第二次スーパーロボッコ大戦 EP59
「雁淵軍曹がJAMにさらわれた!?」
「何だって〜〜!」
ようやく帰還の目処が立ち、パリからの帰り支度をしていた502統合戦闘航空団にもたらされた情報に、皆が一斉に驚愕する。
「どういう事だ!? 孝美と姉御も一緒だったはずじゃないのか!?」
「お、落ち着いてください。今アップロードされたばかりの情報です。詳細は今確認中です」
直枝がその情報をもたらしたブライトフェザーに詰め寄るが、詳細情報がまだ上がってきてないらしく、口ごもる。
「仲間の方が誘拐されたって本当ですか!?」
「どうなっている!」
そこで同じように情報を聞いたらしい巴里華撃団が駆け込んでくるが、双方混乱するだけだった。
「ブライトフェザー、詳しい情報はどこで手に入る?」
「今アルトレーネがマスターと共にペテルブルグ基地に帰還中です。基地にはGの方で手配した空間通信装置が設置されているので、それを使えば詳細データが受信出来るかと」
「そうか、皆一度落ち着け。今ここで私達が騒いでも無意味だ。詳細が分かったら知らせる」
「待ってられるか! オイ、確か転移装置とかいうの使えるようになったか!?」
「ペテルブルグ基地に今日中に設置、調整予定です。ただ、次元間転移は学園の大型転移装置からになりますが………」
「じゃあまずそっちだ! ここのは使えるのか!」
「一応調整は済んでるけど…」
「落ち着きなって。さらわれてすぐどうこうって事は無いと思うよ」
武装神姫に帰還方法を聞きながら、我先に戻ろうとする直枝をクルピンスキーが止める。
「この間の作戦の時聞いてるだろ! 幽閉どころか何されるか分からねえんだぞ!」
「向こうがその気なら、もっと早くにさらわれてると思うな」
「一理あるな」
興奮状態の直枝にクルピンスキーが諭すように言うのを、聞いていたグリシーヌが頷く。
「確かに、妙な話ですね。幾らJAMの技術が優れていると言っても、こちらもそれ相応の体勢を整え始めています」
「皆さんが帰還する前に慌てて行ったという可能性は?」
ロスマンも頷く中、花火の指摘に皆が考え込む。
「そもそも、私達の帰還の期日までは向こうは知らないのでは? それになぜひかりさんなのでしょう?」
「そんなのあいつがグズだからだろ!」
「でも、私達まとめてこっちに飛ばすような連中だよ? その気になればそこにいた人達全員まとめてさらえたんじゃ………」
ポクルイーシキンの新たな疑問に直枝が率直過ぎる可能性を上げるが、ニパがそれをやんわりと否定する。
「確か、幽閉されてた連中はみんなどっか特別な連中だって聞いてるぜ? そのさらわれた奴は何かあるか?」
ロベリアの指摘に、502のウィッチ達は顔を見合わせる。
「特別………ひかりさんに何か有りましたっけ?」
「がんばり屋なのは認めるけど、特別って言われると………」
ジョゼと定子がひかりの普段の行動を思い浮かべ、首を傾げる。
「固有魔法は変わってるが、特別ってほどじゃねえな」
「そもそもあんな使うの難しいの、欲しいのかな?」
「それなら、お姉さんの方狙うんじゃ?」
直枝、クルピンスキー、ニパの三人も首を傾げて考え込む。
「変わってるってどんなの?」
「ああ、ひかりさんの固有魔法は接触魔眼、触ったネウロイのコアが見えるんですよ」
「待て、つまりそれは戦闘中に相手に触れねばならんのではないか?」
コクリコの疑問にロスマンが説明するが、グリシーヌがすぐにその問題点に気付く。
「だから普段はラル隊長から使用を禁止されてます」
「はあ、そちらも色々大変なんですね」
「あの〜」
ポクルイーシキンが更に追加説明するのをシスター・エリカが頷くが、そこで彼女の頭にいたアルトアイネスが声を上げる。
「アイネス、どうかしました?」
「それが、さらなる追加情報が」
「こちらにも来てます」
アルトアイネスだけでなくブライトフェザーも片手を上げて追加情報を確認する。
「一人減った変わりに、二人増えたって」
『は?』
