第13噺「お泊まりドッキリ大作戦(後編)」
―翌朝―
「…これでもう大丈夫。あと2〜3日もすれば、熱も引いて動けるようになりますよ」
「……ありがとうございます、
時渉先生奥村先生」
「いえ、生徒の怪我を治すのは
教師として当然のことです」
「それじゃあ、安静にしていて下さいね。
行きましょう時渉先生」
「お大事に!」
「ありがと奥村君」
奥村兄弟とレイは部屋から出ていき、女子部屋に残るは朴と神木の二人だけになった。
「ふふ、可愛いね……奥村君て格好よくない?」
「はッ!?どっ…何処が……急に何言い出すのよッ!!」
「奥村先生も素敵だよね、時渉先生とお似合いだし……なんか恋人っていうより熟年夫婦みたい」
「………それは否定しないわ;」
会話はそこで途切れ、暫し無言になる。
神木が気まずいと思う中、朴は神木に話し出した。
「出雲ちゃん……私やっぱり塾やめるね」
「…ッ!!ご、ごめんね……無理に塾誘ったりして……」
「もう…何言ってるの?私は出雲ちゃんの気持ち分かってたから自分で入ったんだよ、出雲ちゃんが誘わなくても私は自分の意思で入ってた。だって、出雲ちゃんを一人にするのは不安だったから……でもね?やっぱり私にはこの塾、単純に世界が違うなって思ったんだ。これ以上私はこの塾に着いていけないと思ったからやめるの、だから……そんな顔しないで?」
―私はいつもの出雲ちゃんが大好きだよ―
†††††††††††
セレネside
「……ん…」
朝、いつもより少し早い時間に起きると、さっちゃんが僕を後ろから抱き締める形で寝ていた。無意識なのか、自身の尻尾を僕の尻尾に絡めている。
「………」
最近、僕は疑問に思うことがある。
さっちゃんが段々僕に執着してきてる様な気がするんだ。元々僕が契約を持ちかけたことに面白がって了承しただけな筈なのに、最近は何て言うか…その……嫉妬って言うのかな?;
ちょっと悪魔に傷をつけられただけで怒るし、そこに上書きして噛み付いたりするし。この間の蝦蟇の時だってそうだ、普通悪魔が子供の体洗ったりする?しかもあの魔神がだよ?
ゲームでいうと魔王だよ?
人類初だよね、ギネスに載れるんじゃないかな?
いやバレる上にそんなギネス嬉しくないけど。
メフィストやアマイモン達もそうだけど、どうして僕に執着するのか分からない。どんな悪魔でも喚び出せるから?いや、それだけじゃ理由にならない。僕のこと面白いって皆言うけど、自分ではよく分かんないなぁ……画面の皆もそう思う?
『…………お前さっきから何悩んでんだ?』
「うわぁああさっちゃん起きてたのッ!?」
『お前が起きる少し前にな。』
「だったら最初から言ってよ……;」
僕の後ろで欠伸してるさっちゃんを見て、なんかさっきまで考えてたのが馬鹿らしくなってきた。まぁいっか!それで考えを終わらせるのが僕だよね!子供は子供らしく本能で動くのが一番ッ!!
