第6噺「寺生まれの坊ちゃん(中編)」
セレネside
―中庭―
「…アイツ何なんだ?頭良いのか?」
「秀才だよ、僕と同じで奨学金で入って来てるしね」
塾の3時間目が終わり、今は休み時間。
僕らは中庭で先程の件について話していた。
「勝呂竜士君。京都の由緒あるお寺の跡継ぎだって聞いたけど……
成績優秀で身体能力も高く、
授業態度も真面目。少なくとも
兄さんよりは努力家だ。いっそ兄さんは彼の身体中の垢を煎じて飲んだ方がいい。」
雪兄は燐兄にチクチクと言葉の棘を刺す。「そんなことより」と雪兄はしーちゃんの方を向き話しだした。
「しえみさん、塾には慣れましたか?」
「えっあ……ま、まだ全然…」
「昔のしえみさんを知ってる僕から見たら、今のしえみさんは見違えるみたいだ。焦らず頑張って下さい。」
「うん!ありがとう雪ちゃん」
「じゃあ僕は次の授業があるからここで…「ちょっと待て雪男」」
雪兄が中庭から去ろうとした時、燐兄が制止の声をかける。雪兄はきょとんとした顔で「なんだい兄さん?」と燐兄の言葉を待つ。
「あのさ、この後親父と会うんだろ?だったらその……
“さっきは庇ってくれてありがとな”って……伝えといてくれねぇか…?」
と、燐兄は恥ずかしいのか照れくさそうにそう言った。
しかし、雪兄の答えは……
「嫌だね」にっこり即答だった、その間僅か0.2秒。
あまりの即答ぶりに二人は固まっている。
「はぁ!?なんでだよ!?」
「そういうのは本人に直接言わないと駄目だよ兄さん、きっと喜ぶよ?父さん。」
「だからそれが目の前で言い辛いから言ってんのに…」とブツブツ言っている燐兄を見て、雪兄は微笑ましそうに笑いながら、「次の体育実技の授業、遅れないようにね」と言って去っていった。
それと同時に、「……ねぇ、二人共…」としーちゃんが僕らに話しかける。
「私が塾にいるのってやっぱりおかしいよね?」
あぁそっか、しーちゃんは祓魔師を目指してるワケじゃないもんね。鶏冠君の発言を気にしてたのか。
「良いよ別に、色んな人がいるんだし大丈夫だよ!」
「……じゃあ、お友達いる?」
「は?」
「僕沢山いるよ!主に悪魔だけどね!」
「お前それで良いのか?;」って燐兄が隣で言ってるけど無視。それでって何さそれでって、人間も悪魔も同じ生き物なんだから皆分けなくていいのに。
動物とそんなに変わらないよ僕らも悪魔も。
全ての悪魔を敵視する奴の気持ちが分からない、ライオンなんて自分の子供達を「跡取り息子を選ぶ為」とか言って崖から突き落とすんだよ?一部の鳥なんて自分の雛が巣から落ちたら放置するんだよ?
悪魔なんて自分の欲に忠実なだけだよ、僕ら人間とあまり変わらないじゃないか。
「あ、あのね!り、燐…セレネ…私と……」
「?」「えっ!?」
僕がきょとんとしている隣で燐兄が顔を赤くしていると……
「おーおーおーイチャコライチャコラ…!!」先程話していた人物である鶏冠君が、眼鏡坊主のお兄さんとピンク頭のお兄さんを連れてやって来た。燐兄は動揺して物凄く回転しながら「だっだだだだ誰がだゴルァアッ!!」と言いながら振り向く。
「プククなんやその娘お前の女か?それにちっこい妹まで……世界有数の祓魔塾に女・家族連れとは、余裕ですなぁ?」
「だからっ…そういうのじゃねぇってッ!!関係ねぇんだよッ!!」
「じゃあなんや、お友達か?え?」ニヤニヤ
「確かに燐兄は僕にとってお兄ちゃんみたいなものだけど、家族ではないんだけどなぁ……」
そう呟くと、ピンキーが「え、妹ちゃうの?」と聞いてきた。
「うん違うよ、僕の家族はお姉ちゃん一人だけだもん」
「…………なんか、嫌なこと思い出させてしもうて堪忍な。俺は志摩廉造や、よろしゅう」
「いや大丈夫だよ気にしてないから!僕は時渉セレネ、宜しくね志摩次郎!」
「ちょっ…!宛字な上にしまじろうはないやろ!?」
「面白いあだ名考えはりますね、僕は三和子猫丸いいます」
「え、三和子?」
「名前とくっつけて女の子みたいにするのやめたってッ!!あと志摩さんも吹かんといて下さいッ!!」
