第25噺「修学旅行の王道」
「…………」
事件の翌日、白鳥に憑依しているアスタロトは学園を散策していると、中庭の木の木陰で昼寝しているセレネを発見した。近寄ってみるとパンフレットを手に持っており、読んでいて途中で寝てしまったのだと推測出来る。アスタロトはチビと言って罵声を浴びせる普段とは考えられない程優しい手つきで髪を撫で、今のうちというように一頻り愛でる。
パンフレットは隣に置いといてやろうと掴んだ時、ふとセレネの手を見て気づいた。
………右手の甲に、自身の弟であるアマイモンの紋章が刻まれている。
今まではこんなものは無かった……恐らく最近アマイモンと契約したのだろう。心臓にある兄の契約印も、父の契約印替わりの噛み跡も、自分は何もせずに我慢しているというのにあの弟は………。
そう思うと苛々が募り、セレネに跨がり顔を近づける。
兄上や父上に遠慮している分、これくらいなら許してくれたっていいじゃないかと唇に噛みつく様なキスをしようとしたアスタロトは、濁った瞳でセレネを見つめていた。
※何度も言いますが悪魔に恋愛感情は無(ry
「ん………あれ、アスタロト?」
しかしその前に当の本人は起きてしまい、目をパチクリとさせながら「どうしたの?」と頭にハテナを浮かべるセレネ。アスタロトは誤魔化すように唇の上の……鼻にがぶりと噛みついた。
「痛っったぁあああッ!!」
「こんな所で寝てんじゃねぇよチビ、中途半端に開いてたらパンフレット飛ばされるぞ」
「あ、パンフレットで思い出したッ!!今日から任務で京都行くんだけど、お土産何がいい?」
「は?京都?」
第25噺「修学旅行の王道」
セレネside
―虎屋旅館―
「正十字騎士團日本支部御一行様、遠くからよう御越しやす。私この虎屋旅館の女将で御座います、ご逗留中は完全貸し切りにさせてもろてますんで、ゆっくりしとくれやす。ささ、どうぞ此方へ」
新幹線内でギスギスしながらも、京都に到着した僕らは美人な女将さんに案内されている最中だ。
良いなぁ旅館、老舗の雰囲気が良い味出てる。
え?獅朗ちゃん達はって?シュラ姉達はあの……昨日の夜色々あって……その……今バスの中で爆睡してるから起こさないであげてね//……って!僕あんまり“そういう”知識無いからこれ以上質問しないでねッ!!僕からのお願いだよ!!
「坊ッ……!?坊やッ!!」
「よう戻らはりましたなぁ!お帰りなさいませ!」
「へ?坊?」
「やぁこらめでたいわッ!!ちょっと奥に行った女将さん呼んで女将さんッ!!」
「坊ちゃんってまさか……此処の?;」
「やめぇッ!!里帰りやないで!偶々候補生の務めで……って聞けやコラッ!!」
「竜士ッ!!」
あ、さっきの女将さんだッ!!走ってきたんだね!
「あんた……」
感動の再開ってやつかな、良いなぁ青春だねぇ←なんか違う(ヾ(´・ω・`)
そう思っていたのだが、女将さんの反応は予想外のものだった。
「とうとう頭染めよったなッ!!将来鶏にでもなりたいんかいッ!!」
えええええええええッ!?
思ってた台詞と違うぅううッ!!
