第31噺「侵食していく」
―時間軸:手紙を渡す前の出来事―
「またあんたなの?」
〈……………〉
「相変わらず無口ね、毎回夢に出てくるようじゃゆっくり眠ることも出来ない。
もう少し自重してくれる?」
〈………それは貴女次第よ〉
「私次第?」
〈貴女が私に気づいて認めてくれたら、もう私が……出ること…………な………〉
†††††††††
「……また夢か」
レイは車の中で仮眠をとっていたのだが、また先日の夢を視たようだ。
どうやら毎回寝る度に出てくるようで、最近は睡眠不足で苛々している。
「おーい着いたぞー」
「ありがとうございます東先輩。レイ行こう、父さんが言ってた手紙持ってこないと」
「そうだね、早くしなきゃ……ねぇ雪男、あれ」
「ん?何が…「ああッ!!空に!空にッ!!」ちょっと東先輩その元ネタ何処かで………え、あれって……」
「お姉ぇええちゃぁあああんッ!!」「「「セレネッ!?/めぇええいちゃぁあああ
痛てッ!!」」」
上空に見えるのは、四神朱雀に乗る自分の妹だった。
第31噺「侵食していく」―時間軸:手紙後―
セレネside
「〈おい、セレネあれ……〉」
「………炎?」
僕は獅朗ちゃん達から離れた後、朱雀の背に乗り上空から皆の様子を伺っていた。
すると、森の中でチカチカと赤く光るものを見つけた。恐らくあれは炎だろう。
「炎ってことは志摩家の人達かな?あの人達確か烏枢沙摩の炎の加護あったよね?」
「〈いや、この気配は……伽樓羅だ。けどなんか様子が可笑しい〉」
「え、どゆこと?」
「〈伽樓羅の気配が……人間の中にある〉」
「はいΣ(゜Д゜;)!?」
え、何それどゆことッ!?体内ってこと!?
伽樓羅は上級悪魔なのに喰べられるなんて……
一体誰が…………あ、誰かなんとなく解った気がする;
「………行ってみる?」
「〈ああ、行くぞ〉」
そう言って朱雀は降下して、炎の見えている場所へ降り立った。
僕は朱雀から降りて人型になったのを見た後、炎の発火源の方を向く。
「やぁ、会いに来てくれたのかい?」
「やっぱり三郎ちゃんだ………って、あれ!?若返ってるッ!?」
「〈やっぱ伽樓羅喰ったのはお前か〉」
「ご名答、いやぁまさか若返るとは思わなかったよ。
23歳頃の姿かな?でも君とは未々歳が離れてるね」
三郎ちゃんは「あぁ、そういえば」と言いながら、
ニコニコして此方へと近づいてくる。
「……君の契約印、少し見せてくれないかな?」「え…」
「セレネッ!!」
いつの間にか三郎ちゃんは、僕のすぐ近くまで来ていた。
それに反応出来なかった僕を朱雀が庇い、お互いの炎で相殺し合う。
「酷いなぁ、そんなに警戒しなくてもいいじゃないか。
元手騎士としての探究心が疼いてるだけだよ。」
「あのなぁ、普通契約印は他の悪魔にあまり見せないようにするもんだ。
何を細工されるか分かんねぇからな。
………このままじゃ俺達は同じ属性だからお互い非がある……セレネッ!」
「ふえッ!?」
「今回俺じゃ無理だわ、サタン様もいねぇし他の属性悪魔喚べ。
てか俺こんなオッサンに喰われたくない」
……ぱーどぅん?(゜゜;)
朱雀震えてるよそんなに三郎ちゃんに喰べられそうなのが怖いの!?
いや確かに怖いけどさ自分が喰べられるなんて。
しかも上級悪魔の自分が喰べられるなんて想像したことも無いだろうし。
「え、待ってこの状況で僕を一人にしないd「朱雀はどんな味がするんだろうねぇ」「セレネごめんじゃあなッ!!」へ!?ちょっま…」ボフンッ☆
ぐぁああああああああ逃げたぁあああッ!!
ごめんじゃすまないよ今度会ったら倍返ししてやるぅうううッ!!
三郎ちゃんも煽らないで……ってこれが狙いかぁあああッ!!
確かに朱雀は僕の使い魔じゃない、いつも“お願い”を聞いてもらっているだけにすぎないのだから。
でも、でも召喚する前に去るのは流石に酷いってッ!!
こうなったら朱雀ヘタレ説を某祓魔師掲示板に流してやるぅうううッ!!
