうだ俺様の炎は、炎属性でも俺の炎は通用する。
俺を甘く見てると痛い目見るぞ?……ってもう見てるな、自業自得だ。』
首を絞める力を一向に緩めないサタンの腕を掴む藤堂。
しかし魔神の炎は流石に苦しいようで、掴む手は弱々しい。
『今すぐテメェを燃やしてやりてェ所だが、お前はまだ必要な
“役者”だからな。
役目が終わるまで待ってやるよ、だが……終わったその時は、
分かってるよなァ?』そう言ってサタンは藤堂の首に自身が絞めた跡……焼き印を残し、藤堂をその辺の草むらに投げ捨てた後、未だに涙が止まらないセレネを抱き上げて逃走する。
『俺以外の奴に泣かされてんじゃねェよ』と言いながら、セレネの目からボロボロと溢れ落ちる涙を頬から目尻まで舐め上げるサタンに、セレネは「何それ理不尽だよおぉ…」としゃくりあげていた。
第32噺「ムカ着火ファイヤー」レイside
「……チッ、何度燃やしても切りが無い。」
燃やしても燃やしても増え続ける胞子を見て、私は舌打ちをする。
先程あの間男が私にセレネを預けて早々に去ったのだが、セレネは私を見て安心したのか気を失ってしまった。セレネを抱えながら戦うのは少々キツいものがある、しかし破けた服を見ると何かがあったことは明白なので、今起こすのは酷だ。
さてどうしたものかと考えていたその時……
夢でよく会う私ソックリな悪魔が、頭の中に話しかけてきた。
(〈大変そうね……まだ“私”に気づかないの?〉)
「……夢の中だけじゃなかった?出てくるのは」
(〈貴女が“使いすぎる”からよ、“私”を無意識に否定しているクセに〉)
「使いすぎる…?なんで私があんたの言うものを使いすぎるとあんたが出てくる………、まさか」
(〈漸く気づいたの?でももう手遅れよ、気づくのが遅すぎたわ。
貴方は“私”の存在を否定しているのに“私”の力を使う……矛盾していると思わない?
そんな意志じゃあ、護れるものも護れないわよ〉)
「そんなこと勝手に決め………ッ!!」
反論しようとしたが、ズキリと体に走った痛みにより言葉が続くことはなかった。
それどころか今の痛みに驚いたせいで、腕に抱えていたセレネを地面へと落としてしまい、周りの胞子は待ってましたと言わんばかりにセレネを自分達で覆い呑み込んでいく。
「セレネッ!!」
しまった、私としたことが…ッ!!
今起きている出来事がスローモーションの様に感じられた。
呑み込まれていくセレネの体は、ジワジワと胞子に侵食されていく。
やめろ…やめてくれ……そんな穢いもので私の妹に触るなッ!!
妹は、セレネは……私に遺されたたった一人の…………
「うぁあああ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
私は迷うことなく炎を使った。
To be continued…