志摩ちゃんなんて「髪絶対言われる思た!」って笑ってるよ!!噴き出さないように必死に手で口元抑えてるよッ!!自分も染めたの言われそうな髪色してるくせに……;
「あんた二度とこの旅館の敷居跨がん覚悟で勉強しに行ったんやなかったんかッ!?ええッ!?」
「せ、せやし偶然候補生の手伝いで借り出されたゆうてるやろッ!?大体鶏て何やッ!!これは気合いや気合いッ!!」
「何が気合いやッ!!私が何の為に男前に産んでやった思ってんのッ!?許さへんでッ!!」
「………ここの息子だったんだね、竜君;」
女将さん怖いよ((((;゜Д゜)))、母親が怒るのってこんな感じなの?お姉ちゃん並みに怖い……;
「女将さん子猫丸です、ご無沙汰してました」
「どーも、女将さんお久しぶりですッ!」
「猫ちゃん!廉造も!よう帰ってきたなァ、無事で何よりや。竜土のお守りも大変やったろ!」
「お守り言うなッ!!」
良いねぇアットホームみたいな感じで、まぁ僕と他の候補生は蚊帳の外だけど(笑)
「あら、いやや私ったら!あちらは塾のお友達やね。初めまして、竜土の母勝呂虎子です。いつもうちの息子(坊)がお世話んなってます」
「やめぇッ!!///」
「母ッ!?え、この人勝呂の母ちゃん?美人だッ!!」
「ちょ、燐兄ストレート過ぎッ!!確かに美人だけどさッ!!」
「あー……旅館、坊のご実家なんや」
「えッ!?でも勝呂ん家、潰れた寺じゃなかったっけッ!?」
「だからストレート過ぎだってばッ!!ごめんなさいえーっと……虎、ちゃん?」
「ぶっほぉッ!!女将さん名前が可愛らしく…」
「ちょ、セレネッ!!おかんにあだ名は流石に…」
「まぁまぁ良ぇやないの!セレネちゃんて言うたかしら?あだ名なんて子供の頃みたいで若返った気分やわぁ」
「おかんが若返るて無理あるやろ「オホホ、なんて言うたかしら竜士?」な、なんでもないわ;」
そう言って女将さんこと虎ちゃんは、しゃがんで僕と目線を合わせて頭を撫でる。僕はそれが気持ち良くて目を瞑り少し俯く。ふぇーなんか落ち着く……お母さん独特の柔らかい雰囲気がしてつい眠くなっちゃうよ。
さて、旅館の人達へのご挨拶も済んだところで、そろそろ仕事に取りかかりましょうかね!
燐兄達は医工騎士の人達と此処の旅館に残り魔障者の看護をする為に奥へ移動し、僕はシュラ姉達と出張所の応援に向かった。
††††††††††††
―京都出張所―
「“明陀宗”って確か……“明王陀羅尼宗”っつう十年前に騎士團に吸収された宗派だよな」
出張所へ向かった僕らは、不浄王の右目を見せてもらう為に深部の奥へ進んでいく。
「はい、明陀宗は独自の教えを守る宗派で、仏に祈り教えを説くだけではなく、より魔を祓うことに特化した祓魔師集団……京都出張所の戦闘員の半数近くが明陀宗の者です。その組織制は世襲制で、戦士の血っていうんですか……それを守るんが大事らしいんですわ。」
青い夜以降総本山が潰れてしまい、大分小規模になってきているらしいが……今もその血を守る伝統が根強く残っているらしい。
その明陀宗の頭首が、座主血統の勝呂達磨大僧正……つまり竜君のお父さんだ。
教え上は皆竜君のお父さんの門徒ということになっているようだが、お父さんは説教するでもなし騎士團に入るでもなし、虎ちゃんの稼ぎで放蕩三昧……大僧正とは名ばかりの生臭坊主と言われているらしい。
竜君大変だなぁ、お父さんがそんなこと言われてるの耐えられないよね。
お父さんがそんなだから当然下はモメるようで、大僧正に代わって門徒を纏める僧正血統の志摩ちゃん家と宝生という家が仲が悪いと評判らしい。
「へぇ、なんかスッゴいややこしいことになってるね……なんか複雑;」
「はい……さぁ此方へ」
「フン、……これが不浄王の右目か」
案内してもらった先にあったのは、禍々しい雰囲気を帯びた真っ黒い目玉だった。
To be continued…