「正確には二人と一匹、それに追加の神姫が一体だそうです」
「それって、つまり………」
少し後 学園 職員室
「聞きました?」
「ああ、現地に残っていた502のウィッチが一名、JAMに誘拐されたらしい」
「それに、新しく転移されてきた人達が二人いるとか」
「惑星エアルの人間だそうだな」
「ではニナさんのお知り合いですかね」
「それなんだが、名前を聞いた途端にウォン当人から「少しだけ自分の事を黙っててくれ」と言う話でな。どうやら少し顔を会わせ難いらしい」
「少しだけ、と言う事は心の準備の必要な方がおられるのでしょうね」
「目に見えて慌ててたからな、じきに落ち着くとは思うが」
「ですわね。当面の問題は」
「ここに来てJAMに新たな動きが出てきた事、だな」
どりあと千冬が、つい先程来たばかりの最新情報を確認しあっていた。
「ここに来て更に誘拐されるとは………こちらも警戒を強めた方がいいか?」
「だとしても妙ですわね。さらった代わりに追加するなんて、何がしたいんでしょうか?」
「確かにな。アイーシャ・クリシュナムやニナ・ウォンのような特別な事例を除き、他はチームや組織まるごと、というのばかりだったはずだ」
「ここなんかその典型的な例ですけれど」
「偶発的に巻き込まれた事例もあるようだが、明らかに違う………JAMの目的が分からん」
「そもそも人ですらない相手を理解しようとするのは困難でしょう?」
「それもそうか。緊急事態で502は明日の帰還予定を急遽前倒しだ。向こうの転移装置の調整待ちらしい」
「一度に行ければ良いんですけれど、何かと面倒ですわね」
「致し方あるまい、カルナダインもまだ戻ってきてないからな。交渉に行った者達も双方問題が起きてすぐに戻れそうにないそうだし」
「その内、こちらもどこかの世界に呼び出されるかもしれませんわね」
「いつでも対応出来るよう、準備をしておかないとな」
「ええ」
二人が話す対応の中身が、生徒達へのシゴキだろうと推測して他の教師達は思わず身をすくめていた。
同時刻 巴里華撃団基地通信室
『転移装置とやらはGと名乗る連中が来て今吶喊で設置中だ。もう少し待っててくれ』
「早めに頼みたい所だな。でないと部下達を抑えられん」
アウロラからの次元通信に、ラルが背後で通信画面をガン見している部下達を差し置いて平然と言い放つ。
「それで、そちらの状況は?」
『孝美がかなりショック受けてるな。客人が来てる手前、なんとかとりつくろってるが』
「孝美が………そりゃ目の前で妹さらわれればな」
ラルの背後で聞いていた直枝がポツリと呟く。
『一応、偵察隊が周辺を捜索してるが、多分何も見つからないだろう。見事に消えたからな』
「雁淵軍曹をさらった直後にあの霧の竜巻が消えたというのも気になるな。目的を終えたという事か?」
『さあな。警戒はしてたが、かなりのネウロイが飲み込まれてるのは確かだ。こちらじゃネウロイがいなくなるならむしろありがたいなんて意見も出てる』
「代わりに何が出てくるか分からないのではな。それで、その雁淵軍曹の代わりに出てきた客人の様子は?」
『それは…』
AD1946 オラーシャ ペテルブルグ基地
「うう、寒いとこじゃの………」
「砂漠から雪原じゃね………」
部屋に設置されたストーブの前で、マシロとアリカが借り物の防寒着をまといながらも震えていた。
「熱いコーヒーを入れました。これで温まってください」
「おお、すまんな」
「お砂糖あります?」
そこで孝美が入れてきたホットコーヒーを受け取った二人が、それをすすりながら一息つく。
「とりあえず、だいたい分かった。よく分からんという事が」
「マスターはいつもそれなのです………」
二人から話を聞いていた義子がうなずき、アルトレーネがうなだれる。
「マスターとグランドマスターの話を総合する限り、お二人のいた世界でもこちらとほぼ同様の事態が起きている事が想定できます」
「というか、あんなのが他にもおるのか。これは一刻も早く戻ってこの事を皆に知らせ、対策を練らねばならぬ」