『そういや昨日聞きそびれたけどよォ、あの糞犬の飼い主は誰だ?手騎士だろ?』
「うん、塾の講師なんだけど……ネイガウス先生って覚えてる?」
『お前がスネ〇プとか言ってるあの眼帯野郎か』
「そうそう、あの人だよ。まさか呪印つけられるなんて思わなかったけどね………ていうかそろそろ離してよ、着替えて食堂に行かなきゃ」
『チッ、仕様がねェなァ……』
さっちゃんは渋々といった感じでベッドから降り、漸く解放された僕は制服に着替え、さっちゃんと共に部屋を出た。
『眼帯野郎いつか絶対シメる』
「ちょ、根に持ってたのッ!?せめて正体バレないように程々にしてねッ!?」
††††††††††
レイside
―体育実技―
「――……では今日はここまでにします、皆さん最初に比べて大分体力ついてきましたね。
ですが未々です、どんな状況にも対応出来るようにする為に、運動を怠らないようにして下さい。はい、解散」
他の生徒がその場を去るのに続いて神木も帰ろうとしていたので、私は神木を呼び止めた。
「ああ、神木さんは残って下さい。少しお話があります」
「え……は、はい。」
私が静止の声をかけたことにより、神木はその場に留まった。全員が旧男子寮へ帰っていく中競技場で二人きりになった空間は、シンとした静寂に包まれている。
「先生…なんですか話って……?」
「………神木さん、今日一日中ずっと上の空だったようですね。」
「なッ…!!なんでそれをッ……」
「他の先生方に聞きました、やはり……昨日の事が原因ですか?」
そう、昨日朴を守ると言っていた辺りから可笑しくなったあの出来事である。恐らく神木がこの間の授業で言っていた、「あたしの我が儘で塾に参加している」という事に関係しているのだろう。
確かに朴はこの塾では浮いている、彼女はどう見ても悪魔祓いとは無縁の一般人だ。
「…………………先生には、関係ありません」
「あら、先生である私に反抗するとは図星なようですね。普段優等生の貴女では考えられない返答です。」
「なッ……いいからあたしに構わないで下さいッ!!これはあたし一人の問題なんですッ!!」
「貴女一人の問題ではありません。手騎士希望の貴女が心を乱せば、使い魔が暴走する。それがどんな事態を産むか、今回の件で痛いほど分かった筈ですよ。」
「……ッ!!」
そう言われ苦い顔をして俯き、黙りこむ神木。
彼女がそれを深く反省していて、プライドも気づついていた事も知っている。それでも、この先の言葉を言わなければならない、私はそう確信しているのだ。
彼女をこのままにしてはいけないと、私の中の本能がそう告げているから。“彼女を孤独にしてはならない”……何故か分からないが、私はそう思った。
「貴女はあの時、“もう独りになりたくない”と小さな声で言っていました。きっとあれは貴女の本音だったのでしょう」
「なんであんな独り言聞こえてるんですかッ!?」
「地獄耳だからです。……しかしそう思っていながらも、貴女は何故か他の生徒に歩み寄ろうとしない。朴さん以外に友人を作っても良い筈なのに、貴女は意図的にそれをしようとしません。」
「…………」
そこから考えられることは、”情が移ることを恐れている”ということ。自分の弱味をあまり作りたくないということだろうか、だとすれば………何者かに狙われているのか?一人ではなく複数、組織等の可能性が高い。どちらにしろ彼女は何があろうとも、現段階では言おうとしないだろう。
どうしたものかと溜め息をつき考えていると、ずっと黙りこんでいた彼女は漸く顔を上げた。
「………先生、どうして?どうして貴女達姉妹はそんなに私を気にかけて来るんですか?」
「そりゃあ貴女が好きだからに決まってるじゃないですか」キッパリ
「へッ!?なっななななななんッ……!!///」
正直な気持ちをハッキリと言うと、神木は顔を茹で蛸の様に真っ赤にして吃りだす。私達は神木の事を好いている、好意を抱いている人のことが気にならない人などいないだろう。
「なっなな何言ってんのよあんたッ!!あたしは女「漸く素になってくれましたね」へ?あっすみません敬語忘れてッ……」
「いや、敬語は必要ないから。素のままで良いよ出雲」
「え、名前ッ……///」
「私は大好きな出雲と友達になりたい」
「大好きってそんな…あっなんだビックリした友達ね………ってええッ!?とっ友達ッ!?///」
「駄目?」
顔を真っ赤にしたまま慌てふためく出雲にキョトンと首を傾げると、出雲は頭から煙をボンッと出した。
「なッ……!!そっそそそんな……友達になんかなるわけないでしょこの馬鹿レイッ!!これだから無自覚タラシは嫌よッ!!///」
