第6奏
ディオside
最近、セレネの様子がおかしい。
いつも朝っぱらから悪戯を仕掛けてきて、引っ掛かった俺の前に現れクスクスと楽しそうに笑いながら
「おはよう」と声を掛けてきて、俺は眉を顰めムッとした表情になりながらも、「おはよう」と返す。
それが俺達の毎日恒例の日課である。
しかし、今の現状は……
「おはよう、ディオ!」
「…あぁ、おはよう。セレネ」
やはり何かおかしい。
いや、確かにこれが普通なのだ。
これが当たり前の挨拶なのだ。
しかし、それはあくまでも普通の人間の場合。
俺とセレネの朝の挨拶は、こんな普通なものではないのだ。いつもの仕掛けが無い……それが当たり前なのだろうが、
俺にとってはそれが異常なのだ。
挨拶を交わした後、そのまま去っていくセレネの背を見つめながら、俺は溜め息をついた。平然としているが、逆にそれが不自然に見えるという事にセレネは気づいていないのだろうか……いや、気づいている筈だ。気づいているのにそうするという事は、気づかれたくない事があるということだ。セレネが気づかれたくない事………そんなの一つしかない。
そう、それは動揺。セレネは自分がキスされて動揺している事を隠したいが故に、平然とした態度をとっているのだ。平然としている事がおかしいということは本人も気づいているが、動揺しているのでいつもの接し方が出来ずにいるのだろう。
あの時はファーストキスを奪われても気にしていない様な態度で去っていったから、作戦は失敗したかと思ったが……予想以上だったな。セレネが動揺している今なら、俺の計画を阻止する者はいない。作戦通りジョジョを陥れることは容易い筈だ。
しかし、俺は気づいてしまった……最近己が抱いている感情に。いや、認めたくない…認めるものか。そんな馬鹿な、この俺がまさか……
ジョジョの妹であるセレネに恋心を抱いているなんて。
あり得ない……俺にとってアイツは邪魔者でしかないのだぞ?ジョジョの妹だぞ?それなのに何故…何故あの女を好きになってしまったのか。確かに俺は、セレネが俺に罠を仕掛けてくるのを楽しんでいる。それは認めよう、どうやって罠を回避するかを楽しんでいたりするのだから。アイツが仕掛ける罠は中々面白い、このディオにそんなことをしてくる奴は一人もいなかった。しかし、それだけではセレネを恋愛視する理由にはならない。そんなもの、百歩譲っても友人くらいにしかならないからだ。
では、セレネの何処を好きになったというのか。
俺が廊下でずっと唸っていると、曲がり角からジョジョがやってきた。俺を見つけたジョジョは一瞬苦い顔をするが、俺の反応が気になったのか近寄ってくる。
「どうしたんだいディオ…?君が悩んでいるなんて珍しいね。」
「フン、俺に気安く話しかけるんじゃあないジョジョ」
「(えええええ理不尽;)アハハ、ごめんね;……そんなに悩んでいるなら、セレネに相談してみたらどうだい?」
悩みの原因である本人に聞けるわけないだろ阿呆が。
って……おいジョジョ、今何て言った?
「………何故そこでセレネが出てくるんだ?」
「え?だって君はセレネと仲が良いだろう?」
仲が良いと言えるのか?あのいつもの光景が。
姉さん曰くト〇とジ〇リーの様な関係らしいが、俺はよく知らん。
「にしても羨ましいなぁ…僕とディオが仲悪いってセレネも知っているのに、セレネは僕以外に君とも仲良くするんだもん。最近は特にずっと君の傍にいたし、正直妬いちゃうよ…」
ハハハ、と乾いた笑いをしながらそう言ったジョジョの発言を聞き、俺はハッとした。
そうだ、アイツは何処からどう見ても悪役なこの俺に、嫌悪感を抱く事もなく、ジョジョ達と平等に接しているのだ。俺がジョジョに害をもたらそうとしていると分かっていながら、アイツはジョジョ達と平等に俺に接し、優しく淡い金色の瞳で見つめ、笑顔を向けてくるのだ。
人間は黒か白かハッキリしている生き物だ。
白は黒を拒み嫌悪感を抱く、黒はそれと同様か又は白を求める。それが普通なのだ。ジョジョやセレネはその白に部類される、俺は当然黒だ。
しかし、セレネは黒である俺を拒まないのだ。
黒を拒まない白など聞いたことがない。セレネは白も黒も平等に接する。
俺達黒が白を…光を求めても誰も見もせずに通りすがる中、アイツは俺達に手を差し伸べるのだ、日だまりの様な笑顔で。
…………俺はそんなアイツを好きになったのだ。
そう、惚れたんだ。
俺はその光を手放したくない……あの白を放っておけば、すぐに他の黒が群がってあの白を求めるだろう。
「……絶対に渡すものか」ボソッ「え?」
「いや、なんでもないさ……ところでジョジョ、セレネは今何処にいる?」
「セレネならさっき自室に向かっていたよ。」
「そうか……ジョジョ、一つ忠告しておく。」
「え…な、なんだい?」
俺はジョジョの傍に近寄り、耳元で囁いた。
――いつまでもアイツが、お前の傍にいると思うなよ?「!!」
俺の言葉に驚き、ジョジョは目を見開いてバッと此方を向くが、俺はそれを気にも留めずにその場を去り、セレネの自室へと向かった。
To be continued…