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朝、霧が町を覆っていた。野良猫はこんな日はよく見かける。僕は家の外に出て、自販機でココアを買った。
町の霧はまるで、すべてが古代の世界のように見せる。朝のトーストをトースターで温め、それに生卵と牛乳を添えて、一気に平らげた。
今日1日休みをとり、結衣の家に向かった。なぜ、こんな依頼を引き受けたのか、それは結衣さんへの親切心。
その頃には霧も晴れてきた。子供の事は聞いていたし、夫は良き理解者だったのだろう。その夫を付け回している。
仕事の合間を使い、結衣の夫の周りの行動を把握していた。
10日ぐらいすると、結衣の夫の事は分かってきた、進学校を卒業して結婚したのは目立たない歯科医で高級な車に乗っている。
結衣の予感は的中した。女には会っているようだ。不倫相手の場所を確認して、事の知り合いから盗聴器を2つ購入した。
この数週間、仕事でタイムカードを早めに終わらせて、彼の後を着けてきた。尾行である。
土曜日だけは行動は別だった。不倫相手と会っている。
予想どうりラブホに行っている。歳は20代くらいの同じ病院の女のようだ。ベランダで観葉植物を育てている。
僕は一緒にラブホに行っている写真を撮り、買った盗聴器を仕掛ける。
相当親密な関係だ。
1ヶ月調べて、盗聴器を外し回収する。ヤッている音声まで記録出来たが、結衣さんの気持ちを考え、あえて残さなかった。
体だけの関係ではない。
そう思いながらそれを1日1日、自宅で紙に家の鏡に貼り付け、赤いペンで日付けをいれていく。家でまとめあげた後、それを書類に移して自宅に机の引き出しにしまった。
次の週末に結衣と会う機会を同じ喫茶店に設けた。
自分が依頼しておいて雰囲気的にいいずらかったのだろう、最初はその話をしたがらなかった結衣だったが、僕は入れ物の茶色の封筒を差し出した。
書類いれの封筒から、1枚の不倫相手とのキスシーンの写真が少しのぞいていた。
「お金はいらないよ」と僕は短く答えて席をたった。
結衣は少し泣いていた。