第3奏
セレネside
――嘘だッ!!ソイツは嘘をついているッ!!!
突然の大声に驚き、全員その声が聞こえた方向を向くと、男が立っていた。
男は二人組らしく、一人はぐったりとしていてピクリとも動かない。もう一人は中肉中背の平均的な体格の男で、ぐったりとした男を引きずっている。
「ソイツは偽者だ、試験官じゃない!!俺が本当の試験官だッ!!」
周りがどよどよと騒ぎ始めた。
――偽者!?どういうことだ!?
――じゃあコイツは一体……!?
と、レオリオとハゲた忍者……ハゲチャビンがサトツを疑いだす。
「………嘘つき。」
僕は男の方をジッと見つめ、ボソリと呟いた。
その呟きを聞いていたゼロから「どうした?」と聞かれたが、僕は「なんでもないさ」と言って笑い、誤魔化した。
「これを見ろ!!ヌメーレ湿原に生息する人面猿!!」
男はぐったりとした男をドサッと地面へ降ろす。
よく見ると、ぐったりしていたのは人ではなく人面猿だった。
「人面猿は新鮮な人肉を好む……俺達人間の言葉を巧みに使い湿原に連れ込み、獲物を生け捕りにするんだッ!!ソイツはハンター試験に集まった受験生を一網打尽にする気だぞッ!!!」
サクッ…
「……え?」
突然飛んできたトランプが男の顔に刺さった。
刺さった箇所から血が吹き出し、そのまま地面へと倒れ動かなくなる。
シュッ
「うわぁぁああッ!?」
トランプは何故か僕の方にも飛んできて、僕は慌てて右に避けた。
ちょっと頬にかすってしまったが、血は出ていないので良しとする。
「おい大丈夫か!?」
「うん、ちょっとかすっただけ!」
隣にいるゼロに平気だと告げ、トランプを飛ばしてきた張本人である兄の方をキッと睨み付ける。
そんな兄はニコニコしながら、先ほど僕に飛ばしたトランプを指差す。
そのトランプはなんのへんてつもない普通のトランプ。
…………何故ハートのエースなのかは触れないでおこう。
「ん……?」
僕はそのトランプに違和感をおぼえ、“まさか…”と思い凝をしてトランプを見る。
…………思った通り、トランプには念字が書かれていた。
――あまりゼロと仲良くしすぎると、僕ヤキモチやいてゼロ殺しちゃうよ?――
「えええええ!?!?」
「どうした!?」
「いや、このトランプ凝をすると……」
「え………はぁああッ!!??」
ゼロは僕の言われた通りに凝をしてトランプを見ると、あまりの内容に後ずさる。
僕はメッセージに驚き、思わずバッと兄の方を凝視した。
兄は僕の反応を見て「クックック◆」と楽しそうに笑い、サトツの方を向く。
「これで決定、そっちが本物だね◇」
サトツは先ほど兄が飛ばしたトランプを、
指に挟んでキャッチしている。
「試験官というのは、審査委員から依頼されたハンターが無償で任務につくもの◇
僕達が目指すハンターの端くれともあろうものが、あの程度の攻撃を防げないわけがないからね◆」
サトツはキャッチしていたトランプをピンッと指で弾き、地面へと落とす。
「誉め言葉として受け取っておきましょう。しかし、次からは如何なる理由でも、私への攻撃は試験官への反逆行為とみなして即失格とします………宜しいですね?」
「はいはい◇」
「それではまいりましょうか………二次試験会場へ。」
――受験生311名 ヌメーレ湿原へ突入。
††††††††††††
セレネside
ヌメーレ湿原に入った僕達は走り出した。
ゼロと僕は最前列と最後列の中間を走っている。
暫く走っていると濃い霧が出てきた。
僕達のすぐ前方を走る受験生すらよく見ないと見失いそうだ。
そんな中、「ぎゃぁああッ!!」と悲鳴があちこちから聞こえ始める。先ほどまで見えていた前方の男も、隣から突然やって来た巨大な蛙に飲み込まれた。蛙はそのまま口を開けて僕達に向かってくる。
「……セレネ」
「了解」
僕達はふわりと蛙の頭上へジャンプし、蛙の頭をブギュルッと踏んで地面へと着地し、そのまま走る。
「おー、ナイスセレネ」
「これくらい出来て当然さ!」
話している最中に、右側からカオ〇シの様な生物が「グォォオオッ!!」と叫びながら物凄いスピードで此方へ向かってきたので、僕は[風の女神]……アウラを発動する。
[鎌鼬]
