第30噺「舞台の幕は開かれた」
「カハッ……ゲホッゴホッ!!」
「やはり君には少々荷が重すぎたかもね」
ザワザワと空気が騒がしくなってきた夜、京都。
右目を奪った蝮を連れ、何処かへ行こうとする藤堂の前に、一人の少女が待ち構えていた。
「いえ…ケホッ……大丈夫ですまだ行けます!」
「いや君の体に何かあったら………おや、また会ったね。待っていたのかい?」
「君の選んだ道に文句を言うつもりはないけど……
教え子を騙して利用するのは良くないと思うよ、三郎ちゃん。」
少女……セレネは、屋上のフェンスから見ていた空を見上げるのをやめ、クルリと藤堂の方を向いてそう言った。
第30噺「舞台の幕は開かれた」二人がお互いを見つめる中、蝮は会話を聞く暇は無く、
見ているだけで精一杯というような状態だ。
「傍観してくれるんじゃなかったのかい?セレネちゃん。
よく分かったね、協力者が教え子ってこと」
「そりゃあ京都出張所の誰かじゃないと右目を盗めるわけないし、
かと言って京都の皆は明陀宗の仕来たりに従って、
和尚さんを信じてるから裏切るわけがない……特に昔からいる大人はね。
じゃあ逆に考えると、
何故協力者は明陀宗を“裏切らなければならなかった”のか。」明陀宗の仕来たりを誇りに思っているのに裏切ったのは、皆の話を聞くに和尚さんへの不満や疑念からきている。
しかし明陀宗の大人は疑念を抱いていても仕来たりに背くことは絶対にしない。
するとすれば……子供、まだ大人になったばかりの未熟な者が、最も可能性が高い。
「そこから考えていくと、志摩ちゃんの兄弟か宝条のお姉さん達が一番騙されやすいって分かる。
その中で三郎ちゃんと関わりがあるのは……柔兄と蝮お姉さん。」
「………流石あの子の妹だねぇ、勘が鋭い所はお姉さんに似たのかな?
見逃してくれると有り難いんだけど」
「その予定だったんだけど、
自分の教え子を騙してまでやるっていうなら……見逃せないかな。」
「仕方ないねぇ、君とは争いたくなかったんだけど……
通してくれないのなら、力ずくで行かせてもらうよ」
そう言って藤堂は胞子を周囲に生やしていき、セレネへ向かわせる。
「“地の底に眠る星の火よ、
古の眠り覚まし裁きの手を翳せ!朱雀ッ!!”」セレネは朱雀を喚び出し、胞子の波を全て焼き尽くした。藤堂は朱雀の登場に冷や汗を垂らし、少し距離をとる。
「ハハハ、四神の朱雀かぁ……よりによって私の苦手な炎属性とは。これは勝ち目が無いねぇ」
「じゃあ諦めろ藤堂さん、悪魔喰ったんなら分かるだろ?お互いの力量差が。」
「うーん、でも諦めるわけにはいかないんだよねぇ。
………炎喰べるのって熱そうだよね」
「セレネ、俺初めて人間怖いと思った。やめろよ俺喰っても別に旨くねぇぞ」
「とか言って僕の後ろに隠れるのやめてッ!!てか明らかにはみ出てるよッ!!」
「……なーんてね」
「「え?」」
二人が騒いでいた隙に、藤堂は蝮を連れセレネ達の頭上を飛び越え、屋上から家屋の屋根へと飛び移った。
「「あぁあああああッ!!」」「じゃあねセレネちゃん、中々楽しかったよー」
「えっちょ、飛び越えッ…!!まっ待てぇええッ!!」
††††††††††
「ん……」
出張所の薄暗い監房、そこに燐はいた。
先程まで燐は、勝呂の発言にキレて感情的になり、青い炎を人目構わず出していた。それを見たシュラに尻尾についている魔具の禁固呪を唱えられたが苦痛に耐え罵倒し、全く反省の気配も無かったのを見てサタンが手刀を入れ気絶させたのである。
燐は辺りをキョロキョロと見回していると、数人の足音が聞こえてきて、自身の牢の前で止まった。
「少しは頭冷えたか?」
「お前ら……」
そこにいたのは……サタンと藤本、シュラの三人だった。
「燐、体は平気か?」
「まだ力入んねぇけどなんとか……動けるよ」
『悪ィ力加減間違えたわ;』
「ドスッていったもんな、燐じゃなきゃあれ死んでたぞ絶対。もう少し考えてやれよ」
『煩ェホルスタイン苦手なんだよそういうの』
「あ゛?誰がホルスタインだって?」
「こんな時に喧嘩始めんなよお前らッ!!燐、お前に手紙が来てるぞ……勝呂の父ちゃん、達磨から」
燐が「は?」と言うと同時にバサッと羽の音が聞こえ、
通路の先を見てみると朱雀から降りるセレネとレイ、雪男の姿が。
…………というか通路にまで乗って入ってくるのはどうかと思うが、緊急事態なのでまぁ良しとしよう。
「藤本さんの部屋から持ってきました」
「おお、ありがとな」
「あと………枕元にあった薄い本の件について、
後で
じっくり聞きますからね?」
ゴゴゴゴ……「うぐっ見つかったかッ…!!まぁいい兎に角これ読めッ!!
中身草書みてぇだから雪男頼むッ!!」
そう言って藤本は雪男に手紙を渡し、
「じゃあ読みますよ」と雪男は手紙を読み始める。
初めまして、私は京都に住む坊主で勝呂達磨という者です。
何故この手紙を書いたかというと、君に大切なお願いがあるからです。
しかし、見知らぬ者からこんな手紙を貰って君も戸惑うことでしょうから、
まずは昔話をすることにします。そう、あれは君が生まれる少し前のことでした──……
To be continued…