第1噺「魔神との契約(前編)」
「正十字学園町の南十字付近にて屍や魍魎等の腐の眷属が大量発生していますッ!!」
「クソッ聖水もキレちまったッ…!!おい、早く特例祓魔師を呼べ!!この状況ではあの子が一番適任だッ!!」
「只今連れてきました!!」
ガチャリと近くの扉が開き、奥村雪男はそう言いながら幼い少女を連れて此方に向かってくる。
「こんな小学校卒業したての少女が……?」と誰もが思うであろう幼い少女は、こう見えて特例祓魔師をやっている歴代最年少の祓魔師だ。
「…ってさっきより増えてませんッ!?」
「わぁーマック〇クロスケがいっぱいッ!!」
幼き少女セレネは、悪魔が大量発生しているという状況にもかかわらず、キラキラした瞳で悪魔を見つめている。その表情には、誰もが持つであろう悪魔への敵意は感じられず、好奇心だけが見えていた。
「そうだよだから困ってるんだよッ!!こんなんじゃ埒があかねぇッ!!嬢ちゃん、また頼んだぜ!」
「おっけーべいびー!!」
「何故昔の海外ドラマのネタを知っているんだ。何処のミ〇ェルだ」
セレネは大きく深呼吸し、悪魔達に向かって大声で叫んだ。
「マック〇クロスケ出っておっいでーッ!!出っないと目玉をほっじくっるぞーッ!!」「「「いや魍魎だから」」」第1噺「魔神との契約」雪男side
その場にいた全員がツッコミを入れたその時、魍魎がセレネの周りにワラワラと集まり始めた。
「……マジかよ。」
「やっぱ可愛いなぁマック〇クロスケ、特に猫耳が生えてる所。」
「大量の魍魎に囲まれてカオスな状況なのに可愛いと言えるセレネって凄いと思うよ。」
「だって可愛いもん、部屋でも三匹飼ってるよ?ポチとタマとミケ。」
「飼ってるのッ!?しかも名前つきッ!?」
「……………この子将来大物になるぞ、てか今もある意味そうか。ム〇ゴロウにでもなるつもりか?」
先輩は頭をガシガシとかきながら、セレネの頭をポンポンと叩く。
「うわ、先輩……集合して巨大化しましたよ奴等。」
「うおぉ……量が量なだけにデケェなぁ……ゴ〇ラみてぇだな。何処の妖怪大戦争に出るつもりだよ、お前のサイズほどデカい悪魔は滅多にいないっつーの」
「じゃあ怪物はやっつけないとねッ!!」
「おお、頼んだぜー嬢ちゃん」
セレネは「はーい!」と元気良く返事をし、背負っていたランドセルからジャキッとバズーカを取り出す。
…………そんなものが何故ランドセルに収まったのかが謎だ。
「セレネ、行っきまーすッ!!」
そう言って、セレネは集合して巨大化した魍魎の顔面に向かって、バズーカを発射した。
ズガァァアアンッ!!「たーまやー!」
……ていうか何処のア〇ロだよ。
そんな声が画面の向こうから聞こえてきそうな中、魍魎の顔は崩れ落ち「ギャァアアッ!!」という悲鳴があがる。
セレネはすぐにバズーカからガトリングに変え、パニック状態になっている魍魎に容赦なく弾を連射していく。
ズガガカガガッ!!ドドドドドドッ!!ガシャコンッズガガカガガッ!!「ふぅ、お掃除完了!」
「相変わらずスゲェな嬢ちゃん…」
「こんなに小さい体で何故あんなに大型銃火器を使いこなせるのかが謎だ……」
「あ、先輩方ッ!!屍二匹残ってますよッ!?」
「やっべ忘れてた」
「忘れてたって…先輩……;」
「じゃあ僕が飼うよッ!!」
「「「……は?」」」
その場にいた祓魔師全員が呆けた顔でセレネを見つめる。
「いや飼うって…何言ってるのセレネ、悪魔だよ?普通の犬とは違うんだよ?小さい魍魎とは訳が違うんだよ?」
「大丈夫、家でも他に悪魔飼ってるから。小鬼も猫又もいるし」
