10
それからまた数年が経った。
章吾は出所の日を迎えていた。
荷物をまとめて、刑務所の門へ行く。入所の時と同じように雪が降っていた。
入所している時に章吾を出迎えてくれた、若かった同じ刑務官の男が見送りに来た。
「入所に時は若かったのにお互い老けましたね、入所の時もこんな感じだったなぁ」
章吾は言った。
「元気でね、章吾さん」刑務官は言った。
もう一人が門を開ける。
一人が章吾に言った、
「それと章吾さん、20年前とこの世界はもう変わってしまっていますよ・・・」
「えっ」
「私は知っていますが、章吾さんは知らないのでしょうか・・・?」
「何を?」
「驚かれると思うでしょうね・・・。恐ろしい世界になっている事を・・・それだけです」刑務官は言った。
「お疲れ様、それは外へ出たらわかります・・・」
そう言って、章吾を外へ出すと、門を閉める。
章吾はその意味がわからなかった。
章吾は刑務所の前のバス停からバスに乗り込み、家に帰ろうとする。
雪のバスから家に向かう。
バスの中から、外を見ていると、まったく何もない。
「ここも20年前と比べて、ずいぶんと変わりましたね」章吾はバスの乗客に言う。
「貴方は刑務所の人間だったのですか?」
「ええ、罪を犯して、服役していまして、任期が終わって今家に帰る所です」
「ここも世界が終わる前はいろいろあったんだけどなぁ」
章吾は聞く、
「世界が終わったって?」
「10年前に戻りたいなぁ」乗客は言った。
「降るのは、放射能の雨ばかりだよ、久々の雪だ」別の男が言う、
「放射能って?」
「世界が終わった、あの日からだよ」
「終わった?」
「ああ」
よくわからなかったが、章吾は聞き返す、
「20年間、刑務所にいて、外の事は何も知らないんだ」
章吾は意味が分からなかったが、バスは走り、駅に向かっている。
外は何もなかった。普通なら家がたくさん見えるのに何もない、
章吾は乗客の会話や外に何もないのに驚きを隠せなかった。
「車も走っていない。ただ道路があるだけだな」章吾は不思議がった。
そのうち、乗客はバスを降りていき、乗客は章吾一人だけになった。
それから、バスを降りて、徒歩で列車の駅に向かう。
何もない。
「信じられない」変わりように章吾は驚いた、駅以外に何もないのだ。
駅の近くには数羽の鳩がいて、餌を探している。
空はどんよりとした、鼠色の空だった。
「毎日、こんな天気ばかりだなぁ。まいる」
人の話し声が聞こえる。
章吾に道端の男が声を掛けてきた、
「靴磨きならするよ」
章吾は男に言った、
「靴磨きなんて昔の人がしていた事なのによく言うね?」
「仕事がないんだ、世界が終わった頃から」
「世界が終わったって?」
「そうだよ」
「俺は20年前から、罪をおかして、刑務所にいた、外の事は何も知らないんだ」
この男は言う、
「核戦争後だよ・・・」
「知らない。20年間刑務所にいたから」
「核戦争後、生き残った者は再び立ち上がっていった・・・」
男は寂しそうに言った。
そう聞いた後、黙って章吾はその場を離れて、列車に乗って、家のある生まれ故郷に向かった。
列車の窓から見る世界は荒野だけで、何もない。