火星先カンブリア紀
諭の子供の祐樹が諭の危篤を知ったのは、宇宙歴5月の事だった。
祐樹は火星の鉄道に乗り、父の所に向かっていた。
諭は化学で人工的に酸素や水素から水素水を作り、火星の大気に気体を放出する事に邁進して、どれをこの惑星の気体の種類等の議論や考え方、必要な酸素量と気体の必要濃度や安全濃度を計算していた。
何年かけて地球と同じような大気を持つ惑星に変わったのは素晴らしかった。
そして諭は砂漠の火星の土地を人工土壌に変えようとも頑張っていた、
そんな矢先の出来事だった。
医師が、
「諭にあげる血液が足りないんだ」
「じゃあ人工血液を作るには、水と赤血球の代わりが大まかにいる。それと血液型が同じでないと。水でもジュースでも何でもいい、
白血球の代わりも、アンドロイドなら問題ないんだが、
でも元々の血液があるのに、人工血液はあうだろうか?
みんなの血液をくれないか?
血液型は?」
父の元にたどりついた祐樹に病床の息が上がらない状態で一樹は祐樹に言った。
「祐樹・・・お前の顔を初めて見たのは宇宙船に乗っていた頃だ・・・いい大人になったな」
「父さん・・・」
祐樹は諭の顔を見つめて小声で答えた。
諭はそのまま頭をたれると、
「祐樹、お前はこの土しかない荒野の星を地球から仲間達とともに暮らせるよき惑星にしてくれ、それが私がお前に与える使命だ」
「わかったよ父さん。だから今は楽にして」祐樹は答えた。
太陽が沈み、暗闇に包まれた頃、祐樹が目を離した隙に諭は息を引き取った。
周りの女性からはすすり泣く声が聞こえた。
祐樹は悲しむ暇もなく、これからの事を皆と話しはじめた。
「遺体は谷に沈めて、この星の自然に帰そう」仲間の一人が言った。
「父はこの星に来た、最初の最も苦労した人間だ、地球のように墓なんて作ってどうする?父の意思はどうゆう物だろう」祐樹は言った。
「一樹はこの星に皆とともに最初に来た人だ、苦労をわかって墓にするのがいいと思うが。残すべきだろう」若い仲間が言う。
沈黙の中、
暗闇が支配していた。
祐樹は、
「この星は岩と荒野しかない、谷に葬ろう、この星は岩と土しかないが父の墓を作ることはできる」
諭の遺体は谷に葬られた。
そうしているうちに火星の祐樹達に小ぶりの雨が降り出した。
「雨だ・・・火星に初めて雨が降った!」
子供達の喜びの声が聞こえる。