24
町は消灯化により暗闇に包まれて、気温はマイナス5度をまわっていた。
その暗さは、子供を力ずくで黙らせたような静かさだった。
通る自動車の数も減っていった。
ティムは、家で少し風邪ぎみで、鼻水をテッシュで拭きながら、
書類の申請のための手続きのために寄った役所から、実家に電話をいれた。
最初の電話は家族は出ず、ウスティオ軍の通信監理により、通信はほぼ管理されていたため、なかなか電話は繋がらない。ティムは何度も電話をかけ続けていた。5時間ぐらいしてやっと電話が繋がった。
数秒のコールの後、妹が出た。
家族といっても、父は死に、兄の他には自分と妹ともう歳の母しかいない。
「ああ、俺だ」
「兄さん?」
「もう少しで東部戦線も戦火に包まれるんだ。お前や母さんが危ない。お前と母さんのエルジアへの亡命申請を
考えている。母は元気?」
「戦争がはじまって、今は病気がちだわ。元気も出ないの。家を離れるの?」
「もう時期、母さんのいる所も戦火に包まれるかも。
エルジアでの自宅や生活の保障も申請の内容に入れておく、とにかく離れるんだ」
「ラリーに会いたい」
「兄さんの事が心配?戦争が終わったら会えるよ」
「兄さん。兄さんはどっちについているの?」
「どちらでもない。ただの新聞記者だよ」
「これから大変ね」
「その話をしたいから、自宅へ戻らないといけない」
「わかった。母さんはどうゆうか・・・」
「そんな事は、僕が行って話しをつける。とにかく今は、ウスティオを離れるんだ。
それを考えておいてくれ」
「少し母さんが病気がちよ。風邪ぎみみたい。ここを離れて何処へ行くのよ」
「叔父さんの家とかにかくまってもらえよ。とにかく自宅へ1度帰る。
いまから亡命の話で自宅に帰る準備をする。もう時期帰るよ」ティムはそう言って受話器を下ろした。
駅は、慌ただしかった。
ティムは、駅にエルジアへ行く母と妹を見送りに来ていた。寒さのためか手が冷えて刺すように痛い。
エルジア行きの特別用の列車は、少し遅れているようだ。
母と妹と、駅の奥のストーブのある場所で会話しながら、列車を待っていた。
駅は、再会を喜ぶ人間や多くの貨物列車からの馬や輸送品の運搬物で賑わっていた。
列車が汽笛をあげながら来た。
「色々と世話になったわ」と母
「母さんも体に気をつけて」
母は来た列車を指差しながら、
「あの列車でいいの?」と尋ねる。
「線は合っている。列車は、あれでいいよ」
「席は?」
「3等車だから好きに選べるよ」と答える。
駅は、強い雪が降りしきっている。
妹にティムは、
「エルジアに行ったら、母さんをよろしく」と言う。
「もう子供じゃないんだから、心配しないで」と妹は言う。
「僕や兄さんがいないとお前何も出来なかったのに」
「もう、19よ。心配しないで」
母も妹も寒さのためスカーフを巻いている。
ティムは、入国のビザを渡しながら、その母のビザを持っている手を握りしめて、
「戦争が終わったら、じき会えるよ」と言った。
母と妹に別れを慰めるよう抱き合った後、二人は列車に乗っていった。
列車からの窓から、二人が、ティムを眺めているのを見ていた。
列車が行ってしまうのを、ティムは、雪の中、身届けていた。
駅は、人だかりができ、とても賑わっていた。
それから2日後、ティムはトラックの荷台に乗っていた。荷台は屋根がついていて、乗っている人はティムだけでなく4人いた。皆、手に銃を持っていた。
ティムもである。運転手が鼻歌を歌いながら戦地に向かっていた。
暗い、その中に顔中傷だらけの老人がいた。
「あんたは何処からだい?」老人はティムに聞いた。
「どこからでなくウスティオですよ。銃を持っているけど、兵士じゃない。従軍記者です」と答えた。続けて、
「あなたは?」とティムは聞き返した。
「エルジアからだよ。もう歳だから、家族もあんまり相手しなくなって、いい機会だから内戦に参加しようと思ってな。はるばるエルジアから来た」
「家族はいるのかい?」老人は聞き返した。
「母と妹が一人、それと兄がいます」
「どうしてるんだ?」
「母と妹は内戦がはじまるとゆうのでエルジアに亡命させました。それと
10違いの兄がいます。兄はウスティオ軍としてこの内戦に参加しています」
「軍だから政府軍かい?」老人は言う、
「革命軍ですよ」ティムは言った。
「僕も兄とともにこの内戦で革命軍として戦うつもりです。そのための従軍ですよ」
トラックの荷台は整備されていない古い道路を渡っているせいか、ガタンゴトンと荷台をよく揺らしている。
しばらくして、広い荒野について、トラックは足を止める。
荷台からティムを含め3人が飛び下りて、外に出た。老人もゆっくりと荷台を降りる。荒れた荒野は広大な平原になっていて、広い土地だ。
革命軍の多くが焚火をしていたり、荷物を運んでいる。
ティムに軍の上官が声を掛ける。
「従軍記者とは貴方の事かい?」
「はい」ティムは上官に自分の身分証を見せる。
そんな中、革命軍のいる場所で爆発が起こる。
大騒ぎの中、「敵軍か!」と兵達は銃を構えるが、
上官に報告が入った。「誰かが地雷を踏んだらしい。地雷原はたくさんある地帯だ。驚きとためらいがティムを襲う。
「こんな事はここではよく起きるよ、従軍記者さん」
他の兵士をティムは見る。
ティムに兵士が声をかける。
「従軍記者さん、美味い飯でも食べんかな」
そのまま声をかけた兵士がパンをちぎって渡してくれた。
「いただきます」ティムはほうばる。
「戦地にくれば、こんな毎日ばかりだ。水がどうだの飯がどうだの、家がこいしいよ」
そのままティムに上官は毛布を渡して、
「今日1日こして、明日になれば出発だ。もうじき暗くなる」と言った。