僕らが笑っていると鶏冠君と燐兄は毒気が抜かれたのか、空気が少し柔らかくなる。
「ほら、坊も自己紹介しはって下さい!」
「お、おん…俺は勝呂竜士や、コイツらからは坊言われとる。よろしゅうな、セレネ」
「うん、宜しくね竜君!!」
「ぶっはッ!!竜君て!!坊が竜君……あっはははッ!!」
「笑うなや志摩ッ!!セレネ、他に呼び方は無いんかッ!?」
「うーんと……じゃあ坊ちゃんッ!!」
その時全員の脳内で再生された声……
【麦ちゅわぁあん迎えに来たわぁぁああんッ!!】「ぶふッ!!…あかん俺もう耐えられへんッ…!!」
「志摩さん我慢やッ!!笑うたら坊に往生されますよッ!!」
「もう良えわ竜君で……;」
竜君は僕に何を言っても無駄だと悟ったのか、溜め息をついて諦める。すると、先程まで僕の言ったあだ名に大笑いしていた燐兄が竜君をからかいだす。
「ぶっはははッ!!竜君っ……!!お前にはピッタリのあだ名じゃねぇかッ!!いっつも取り巻き連れやがって!!身内ばっかで固まってんな、格好悪ぃんだよッ!!」
「ブフォッ!?」
「なんやてぇえッ!?…って志摩笑うなッ!!」
「いやぁそうやなぁ思て…!!ブフッ…ククッ……」
「何納得してんのやッ!!」
ヤバい、これ以上二人に会話させてたら授業始まっちゃうよ。そう思って僕は皆を急かして其々更衣室へ向かった。
―体育実技―
ドドドドドド……
「「うぉぉおおおおッ!!」」今回の体育実技は蝦蟇との追いかけっこ、というよりスタミナ作り。現在燐兄と竜君が走っているが、燐兄の方が速いようだ。まぁ仕方ないよね、悪魔なんだから人間の体力と比べたら駄目だよ。
「遅ぇ遅ぇキヒヒ!!頭ばっか良くても実戦じゃ役に立たねぇんだよッ!!」
「…くッ!!実戦やったら………勝ったもん勝ちやぁああッ!!」
竜君はそう叫んで燐兄に飛び蹴りを喰らわせる……ってあああッ!!蝦蟇近くまで来てるって竜君危ないッ!!
僕は急いで二人の元へ駆け寄り(さっちゃんが僕の頭から落ちたけど気にしない)、蝦蟇に叫ぶ。
「竜君を食べちゃ駄目だよ蝦蟇!!美味しくないよッ!!ほら僕と遊ぼうよおいでッ!!カモンッ!!」
そう叫んで両手をバッと広げると、蝦蟇は目をキラキラさせて嬉しそうに僕をカプリと加え口の中へ。
「「うわぁああセレネがぁあああッ!!」」「ぎゃぁぁああ蝦蟇出してぇえええ洒落にならないよ遊びじゃすまないよぉおおおッ!!」「何やってるんだね君達ィィイイッ!!」蝦蟇は僕にじゃれているつもりらしいが、それどころじゃないッ!!ヘタしたら飲み込んじゃうんじゃないのこの子ッ!?
そう思いながら必死に外へ出ようとしていると……
『おい糞蛙』
蝦蟇はその声に振り向いた瞬間、その人物にガッ!!と力強く頭を鷲掴みされる。
『俺のもんに手ェ出したらどうなるか……
分かってるよなァ?』さっちゃんは力任せにグイッと蝦蟇の口を抉じ開け、僕を引きずり出して抱き止める。
『さァどうしてやろうか、ミンチにしてハンバーグにでもなるかァ?』「さっちゃんストップ!!人前でグロいのは駄目だよッ!!」
『チッ……命拾いしたな糞蛙。あとお前、帰ったら即行で風呂な』
そう言ってさっちゃんは皆のいる方へ戻る。
ふと見ると、普段家で見ている燐兄以外の皆はさっちゃんを見て呆然としている。
そりゃそうだよね、猫又が人型になる姿なんて中々見れないよね。
猫丸君は「猫又の可愛いイメージが…」と呟き項垂れ、他の面々は「猫又の人型初めて見た…」と驚いている。
シャンプーみたいな名前の先生はハッとした後竜君だけを呼び出して、燐兄と僕は皆の元へ戻っていく。
「なんで竜君だけ…?」
「つーか何なんだよアイツ…」
「ハハハ、堪忍なぁ。坊はああ見えてクソ真面目過ぎて融通聞かんとこあってなぁ……ごっつい野望持って入学しはったから」
「「野望?」」
「坊はな、“サタン倒したい”言うて祓魔師目指してはるんよ」
「「!!」」
その言葉を聞いていたさっちゃんは、新しい玩具を見つけた子供の様な笑みを浮かべていた。
To be continued…