「おや考え事かい?余裕だねぇ」
「ッ……!!余裕なんかないよ!!
“ペルソナ、ジャックフロムグッ!!「ハハ、喚ばれたら困るなぁ」むー!!むぐーむぅううッ!!」
口塞がれちゃったよッ!!こんなんじゃ喚べないよ馬鹿サブちゃんッ!!
なら舌噛んで血をッ……ふあ!?
「おっと、舌噛んだら駄目じゃないか」
「ふふぃふぉふぁふぁふぃふふぃふぃふぇふぅふぉふぁふぇふぇええッ!!
(訳:口の中に指入れるのやめてぇえッ!!)」
血を出さないようにしてるのは分かるけど絵面がアウトだよッ!!
指動かさないでお願いだからッ!!
「……なんか卑猥だね」って呟くくらいなら今すぐその指を退けてよぉおおおおッ!!
三郎ちゃんは僕が何て言ってるのか分かってるクセに「分からない」なんて惚けながら股がり、右の甲にある契約印に気づいて僕の口から指を離し右手を掴む。
「また悪魔と契約したのかい?フェレス卿も大変だねぇ、主人がモテモテだと。
強い悪魔の匂いがするね、これは……フェレス卿の弟さんかな?」
「お願いだから嗅ぐのやめてッ!!てかなんで分かるのッ!?何そのチート能力ッ!!」
「いや悪魔になったんだから匂いで分かるのは当たり前だよ、
他の悪魔も噂していたよ?最近君からサタンの匂いがするって。
君に手を出してはいけないという暗黙のルールもあるみたいだし。」
「え、何それ初耳なんだけどッ!?」
そういえば最近皆おどおどしてたけど、まさかそんな理由だったなんて……
気にせず今まで通りに接してくれたら良いのになぁ。
「まぁこんな自己主張激しい印があったら目立つよねぇ、わざとなんだろうけど。」
三郎ちゃんはそう言いながら噛み跡をなぞり、その擽ったさに僕の肩が跳ねた。
その反応を見た三郎ちゃんはスゥ…と目を細める。あ、あれ?三郎ちゃん?
何か可笑しいと思ったが、「そういえばセレネちゃん」と言い出す頃には既にニコニコしており、先程感じた違和感はそこにはもうなかった。
「二つの印は見たけど、もう一つ……フェレス卿の契約印は何処にあるんだい?
左の甲にも額にも無いし、足にも無い。残るは……」
そう言って目を下ろす先は、僕がいつも身に纏っている祓魔師の制服。
僕はその視線に冷や汗が垂れた。
「い…やッ!!」ビリッ
「さぁ何処に……………これは…」
藤堂は伸びた爪で器用にピッと胸元のYシャツを破き、
サマエルの契約印がある場所を見て目を見開いた。
そう、心臓。契約印は心臓の位置にあるのだ。
心臓は人間の核、魂のある場所。
胸元の場所は所有という意味がある……
つまり、魂ごと所有したいという意味も含まれている。
使い魔が主人を…………明らかに矛盾しているのが明確だ。
そもそもセレネは明るく振る舞っているが、その躯には重すぎる。
噛み跡や契約印、悪魔の王達の匂いが纏わりついている躯……
まだ幼い少女にはそれがあまりにも不釣り合いで、異端なのだ。
鎖を雁字搦めにされているようにしか視えないのに、
それでも少女が平気でいられるのは何故なのだろう。
「ハハハ、フェレス卿普段は君が誰と話してても笑ってるだけだけど、一番独占欲が強いねぇ。
まさか心臓のところにあるとは思わなかったよ。」
「うぇええん三郎ちゃんの馬鹿ぁあああ」
自分の目の前で顔を赤らめながら泣き出したセレネを見て、悪魔の本性が疼く。
「ああ、駄目だよ悪魔の前でそんな顔しちゃあ………………
もっと苛めたくなるだろう?」泣き顔を見て加虐心が湧いた藤堂を見て、更に涙を目に浮かべるセレネ。
手が近づいてきてぎゅっと目を閉じようとした……その時。
視界の隅に一瞬、青い何かが見えた気がした。
『おい』気づいた時には既に藤堂はぶっ飛ばされており、自身の目の前に見える背中は……
『俺のもんに手ェ出しやがったな?』「さっちゃんッ!!」
青い炎を纏い、額に青筋を立てギロリと睨んでいる、自分のよく知る魔神だった。
To be continued…