08
車が網走刑務所に着いた。
「出ろ」
警察の一人が言った。
章吾は車を出て、刑務所を見つめる。刑務所は雪が降っていて、寒かった。
章吾は白い息を吐きながら、刑務所の中に入っていった。
刑務所の若い刑務官が刑務所を案内する。
食事場、浴室、作業場、そして章吾の入る独房に案内された。
「ひととおりわかったみたいですね」刑務官は言う。
それから囚人番号のついた服にに着替えさせられて独房に連れていかれて、
「今日から今日からお前の名は、囚人番号97だ」と言われ、
「入れ」と刑務官に言われる。
独房の室内。独房にはもう一人の囚人がいて、足を触りながら何かぶつぶつ言っている。
刑務官の話だと精神異常者らしい。
独房に章吾は入ると、鍵をかけられた。
そのまま独房の畳に寝転んだ。
窓の外は雪が見え、風が激しく吹いている。
それから時々、組の頭が面会に来てくれた。
面会室で、
「刑務所の暮らしはどうだ?」と言う。
「いいもんじゃないですよ。それより組の借金はどうなったのですか?」
「お前さんのおかげで帳消しや」
「よかったなぁ」そう言うと章吾は、
「出たら生活の保障はしてくれますか?」
「気にせんでいい。借金が帳消しになったから、お前のやっていける額はやる」
そう言う。
その他、様々な話をした。
だが、1年が経つと組の頭も顔をめっきり見せなくなっていた。
章吾は一人官房でもう一人との生活に飽きていた。
朝早く起きて、食事を済ませ、昼には作業をした後、夕方には浴室で体を洗う。
そんな囚人の生活を送る。
そのうち、囚人の知り合いも増えて、食事も一緒にするようになる。
部屋のもう一人の囚人とはまったく話さなかった。
夜になると、家から持ってきた、小型のテレビを見るのが日課になっていた。
だがそのうち小型のテレビも刑務官に取り上げられた。
ある夜、別の部屋の人間が凄い声を上げて、刑務官に連れられていた。
驚いて章吾は官房の小さい窓からそれを見つめていた。
同じ部屋の囚人が久々に声をかける。
「死刑囚や」
その死刑囚は激しい抵抗を見せたが、そのうち静かになり、刑務官に連れられて行った。
「ここの刑務所の事を知っとるか?」もう一人の囚人が言う。
「いや・・・」章吾は少し言う。
「ここの官房をすこし行って、曲がった所に白い長い廊下がある。
そこで多くの死刑囚はたえられなくなり発狂した奴もおる。
ここの網走刑務所は戦前にできた刑務所や。
廊下を少し行ったら、死刑台や。昔は電気椅子もあった、どうやって死刑になっていたかは謎やが、死刑台には苦しい熱のせいか、死刑場には赤い手形が多く死刑台に残っているんや、みんな死刑囚の手形や。
多くの人が苦しみもがいた手形が残っとる。
廊下で多くは抵抗する、だが、押さえられて死刑台に行くんや。
戦前の話やが多く残っているんや・・・」
と言った。