「………この子は悪魔飼育員にでもなるつもりか?;まぁ嬢ちゃんが大丈夫なら良いけどよ…」
「やった!じゃあたっちゃんかっちゃん宜しくね!」
「何故某野球漫画の双子なんだセレネ;」
「あれ、お前サンデー派だっけ?俺ジャンプ派で候(そうろう)」
「いえSQ派です」
「というわけで、僕の家の地下室まで屍連れていってねアスタロト!」
「参りましょう若君……ってはぁッ!?おい空気読めチビ折角探し当てたってのによぉおおッ!!」
セレネは腐の王を軽々と喚びだし、屍を地下室まで運んでおいてほしいとお願いする。あくまでもお願いである、命令は正式な使い魔にしかしない主義らしい。
アスタロトはどうやらお取り込み中だったらしく、セレネに向かって怒鳴っている。
「まぁまぁ、自分の眷属なんだから良いでしょ?」
「チッ…最下級悪魔とはいえさっきまで俺の眷属を殺してたクセによく言うぜ。分かったよやりゃあ良いんだろ?」
「ありがとアスタロト!他の人に何を言われても僕は好きだよ………君の眷属!!」
「………お前ホントに骨の髄まで喰うぞこの野郎、男の俺に最後の言葉は余計だチビ」
そうブツブツと文句を言いながらも、アスタロトは屍達を連れていった。……なんだかんだ言ってお願いを了承する辺り、根は良いやつなのだろうか。いや、ただの苦労人か?
他の祓魔師達は今の出来事に驚き固まっているが、僕はセレネの滅茶苦茶な所を知っている為、眉間に寄った皺を指で解しながら溜め息をつくだけである。
「セレネ、いくら召喚出来るからって公共の場で堂々と八候王を召喚するのはどうかと思うよ?ほら、皆固まってるじゃないか」
「はーい、以後気をつけまーす」と言いながら大型銃火器をランドセルへ仕舞うセレネ。全く反省してないなアレは……ていうかホントそのランドセルどうなってるの?;
「じゃあもう任務は終了ってことで良いんだよね?」
「うん、もう悪魔はいなくなったし、後は結界の補強だけだからセレネは先に終わって良いよ。」
「やった!じゃあメフィストに報告宜しく!僕今から修道院行ってくるッ!!燐兄達に会いにいくんだッ!!」
「じゃーねー」と言いながら走っていくセレネに「分かったー」と言って、ふと気づく。
「まってセレネ、たしか今日兄さんは面接に……って、もう遅いか。」
走っていって見えなくなったセレネの方角を見て、僕は再び溜め息をついた。
††††††††††
セレネside
「♪:奥むーらー兄弟はー修道院で〜
♪:大きーくーなったーらー何にーなーる〜」
僕は替え歌を歌いながら、上機嫌で南十字修道院へ向かう。そういえばアスタロトは僕が召喚する前は何やってたんだろうか、若君とか言ってたけど……今度聞いてみよう。
「♪:兄ーのー場合ーはーシェフにーなーる〜
♪:悪魔ーはー悪ー魔っ サッタン♪」
丁度句切りの良い所まで歌い終わったと同時に、修道院の扉をバァァアアンッ!!と勢い良く開ける。
「獅ー朗ちゃーんッ!!あっそびっましょーッ!!」『なーんつってなァッ!!ギャーッハッハッハッ!!!』「…………………ん?;」
おかしいな、獅朗ちゃんが青い炎纏ってるよ。
あれぇー変だなぁー目から血が出てるよー拭こうよ獅朗ちゃーん…………ねぇ、誰か嘘だと言ってよ、だってそんな…あの獅朗ちゃんが………。
そう思いながら現実逃避しようとしても、現実は待ってくれない。
長い耳、鋭く尖った爪、犬歯が伸びて出来た牙………
その姿は、悪魔そのもの。
僕の声に反応して、獅朗ちゃんに憑依している“何か”がクルリと振り返り、僕を見てニヤリと嗤った。
『俺はサタン、悪魔の神様だ』To be continued…