そう言って出雲は耳まで真っ赤にして、競技場から走り去ってしまった。
「無自覚タラシ………?」
なんのことだかサッパリ分からん。
しかしさっき出雲は………
―この馬鹿レイッ!!―
「………………少しはデレてくれたのかな」
そう呟いて、私は広い競技場の中クスリと一人で笑った。
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※↓からは番外編の「トリックスターは語りだす」と一緒に読んだ方が分かりやすいと思います。
セレネside
ギィイイ………
「……昨日つけられた尻尾の“コレ”について聞きたいんだけど、良い?………スネ〇プ先生。」
「だからそのあだ名で呼ぶなと何度言ったら分かるんだ……セレネ。」
地下室でスタンバイしているスネ〇プ先生の元に一人でやって来た僕は、パタンと扉を後ろ向きで閉める。
「なんで僕に退魔の呪印なんか着ける必要あるの?僕は今回のドッキリに基本参加せずに傍観してるって会議で言ってたよね?」
「念の為だ」
「メフィストから着けるって指示されてる訳でもないのに?」
「………念には念を、というヤツだ」
「嘘だ、本当はこうして僕が訪ねて来るようにしたかったんだ。何か僕に言いたいことあるんでしょ?」
「……………フン、子供の割には勘が良いな。退魔の呪印だと何故分かった?」
「さっちゃんが教えてくれたからね」
「あの猫又か……奴はどうも好きになれん、嫌な奴と笑い方が似ている」
「(そりゃ本人だからね)さっちゃん好かれないなぁ………って話ズラさないでよ」
ツッコミを入れるとスネ〇プ先生はフッと笑い、漸く本題に入った。
「単刀直入に聞くが…………何故お前は、あの胡散臭いフェレス卿と生涯共にいることを望む?奴は悪魔だ、利用されていると思わんのか?」
あー、そのことか。
そういえば獅朗ちゃんにも聞かれたことあったなぁ………しかもメフィストの目の前で。「こんな歳が幾つかも分かんねぇ爺と一生傍にいるとか本気か?」って。
「メフィストが僕を利用してないのは一目瞭然だよ、あそこまで僕に執着するくらいだし。それに、もしメフィストが利用してるっていうなら、僕もメフィストを利用してることになる。」
「…………どういうことだ」
「僕は………独りになるのが怖いんだ。」
そう言って僕は俯いてしゃがみこみ、足元にいたタッチャンを撫でる。手を舐められてちょっとピリピリするけど、僕はハーフだからあまり害は無い。
生まれた時から一人になるのが怖かったことをメフィストの知り合いの悪魔に伝えると、前世がどうのこうの言っていたが僕にはよく分からなかった。
「だから僕は仲間を作る、大切な仲間を増やしていく。種族なんか関係ないよ、悪魔にだって人と同じ様に色んな性格がある。人間と似た様なものさ、悪魔が仲間だから仲魔ってね!」
「シャレを言うなアホかお前は、悪魔と仲間に……?何を言っている、奴等は私達と相容れぬ存在だ。人間に似るわけがないだろう人を襲うことしか能の無い奴等が。」
「だから悪魔にだって性格が違うって言ってるでしょ?大人しい子だっているし活発で人懐こい子だっている、人間にも人を殺すのを楽しむ快楽者がいるのに種族で差別するなんて可笑しいよ。良い奴だって沢山いるのに」
「お前だって家族を悪魔に殺されたんだろう!?しかもサタンにッ!!なのに何故悪魔を憎まないッ!?」「だって全ての悪魔が悪いわけじゃないし。その時悪いことをしたとしても、もし心の底まで腐ってなくて根が良い奴なら、僕はソイツを受け入れて信じるよ……
例えそれがサタンだとしても、ね」「…………ッ!!貴様ッ!!」「!!」
スネ〇プ先生の癇に障ってしまい、胸ぐらを掴まれそうになった僕は反射的にギュッと目を閉じた。
しかし来ると思っていた衝撃は無く、誰かが後ろから首根っこを掴んで僕を引き寄せる。
「へ……?さっ……ちゃん?」
『よォ眼帯、“オ騒ガセ”したみたいだな』
そう言ってさっちゃんは、スネ〇プ先生を見てニヤニヤと口角を上げ笑っていたが、目は氷のように冷えきっていた。
『そろそろ燐が来る頃だぜ、じゃあな眼帯』
「なッ…おい待ッ………!?」
スネ〇プ先生は僕らを追ってこようとしたが、地下室の隅で固まっていた悪魔達が一斉に僕の周りを囲ってバリケードになり、先生が来れないようにする。
「何ッ!?貴様らッ…!!」
『ギャハハハッ!!見てみろよ眼帯、空気読める奴等だろ?悪魔も捨てたもんじゃねェよなァ、
人 間 さ ん ?』さっちゃんはそう言っていつもの笑いかたをし、後ろ手で開けた扉の向こうにいた燐兄の青い炎が丁度バックで燃えていて、その時浮かべたさっちゃんの悪どい笑みはとても様になっていた。
(サタン………?)
