第5奏
複数side
エリナはジョナサンといつもの河原で泳いだ後、ジョナサンと別れ帰路を歩いていた。
ザッ……
そんなエリナの前に、木の陰からディオとその取り巻きが現れた。
「やぁ、君……エリナって名なのかい?ジョジョと泳ぎに行ったろう!アイツ最近浮かれていると思ったら………君という恋人が出来ていたんだな」ニヤリ
ディオはエリナを自身の方へグイッと引き寄せる。
「……あれ、エリナ?」
丁度その場を通りかかったセレネは、ディオがエリナに接触するのを見た。
ディオ……一体エリナに何をする気だ?
エリナに近づいたところでディオに何の得が………………あ゛。
ジョナサンを独りにする為かッ!!
ということは、この場でディオがしようとしていることはただ一つ!!
まずい、このままではエリナのファーストキスが……駄目だ!エリナのファーストキスはジョナサンじゃないと!!
思い立ったら即行動、ディオに引っ張られたエリナを僕の後ろに引き寄せ、僕はディオにキスをした…
ズキュゥウウンッ!!…………ブラックテープ越しに。
「なッ……!!」
「や、やった……のか?これ。」
そう、僕はディオの口にブラックテープの“粘着面”を張り付けてキスしたのだ。
うーん、テープ越しでも感触があるなぁ…;
僕はディオに張り付けたテープをべりっと剥いだ………が。
「「「「………………」」」」
ディオの口元には、粘着面を張り付けたせいでテープの形がクッキリと残っていた。
「あっははははディオ口元ッ……!!あははははッ!!行こうエリナ!!」グイッ
「え!?ちょっと待ってセレネッ!!」
僕はディオを見て大爆笑した後、エリナの手を引いて走って逃げていった。
「………」
プチッ。俺の中で何かが切れた。
「……;」
「ディ……ディオ?大丈夫か?;」
「…………二人共、今日は帰ってくれないか?」
「お、おうッ!」
「じゃあなッ!!」
そう言って二人は足早に去って行った。
「………フフ、ハハハハハハッ!!!」
バキィッ!!
俺は隣にあった木の幹を勢い良く殴った。
「セレネ……よくも俺の計画を邪魔してくれたなァ?しかもこのディオのプライドを滅茶苦茶にッ………!!」
いつもお前の思い通りにいくと思うなよ?セレネ。
††††††††††††††
セレネside
あれから僕はエリナを家に送り、邸に戻って真っ直ぐに自身の部屋へ戻った。
うーん……やり過ぎたかなぁ?;
いや、そもそもディオがエリナに手を出そうとしたのが悪いんだよ、うん。僕悪くない。
腕を組んでうんうんと頷いていると……
コンコン
来 た 。
え、ディオ?ヤバいどうしよう、怒ってるかな?会うの怖いんだけど。
「セレネ、そこにいるんだろう?」
「……」
ワォ、居留守使ってるのがバレてるよ。
「入るぞ」
まずい、早く此処から逃げなければッ!!;
僕は床下をパカリと開け、下へ降りようとしt…
ガチャッ
「……」
「………;」
………………間。
「…何処へ行こうとしたんだ?セレネ」にっこり
「あ、あはははは;」
君がいない所へ行こうとしていました。
なんて言えない、いやディオは分かってるだろうけど。
ディオは扉を閉め、後ろ手で鍵を掛けた。
そして僕の方へスタスタと近づいて来たので、僕は後退る。
「どうして逃げるんだセレネ?」
「いやそりゃあ……ねえ?;」
「俺に追われるのはいつもの事だろう?毎日毎日飽きずに俺に悪戯を仕掛けるんだからなァ?」にっこり
「ちょ、怖いよッ!!その黒い笑みしまってッ!?;」
ディオは歩みを止めることなく、僕の方へ近づいて来る。
「今回のはかなり効いたぞ?俺のプライドをこんなにボロボロにしてくれたんだからな。」
「ええ!?だってディオがエリナに…「だってじゃあない。態々テープを用意しなくても、普通にエリナを連れて逃げられただろう?だが貴様は“敢えて”そうした、俺に一泡ふかせる為に。」ッ……」
「だが今回はやり過ぎたなァ?こうして俺の怒りを買うことになるんだから。」
「うぅ…… ドンッ …ッ!?」
ずっとディオから後退りしていたがとうとう壁まで追い込まれ、ディオとの距離はもう五センチもない。
あれ、これデジャヴ?
「ディ……ディオ?;」
「いつもお前の思い通りになると思うなよ?」
「え……んぅッ!?」
一気に距離を縮めてきたディオは、僕の後頭部を押さえつけてキスしてきた。
「ぷはっ……ディオ、ちょっと何すr…んッ」
「黙れ」
ディオは更に舌まで入れてきて、何度も角度を変えながら貪る様なキスを繰り返す。
ガブッ
「いッ…!!」
突然舌を噛まれた痛みでじわりと涙が出る。
ディオをキッと睨み付けると、僕を見てニヤリと笑った。
わざとかよこの野郎ッ…!!血まで出てきたじゃないか、どんだけ思い切り噛んだんだよ!
僕はなんとか逃げようと試みるが、後頭部を押さえつけられている上に力が出ない。
口の中にじんわりと広がる血が唾液と混ざりあって、なんだか可笑しな気分になる。
「ふぁ……んぅ…ッ……」
僕は腰が抜けてズルズルと壁を背中越しに伝い、地べたに座り込む形になる。
漸く解放された唇からは、ほんのり朱の混じった銀の糸が繋がっていた。
「はぁッ……ディ、オ……なんで…ッ…こんな……!///」
「フン、お前の言う倍返しというヤツだ。ファーストキスは大事にとっておきたかったか?マヌケがァ……初めての相手はこのディオだ、残念だったなぁセレネ?」ニヤリ
ディオは僕を見下ろしてドヤ顔をしている。
「ううぅうう………ディオの…馬鹿野郎ォ……」ポロポロ
「なッ……!」
僕は涙をポロポロと流し、それを見たディオは驚いて動揺する。
「そんなに泣くほど嫌だったのか?逆に傷つくんだが…;」
「ファーストキスが血の味だなんて聞いたことないよ、前代未聞だよオォ……ううぅ……」
「逆に考えてみろ、普通では味わえない事を経験したんだぞ?喜ぶべきだ「喜べるわけないよ馬鹿ァアッ!!うわぁあん!!」………;」
更に先程より声をあげて泣き出す僕を見て焦るディオは、どうしたものかと僕の頭を撫でたりして試行錯誤している。
「……なーんちゃって。」
「は?」
「えいッ!!」バッ!!
「なッ……!!」ボフッ
僕は傍にあったベッドの枕をバッとディオに投げる。枕はそのままディオの顔面にクリーンヒット。
「これくらいの事で僕が落ち込むわけないだろう!?」
「な……にィ?貴様ッ……騙したな!?」
「騙される方が悪いんですぅー!!バーカバーカッ!!」
そう言って僕は急いで床下をパカリと開け、下の階へストンと降りた。
僕が落ちた先は、僕の部屋の真下にある書庫。
誰もいないことを確認して、僕は部屋の隅でしゃがみこんだ。
あんな風にディオに強がって言っていたが、実を言うと僕の頭の中はかなり混乱している。あれは僕の動揺を隠す為に誤魔化したに過ぎない。
いやだってさ、まさかキスで返してくるなんて思わないじゃないか普通。その発想は無かった。
僕は膝を抱えて顔を埋める。
ディオにどんな顔で会ったらいいのか分からなくなってきた。
「………これからどうしよう」
To be continued…