28
ティムが講演を終えると、体育館中は拍手で包まれた。
ティムは、「ありがとう。ありがとう」と、講演を聞いている人達に握手した。
少女の頭を撫でて、「ウスティオは君のような若者を必要としているんだよ」と言った。
その時、体育館にベルカ軍の空襲を伝える、サイレンが大きく鳴った。
「若い人達を非難させてくれ」と口々に言い、皆、急いで体育館を列を作って離れだした。
ティムも子供達を率先して、導く。
少女に、「安全な所を早く行くんだ」とティムは、頼りない子供に、少し怒りっぽく言う。
サイレンの音は、休みなく大きく響く。
「この空爆は激しそうだ」とティムは言う。
体育館を裏から出て、空を見ると、遥かかなたに爆撃機の連隊がかすかに確認できた。
空は、すきとおるような、青さに満ちていた。
「さあ急ぐんだ、まだ時間はある」と大声でティムは言った。周りの人間も、
サイレンが響いているのに、ゆっくりとしているのをティムは苛立った様子で、
「さあ、早く逃げないと大変な事になる」と促した。
皆々、車に乗り込み、その場を離れていく。
そんな中、一組の姉妹が、慌てているのを見て尋ねた。
「何している?空爆を受けて、火だるまになっても知らないぞ!」
「ここまで、貴方の講演を聞くために、徒歩できました。もうおしまいかもしれない」と姉妹は言う。
ティムは手招きして、
「じゃあ早く僕の車に乗れ!急いで安全な所へ行く」
ティムは姉妹を乗せて、車のエンジンをかけて発進させた。
道路には誘導灯を持った人が空爆からへの避難を仲間達を誘導していた。
ティムは、町の中心部と違う、山間の場所へ車を走らせた。
幸い小学校の場所は中心部でなく山間の所だったので、容易にその場所へたどり着く事はできた。
町を抜けて、山間の場所で車を止めて、外に出た。
そこは、山間の洞窟で鉄製の板を2重に張った構造になっていて、
住民の避難場所になっている。
近くに川が流れて、ティムの達の他に数人の人間が避難していた。
しばらくすると洞窟に爆撃機の轟音が響いてきた。
ティムは、急いで洞窟の入り口に行くと、爆撃機にさとられないよう
身をかがめながら、そこへ向かった。
爆撃機はもうすぐそこまできていた。
ティムはそこに来ると、姉妹の方を見て、急げと手招きした。
「早く、早く来るんだ」
空爆の轟音で、鼓膜が潰れるかの錯覚を受け、全身にピリッとした衝撃がはしり、耳をふさぎながら言った。
その声は、爆撃機の轟音にかき消されていた。
空爆のたびに大地が揺れた。
ティムは、遅れている姉妹の妹が岩につまずいて倒れて少し動けないのを見て、
洞窟から飛び出し、動けない妹を抱き抱えると、轟音の中、
洞窟へ急いで避難させていた。
その時、空爆の大爆撃とともに、近くの建物を破壊した。
瓦礫が飛び交う中、姉妹を洞窟に移動させ、
ティムは、ふたたび耳をふさいだ。
轟音とともに爆撃機は飛び去った。
後は山のように散乱する瓦礫が残っていた。
ビルも破壊され、道端には死人が転がっていた。
道端で老人達が泣き叫んでいる。
自分はその現状を見て、自分が情けなくなる。
この悲惨な現状は、よく戦場でも見受けられない。
爆撃により、片足を失った青年や、倒れている死体が目に付く。
自分が今日、普段、肌身離さず持っているカメラを持っていないのに、少し落胆した。
本当にベルカのやっている事は、支援だけでなく侵攻に近いのではないか・・・。
ティムはそう思う。
砂埃の立ちこめる中、
「生きていたか?」知り合いがティムを探して声をかけた。
「ベルカの空爆で反政府は浮き足だっている。」仲間の一人が言う。
「だいぶ、混乱も落ち着いてきたようじゃないか」
ティムはすぐは質問に答えず、瓦礫に包まれた景色を見つめた。
綺麗だった町が跡形も無い。
風が少し吹き始める。
「また、政府軍の空爆があるか、心配だ」
その後、姉妹の方に目を向ける。
その顔には助かった安堵の表情が見られた。
「空爆はやんだようね・・・」
おそるおそる姉妹が出てきた。
一安心したか、姉妹の妹が泣き出した。
「ひととおり町の方を見てこよう」ティムは言った。
散乱した瓦礫を一通り見て、町を丘を下って、見渡す。
その後、瓦礫の下敷きになった男を助ける。