「………いや、幾らなんでもあり得ない……か。」
サタンを見て昔の光景と重なって見えたネイガウスだったが、物質界に来れるわけないと思い直し、サタンと入れ違いで入ってきた目の前にいるサタンの息子に向き直った。
††††††††††
―ドッキリネタばらし―
「ゆ、雪男!そいつ敵ングッ!?」
「おや失敬☆」
ネイガウスの正体を雪男に教えようとした燐だったが、突如天井から現れたメフィストに背中を踏まれ、それは叶わなかった。
「ハーイ訓練生の皆さん、大変お疲れ様でしたー☆」
「メ、メフィストッ!?」
「あれっ…て、理事長か…?」
「どういうこと?」
「フッフッフ、この私が中級以上の悪魔の侵入を許すわけがないでしょう!」
メフィストは悪戯に成功した子供の様な笑みを浮かべ、パチンと指を鳴らす。その音を合図に壁・押し入れ・床と様々な所から先生達が現れ、その中に混じっていたセレネが「ドッキリ大成功☆」と書かれたカンペを持ってメフィストの隣に並ぶ。
「まさかッ……!?」
「ドッキリ……やと!?」
「そう、サプラーイズッ!!
なんとこの強化合宿は、候補生認定試験を兼ねたものだったのですッ!!合宿中は其処彼処に先生方を審査員として配置し、皆さんを細かく審査していました☆」
「おっおい雪男お前……」
雪男は燐の視線から逃れるようにフイッと視線を反らし、華麗にスルーして他の塾生にワクチンを注射していく。
「あれ、カンペ持っとるゆうことはセレネ……お前もグルやったんかッ!?」
「なんでやセレネちゃんッ!!セレネちゃんは俺らと同じ塾生やろ!?なんで先生達に紛れとるんッ!?」
「いやぁごめんね皆、実は……;」
「セレネはこの日の為にだけ入塾させた、私の補佐です☆生徒の傍で過ごす方が逐一審査出来ますからね!」
「は……?ちゅうことは……」
「理事長=支部長=支部長の補佐………?」
「そういえば聞いたことありますわ、支部長補佐は歴代最年少の子供祓魔師で物質界一の手騎士、通称“召喚士”って………」
「…………てへ☆」
「「「「ハァァアアアッ!?」」」」
その後彼女は質問攻めにあったそうな。
↓おまけ後日談
ガラリと教室の扉を開け、教壇へ足を進めるセレネ。
「皆やっほー!改めて、今日から魔法円・印象術を担当することになった特例祓魔師の時渉セレネです!
これから宜し………」
「「「「…………………」」」」
小学生の身長では教卓は高過ぎたようだ。
「うぇええん……恨むよ身長ぉお………」
「おい誰かミカン箱持ってこい」
To be continued…