僕はアウラでカオ〇シの様な生物に風の刃を造って飛ばし、カオ〇シの様な生物の体をスパッ!!と真っ二つに切断した。
「へぇー、それがお前の能力?」
「うん、風を操る能力だから色んな事に使えて便利なn… ヒュッ うわぁぁああッ!?」
自身の念能力について説明しようとしていると、前方からトランプが三枚僕に向かって飛んできて、咄嗟に体を仰け反って避けた。
すると仰け反った体はイナバウアーの様になり、バランスが保てなくなって僕は体勢を崩し、後ろに倒れそうになる。ゼロは倒れそうになる僕の背に腕をまわし、体を支えた。
「フー……危ねぇ危ねぇ」
「あ……ありがとうゼロ。」
僕はゼロに礼を言い、体勢を立て直す。
トランプが飛んできた方向を見て、「またか…」と溜め息をついた。
「僕にトランプを投げてこないでって、前にも言ったじゃないか…………お兄ちゃん。」
そう言うと、霧の中から「クックック◆」と笑いながら兄は姿を現した。右手に持っているトランプに血がついているのが気になる。
まぁ、兄の事だから遊んでいたのだろうけど…………………人で。
「いいじゃないか、減るものじゃないし◇」
「いや減るから!!減るからね、寿命が!!」
兄は何が楽しいのか、先ほどと同じ様に「クックック◆」と笑いながら僕を見る。
「それくらいじゃあ減らないさ。だってセレネは僕が育てた自慢の妹なんだから◆」
「自慢の妹、っていうのはもう何度も聞いたよお兄ちゃん……;」
何度も聞いたその台詞を聞き、僕は溜め息をつく。
「これからもどんどん成長して、僕を楽しませてくれよ◆そして、いずれは僕が君を……」
兄は獲物を捕らえる獣の様な眼で僕を見つめ、舌舐めずりをする。
最後の途切れた言葉の意味がよく分からなかったが、僕は兄の眼を見てゾクリと全身に鳥肌がたった。
「そこまでだ!!」
突然の男達の声に驚き、声のする方向を向くと男達が現れ、兄の周りを囲っていく。先ほど兄が遊んでいた時の殺した奴等の生き残りだろう。そこへ、「セレネ!ゼロ!無事か!?」とクラピカとレオリオが駆けつけてきた。僕達は平気だと告げるとホッとした表情になるが、兄がいるのでまたすぐに険しい顔になる。
兄は自分を囲った男達に「君達はこのトランプ一枚だけで充分だね◆」と言い、怒った男達が襲いかかって来るのをものともせずに、あっという間に片付けていく。
するとトランプは僕達の方にも飛んできて、レオリオの腕に刺さり、痛ってぇえッ!!とレオリオが叫ぶ。見ているこっちが痛い、いい加減やめてくれよお兄ちゃん。
「てめぇ何しやがるッ!!」
「クックック、試験官ごっこ◆」
兄は他の受験生達に「僕が君達を判定してやるよ◆」と言って、襲いかかってくる受験生や逃げようとする受験生までもの息の根をとめていく。このままでは僕達も重傷を負いかねない。
「俺が合図したらバラバラに逃げよう」
と、いつの間にか僕達の傍にいた男が、小声で僕達に伝えてきた。
「奴は強い…!!」
(いや、見たら分かります。)
僕とゼロは心の中でそう呟いた。
だって僕は小さい頃からずっと見てきたんだよ?
僕に念の存在を教えて鍛えてくれた兄だよ?そりゃあ嫌でも分かるさ。
「今の俺達が5人がかりで戦おうとしても、勝ち目はないだろう」
当たり前だ、念を覚えている兄に覚えていない人が三人もいるこのメンバーで、勝てるわけがない。
「あんたたちも、強い目的があってハンターを目指しているんだろう?悔しいだろうが今は……ここは、退くんだ!!」
その言葉を合図に、僕以外の三人はバラバラに逃げる。
此処に残ったのは………僕とゼロだけだ。
「あれ、なんで逃げなかったの?」
「え、なんで逃げなきゃなんねぇの?」
「え?」
「え?」
…………………間。
暫く沈黙が続いた後、なんだか可笑しくて僕達は「あははははッ!!」と笑い出す。
「あはは!なんで質問してるのに質問で返すのさ!!」
「だって元々逃げる気なかったし、お前こそ人の事言えねぇだろ?」
「自分のお兄ちゃんから逃げる必要ないだろう?別に戦う気なかったし。」
「僕は君達と戦う気満々なんだけどなぁ◆」
その言葉を聞いた僕達はピシッと石の様に固まり、ギギギギ……と錆びた機械の様にゆっくりと兄の方を向いた。
「「………え゛?;」」
To be continued…