18
1夜あけて、ティムと老人は大きな峠を渡っていた。
その高地は大変な濃霧であった。
「こんな霧じゃ右も左もわかんねぇ」
そういいながら、
老人とティムのいる兵一行は方位磁石を見て、老馬を引きながら道を進んでいた。
今、この磁石こそが、この一行の有無を支えていた。
「ヘリでこんな高地の上空を飛んで行けば、楽だったのに」と、複雑そうにティムは言った。
「この霧でヘリも飛ばせないだろうし、実際無いからな」
「夜までには峠を超えないと、大変な事になる」
一行はそんな内、霧が晴れてきて、雪も溶け出した。
太陽の光が差こみ、一行に大自然の偉大さを教えてくれる。
切りたった崖でその先はゆるやかな峠になっていた。そしてティムは、戦いの前夜の青年兵の横顔をカメラに収めた。迫る戦車を双眼鏡で確認すると、反政府軍の被るニット帽をつけて、兵士の一人は無線で本部に連絡を入れる。
ティムは建物の中で、敵が来たのを察知し、手の銃のAKを握り締めた。
迫る戦車部隊を見ようと、双眼鏡を仲間の一人が無理やり奪い取って見ていた。
建物の屋上は高射砲が備えられ、地雷を市街地の周りにかためる。
敵が来たのを察知し兵士達が手招きをしている。
そのうちベルカの戦車隊がディレクタスに迫った。
その戦車隊を市街地に入る1つの道の所で、反政府軍の建物の屋上の高射長距離砲が、
あらゆる所から、ベルカの戦車部隊に、嵐の豪雨のごとく400ミリ砲の集中砲火を浴びせた。
ティムは市街地の道を横切り、戦車体に迫った後、
砲弾の飛び交う中、
ティムは、火炎瓶を戦車のキャタピラにはめ込み、爆発させた。
多くの反政府軍が、突撃を開始した。
その後、ティムは建物に行き、スナイパーライフルを片手の狙撃兵と合流する。
「弾だ、弾をはやくよこせ」
狙撃兵の近くで機関銃を放っている兵士がティムに言う。
「今、やってる」必死にティムは言った。
弾を補充した後、戦車隊の砲撃により、ティムの建物の屋根に衝撃がはしり、衝撃とともに建物の天井が揺らぐ。
兵士達が多く砲撃を受ける中。
ティムの放つ弾は戦車にはねかえされていく。
戦車隊は、ひるむ事なく進撃をつずける
崖を渡る時、1発の銃弾がティムの頬をかすった。
大声で仲間の一人が言う、
「敵だ!」
全員、戦闘態勢にはいる。ティムは持っていたM70で崖の上から敵兵に銃を連射した。仲間の一人が倒れる。
数分後、戦闘は終わり、敵兵はかがみこんで味方の銃を向られていた。
「捕虜を数人捕まえた。町はすぐ近くだからそこの病院で治療してもらうよう、町まで捕虜を同行させよう」
「町まで連れていくのか?面倒な奴はここで殺せばいい」仲間の一人が言った。
「それは軍律に違反する」上官が言った。
「僕を今、殺してほしい」捕虜の男が言った。
「殺してほしいみたいだ、とっととやっちまおうぜ」一人が言った。
「いや、生かして、敵軍の情報を聞きたい。町まで連れてく」上官は言った。
そんな内、一行は峠を越え、町が見えてきた。
なんとか町にはつけたみたいだ。
一行に安堵の表情がはしる。
「やっと、町だ。とうとう俺もファシスト連中をこのウスティオから破ってやる
機会を得れた」と大きな声で老人は言った。
「政府軍はファシストじゃないよ」
そう言ったが、老人の方は見ず、
町の方を見ていた。
峠をまた下ると、町の工場の賑やかな音が聞こえてきた。
多分、熱した石炭をたく音だろうか。
「まあ、無事に高地を越えれた。一休みしよう」
「俺は先に町にいっとるで」
「じゃあ僕は遅れて行きます」と、自分の水筒の水を飲みながら、
携帯用のアジの缶詰をキレイに開け口を鉄のスパナで開け、
アジを口に放り込んだ。
これに、肉がほしいな。温めて食べたい。火は起こせるが、
町に行って、一刻も早く腹のたしになる物が欲しかった。
町に集結している、反政府軍の装甲車や戦車が多く走っているが、
想像以上の数には驚かされた。
「これだけの勢力が集まったか。データより実際見てみると、
実感がわくもんだ」
町の司令部に行って、まず情報を集めないとと思った。病院からは、アルコールの臭いが立ち込めていた。
手術を終えた、看護婦たちが、手術服を脱ぎながら、手を消毒して、
水で洗っている。
ティムは、勤務を終えた後、病院に立ち寄るのは日課になっていた。
は身寄りを戦争で失った、あのチョコレートを分けた男の子の心配をした。
ティム車椅子に若くしてなっていて、自信を喪失したのだろうか、ラリーの問いに少年の顔は暗かった。
ある日、少年を車椅子で散歩させてあげた。
その日は、会話しながら公園を散歩するくらいで終わったが、
ある日、風呂に看護婦に入れてもらっている時に、その姿を見て何人か、
「あんなふうになりたくない」なんて声が、患者の男の子まで聞こえてくる。
その時、男の子は黙っていたが、男の子は言う。
「夜になると、僕と同じ戦争の患者がよく口にするのです。こんな車椅子生活が永遠ですか・・・。昔は陸上をやっていました。速かった・・・。自分の事ですが、
若くして足を失った人間の気持ちが解りますか?」と、ラリーに愚痴をこぼす。
ラリーは考えていた。
「この少年が大人になる頃自分は何をしているだろう」
「貴方は軍人で素晴らしい方です。反政府を倒して戦争を終わらせてください」と、言う。
ラリーは、「ああ」とだけ答えて、
そのまま車椅子を動かしていた。
その日の午後、
病院中を騒がす事件が起こった。
「一人患者がいなくなった」と、看護婦が騒ぎ立てている。
ラリーも病院にいた。
「患者がいなくなった。あなた、知らないですか!」と若い看護婦がラリーに問う。
「知らないが。何処にいったのか・・・」と、それが自分に足の事を言っていた少年なのは、大分たってから理解できた。
「あなた、ずっとそばにいたじゃない?」
「昼前一緒にいたあの子よ」と、言う。
「そこらを一緒に探してきましょう」と看護婦は言った。
探せるだけ探してみたが、病院にはいないようだ」
「外出かも」と、別の看護婦は言った。
その慌てぶりを横目で見つめながら、ラリーは少年を心配する。
「外を探すの?外の雪はだいぶおさまりつつあった。
「大雪じゃない」と、看護婦は言った。
「そのうち帰ってくるんじゃないか」と患者の一人は言う。
「でもあの足で外へ行くのは危険だわ」と看護婦は慌てていた。
「あの足じゃ、そうと遠くへは行っていないと思う。近くを探してみましょう」と、看護婦は人数を集めて言った。
「僕も手伝うよ」とラリーは言った。