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広場から20分程、町から離れた所に白い製造工場はあった。
表向き、何かの部品を作っているように見えて、ティム自身詳しい事は教えてくれていなかった。アフィの説明を詳しく聞いていなかったせいもある。
ティム達が車で来て、工場の近くの駐車場に車を止めた。アフィが工場の人間に話すと、工場の作業員の一人が工場の鉄の奥の鉄の扉に案内して、
そこから、工場にある地下に案内された。
地下の大型の鉄で出来ている扉を開くと、そこの広がる光景にティムは少し驚いた。
大量の鉄製の大型の機械が多くの兵器を製造していて、休みなく動いている。
プレスする加工機。作業員の多くが濃い緑色のメットをかぶり、手に持った機械を使って部品を慣れた様子で加工している。
ティムのいる方にも多くの作業中の火花が飛び散ってきた。
作業員の一人が、作業用のエレベータに無理やり、出来た製品を押し込んで、
起動させていた。
一人の従業員がいくつかのダンボールを片付けている。
それから二人は、二人の様子に気ずいた従業員の一人に奥にある主任の事務室に通されて、
そこで少し待つように言われた。
そこの窓からは、従業員と同じ格好の手袋をはめた男が、作業員に忙しそうに、支持を送っているのが見えた。どうやらあの男が主任の男らしい。
そうしているうちに、その窓から作業員の一人がその主任に二人が来たのか、こちらを指差して、説明しているのがはっきり見えて、
その主任の男が、主任室に入ってきた。
手には黄色く鉄の汚れにまみれたタオルがあり、暑さからだろう、流れる汗を拭っていた。
「ああ、アフィさんですか。いつもより今日は作業がはかどっていなくてね。
最近は大変ですよ」とアフィといろいろ話すと、ティムの方を見つめ、
「貴方は誰かな」とティの方を見て、言った。
「ティムフォルクです」ティムはそう言うと、真剣に主任と真剣な顔で握手を求めた。そして二人は握手した。
「同じ新聞局のティムフォルクです。工場の視察にあがりました」
「ティムさん?」と主任の男が言い、ティムはアフィから自分の事の説明されていたんだろうと瞬時に思った。
「ベルカ人の記述を書いた本人ですよ」アフィは気をきかせて言った。
「ああ、貴方がティムさんですか。いやあ、会えて光栄ですよ」主任はティムに何度も握手すると、
「貴方の本を読ませていただけました」と答えた。
そう言って主任は「たしかこの本でしょう」と、
自分のディスクの隣の、乱雑になっている棚から、
ティムの本を棚から探していた。
見つけると、「ああ、あったこれだ」とティムの本を取り出して見せた。
「工場はどうなのですが?」とティムは工場の事について聞く。
「最近、製造がストップしていましたが、再開しました」と主任の男は少し笑顔を浮かべて言った。
「で、どうなのですか?」とティムは突っ込んだ質問をする。
「それは・・・まぁ何とかいってますよ」と主任の男の声は少しトーンダウンした。
「本についての感想を聞きたいのですが」とティムは言った。
主任の男は不意をつかれたような感じで回答に困っていたが、
声を少し低くして、「はは・・・まだ少し読んだくらいですよ・・・」と、まだそのくらいですとティムに影ながら伝えるよう答えた。
そして話をそらせ、「工場の規模を拡張したいのですが。
なにせ最近は生産ラインが落ちていましてね」と目をアフィに向けて言った。
「長い内戦を乗り切れるでしょうか」
「まぁなんとかやってますよ。もし、警察に見つかると大変ですからね・・・。反政府も最近は、
大変ですよ」
「問題は?」
「山積みですね。規模を拡張しないといけないし従業員の給料も満足に支払えていませんからね。
それで優秀な技術者が多く辞めていきまして、そのたびにまた雇うといった感じですよ。
反政府も最初は良かったのですがね」
「協力できる所があれば、教えていただきたいです」
「裏でもっと工場の運営費についてなんとかなりませんかね・・・」工場長は帳簿にスイッチ式の黒のボールペンをカチカチいわせて帳簿に書き込みながら言った。
「考えてみましょう」とアフィは言った。その工場の視察の帰りの車の中で、アフィは言った。
「ティム・・・君の思想について、思った以上の期待を皆はしていないようだ。解るかな・・・。
反政府が期待しているのは、この戦争の勝利なんだ。
ベルカやウスティオに対する、大きな改革ではないんだよ。それが、画期的だとは皆思っていないようだ。
言いたくない事実だけどね。それ程、大きな改革は望んでいない。確かに本は売れたけれどもね。上層部には理想は通じていないよ。そのつもりもない。
思想もベルカ思想の脱却程で、そこまで優れた評価をしていないのは事実なんだ。
そこまでの優れた思想だとは思わない個人的だけどね。もっと現実を見てほしいな」アフィは言った。
ティムは無言で車を走らせていた。道は高速道路になっていて、車の行きかいが激しい。
「僕はウスティオを変えるのは今しかないと考える。僕は負けませんよ・・・。貴方がそう言っても」そう言うと、ティムはハンドルを握る手に力を入れ、ティムの目は目前の道路をしっかりと見つめていた。
車内でのラジオの周波数を合わしていく。
右手で、アフィの声を聴きたくなかったのだろう、ラジオの野球中継のボリュームを上げた。ラジオの声が響く。ピッチャー投げた、打った、打球は2塁を抜けて、ヒット。打球はライトへ。一人帰ってきた、
ホームイン。3対3。試合は振り出しに戻りました。次のバッターはオイビル2割7部5厘。最近のオイビルは凄く当たっているね。バッテリーも彼には、配球は少し悩むんじゃないかな。解説者はゲストと話している。
小雨がガラスに降ってきた。長い沈黙の後、
「話題を変えないか?」ティムは気まずい雰囲気をなんとかしようと、声をかけた。
ティムは広場に向けて車を走らせている。町が見える。ティムは自分の好きなチームのチーム雑誌を信号の赤の時に、雑誌を確認したりして、別の話題をして気持ちを切り替えるよう努力していた。
長い沈黙の中、車は広場に止まった。日が沈みかけている。