15
雪の中、ラリーは看護婦と一緒に雪道から、
少年の姿を追っていた。大声を出して、少年を呼ぶ。雪は大分とまっていたが、地面は真っ白だった。
その中から足跡を見つけたとの声が聞こえた。看護婦の一人の声だ。息ずかいの中、
初めはそれが何の声か解らなかったが、数秒で看護婦の声だとは解った。
その場に行きよく見ると、足跡らしきものが雪に残っていた。推定すると、それが大きいものでなく、
子供の足の大きさぐらいなのは解った。まだ新しい。
「雪で足跡が消えないうちに探さないと」と、ラリーは言う。子供が一人、こんな寒い中だと、
ラリーは少年の安否が心配だ。
看護婦の一人が必死に手招きして、仲間を集めている。
「とにかく辿ってみましょう」と、看護婦は言った。ラリーもうなずいた。
辿っていくと、その足跡は、バロック式の大きな聖堂に続いていた。
「ウスティオのあの聖堂じゃないかな?」ラリーは看護婦に予想を伝えた。
看護婦は頷いて自分もそうだと思う意志を伝えていた。「急ごう」とラリーは看護婦に伝える。
「ここで足跡は途切れているな」仲間の一人が言う
。「この近くにいる」とラリーは次に大声で「この近くだ」少年の名前を大声で叫んで後を追う。
「早いところ探さないと俺達までヤバイと仲間の一人は言う。
ラリーは、その場で考えていたが、「どうしてそう簡単に諦めるような事を言う?きっと近くだ」と仲間を励ます。
「なるべく離れないようにするんだ」とラリーは全員に訴える。そして、開けた所に聖堂はラリーに見えた。
聖堂まで着くと、聖堂の入り口の階段に少年は倒れていた。
少年だと解るとラリーは安堵して大声で仲間を集めながら、すぐ、そばに言って話しかけた。「大丈夫か?」と、ラリーは聞いた。
看護婦が心配している。
その目は笑っていた。
「いや、外出したくて、ここまできただけ。車椅子で自分の力で動きたかっただけ」
「どうして許可もないのに、こんな所まで、みんな心配したじゃない」
車椅子が雪のおかげで動かなくなって、車椅子をひっぱって、自力でここまで来たようだ。
「ごめん・・・」少年は少し泣いていた。
少し雪が降ってきた。
「寒いから聖堂に入ろう」と、ラリー。
看護婦とともに町の聖堂に入った。聖堂を管理している神父の一人に、
「患者の少年が病院で外出したところ、雪に足をとられて動けなくなってしまって、少しおいてくれませんか?」と、神父に尋ねる。
神父は自分の眼鏡をハンカチで拭きながら、
「私も別の用もありまして、その悪い人間でないのは、すぐわかりますが。出来れば、雪が収まるまで」
「それは、わかります。とにかくありがとう」と、雪に濡れた自分の上着から雪を払い落としながらラリーは言った。
神父は家に案内して雪の間、いさせてくれるのには大して何も言わなかった。
「家にきなさい」と短く言った。
看護婦は少年にひどく注意していた。
その神父の家で、雪がおさまるまで神父の家の暖炉で、体温の低下している少年に毛布でさすって、休ませてもらった。
寒いからと、神父が熱いミルクをカップに入れて、少年に無言でさしだした。
「この雪が収まるまで、時間かかりそう?」と、看護婦は言った。
「この感じでは、大雪にはならんでしょう。数時間で戻れますよ。この辺は狼が多いですしね。気をつけないと」
神父は、「私は別の用があるので、雪が収まったら出て行ってください」
「いろいろありがとうございます」と、看護婦は言う。
ラリーは、少年に何で足が不自由なのにそう遠くにいくなよ。なぜこんな事を。と尋ねた。
「ただの散歩です。よくラリーと来る道じゃないか」と答えていた。
雪が収まると、神父に礼を言い、外へ出る。
「どうしてこんな事を・・・」看護婦は少年に呟く。
少年は黙っていた。
ラリーは話しかけても無言だから、ラリーはいきなり少年を肩車して走り出した。
「見ろよ。俺が君の足だ。今君は走っている。オリンピックだって夢じゃないんだ。1番早いんだぞ」
北極星が輝く中、少年の笑い声が響いた。