07
50年代風の自動車が時たま行き交う鉄橋にも町にも大聖堂の時間を知らせる鐘が鳴り響いた。
その日は、大学の卒業を祝う宴会に招かれ、友達とこの鉄橋の所で待ち合わせをしていた。
そんな時、自動車に乗った大学の友人の一人が声をかけた。ニートベルトだった。
「これで、宴会場まで行くぞ」
そう言われたティムは彼の車に乗り込んだ。
「どうだ、いい車だろ」
「ああ 大学の卒業パーティーだから久々に盛り上がろうじゃないか
それとこんな高そうな車買ったのか?」
「今、親父に無理言って貸してもらっているんだ」
ニートベルトはそう言って、ティムの髪を掻いた後、ラジオをつけながら宴会場に向かった。
宴会場は大学の校長の大きな家で行われ、同じ大学の後輩達も多く招かれていて、
その日は、夜まで大騒ぎをしていた。パンやチーズや肉料理が振る舞われ、
その日は酒のいり過ぎで病院送りにされた奴もいるくらいだった。ティムとニートベルトはビリヤードやダーツをして盛り上がっていた。そんな時、大学の後輩がピアノ演奏を初めた。
「いい曲だ。まだ別の奴を」後輩が頼む。
「先輩も何か、ピアノか歌を」と言う。
ティムは一瞬考え込んでから
「トランペットはないだろうか?」
後輩達が「今日を盛り上がらすため一杯用意しておきましたからね。あるといいですが」後輩が荷物を調べたが、トランペットは無い。
「それなら、僕のを貸してあげよう」と校長先生の子供が棚から調べて、家にあるトランペットを持ってきてくれた。最初はためらったが、
友人に押され「じゃあた披露しよう」
そう言ってティムはグラスに注いだ葡萄酒を勢いよく飲みほすとウスティオ時代の曲を披露した。
最初は後輩達は何の曲かわからなかったが、ピアノを弾いている後輩はテンポ意だけは理解したようで、曲にあわせてピアノ演奏をした。
ベルカの曲で知っている曲はなかったので、その場しのぎだった。よく亡くなった父が聞かせてくれた、ウスティオのゆっくりとした好きな曲だった。
知っている人間は少なかったので宴会場は拍手でなく落ち着いた雰囲気にかわっていった。
ティムはトランペットを弾いて曲を終わらすと、酔いが回ってきて、つまずいて倒れ、起き上がったが、
「もう限界」
そのまま
長椅子の所に体を横たえ、そのまま寝込んでしまった。パーティーは朝まで続いた。
大学の卒業式を終えたティムは学資取得の時、校長と握手をかわした。
卒業式のその写真を自宅でアルバムに収めた。
その夜も宴会だったが、ティムはそれに行かず町の大聖堂にいた。
大聖堂で、バッハのミサ口単調の合唱が演奏されていて
信仰深い音楽好きの人がそれを聞きに来ていた。
その中にニートベルトの姿もあり、演奏が終わると、ミサと賛美歌を聞き終えた多くの人が帰る中
ティムとニートベルトだけは聖堂の長椅子から腰を離れず残って話をしていた。
大聖堂は、人が帰った後、静寂に包まれていた。
紫色のステンドグラスの窓から少し色を変え、
入る光を浴び、ティムは聖堂の中央に飾られている
まるで人々の罪を一心に受け止めて死んでいったかのような、
神秘的な嘆きと悲しみに満ちた、キリスト像をじっと見つめながら黙り込んでいると、
ニートベルトが言った。
「卒業したから後は何するつもりなんだ?」
「ウスティオに戻ろうと思う、このままもう少しベルカで残ろうかで悩んでいる。ベルカ国籍も持ちたいが僕はウスティオ人だ、ベルカの政治体制はわかった。極右政党が政権を持った。ウスティオがいい。親達もいる」
「君は?」ニートベルトに尋ねる。
「軍に入ろうと思っている」
その後ニートベルトは続けた。
「ベルカ国籍を持ったらどうしたい?」
「大学の成績は良くなかったが、友人と共に新聞社に入りたい。大学の講師の資格を持ちたいと考えている。頑張ってみるつもりだ。
それから考えていこうと思っている。これからも長い付き合いの友人でいてくれ」
「ああ。軍に入れば大変だろうなぁ」
その後二人で町のハムやミートローフの溢れる市場で食事をした。