「だよね………ガルデローベは大丈夫かもしれないけど、他の所にも襲撃あったんでしょ?」
「アスワドは撃退に成功したらしいが、シュヴァルツはやられたらしいからな。いつまでもこんな所で震えてるわけにはいかん」
「あの、もっと着る物を持ってきましょうか?」
「つうか薄着過ぎるだろ。ウィッチじゃないんだから風邪ひくぜ?」
「それがいいかもしれんな………でなければアリカ、ずっとマテリアライズして妾の防護をしろ」
「いや、普通に厚着しようよ………」
マシロの提案にアリカが思わず苦笑する。
「とりあえず、そこの無駄にデカイのでも抱いてたらどうだ」
「なかなか言うこと聞いてくれなくて」
ストーブの間近に陣取って丸まっている猫のミコトを指差す義子だったが、アリカの言う通りミコトはそちらを一瞥すると丸まったまま動こうとしない。
「お二人が無事という事は、ひかりも無事なんでしょうか………」
「その可能性は高いと推測出来ます」
「前回と違い、今回はかなりの確率で故意に特殊戦闘能力者同士を接触させてるみたいなのです。おそらく、雁淵軍曹もどこかの組織に接触してると思われますが………」
「実験台になってなければな」
心配そうな孝美にジュビジーとアルトレーネが前向きな可能性を提示するが、義子の一言に孝美が思わず身を固くする。
「そっちの可能性は低かろう。もし実験台にする気なら、妾達もそのJAMとやらにさらわれておるだろうからな」
「それもそうだね」
「そう…ですね」
まだ表情の固い孝美に、むしろマシロとアリカの方が心配する。
「で、ラル隊長が帰ってきたら今後の事を決めないとな。悪いが、ここは一国の女王様を泊めておけるような場所じゃないぜ?」
「妾は別に構わん。話が全て本当なら、妾はそちらが聞いた事も無い国の女王じゃからな」
「いえグランドマスター、セキュリティの問題もあります。ここには凍りついた河に落ちても稀に風邪を引く程度で済ます人達の巣窟だそうですので」
「はっはっは、そりゃ鍛え方が足りねえな」
「凍った河に落ちてもナノマシン耐えられるかな………」
ジュビジーの説明と義子の突っ込みに、アリカですら少し引き気味になる。
「あ、戻ってきたようなのです」
そこでアルトレーネが転移反応を感知、程なくして皆がいる部屋の戸がノックされる。
「失礼する。私がここの基地司令の502統合戦闘航空団隊長のグンドュラ・ラル少佐だ」
「ヴィントブルーム王国女王、マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルームじゃ。よろしく頼む」
室内に入ると自己紹介しながらラルが手を差し出し、マシロがそれに応じながらその手を握り返す。
「そしてこいつが妾のマイスター乙HiME、蒼天の青玉 アリカ・ユメミヤ。でもってペットのミコトじゃ」
「アリカです! よろしくおねがいします!」
続けての紹介にアリカが元気よく自己紹介し、ついでにミコトも小さく気の抜けた声で鳴く。
「それではマシロ陛下、こちらの状況の説明は?」
「それなりに聞いておる。すぐに帰るのも難しいという事もな」
「そちらの世界の空間座標が分かればすぐなのですが………」
「どこも混乱しとるとの話も聞いた。妾の世界もどうなっておる事か………」
ラルの肩にいたブライトフェザーが申し訳無さそうに呟き、マシロも思わずぼやく。
「あなた方の処遇はNORN上層部ですぐにでも決定します。悪いようには致しません。それまでおくつろぎを」
「すまんな、迷惑を掛ける」
「いえ、こちらでも色々協力してもらう事になるかもしれませんので」
「孝美!」
ラルとマシロが色々話し込む中、続けて戻ってきた直枝が部屋に飛び込んでくる。
「ひかりの事聞いたぞ! お前は大丈夫か!」
「直枝………私は大丈夫」
「どこにいるか分かったらすぐに助けにいってやる! オレに任せろ!」
「ええ、そうね………」
「どうやら、消えた軍曹はだいぶ好かれているようじゃな」
「ええ、他の部下も心配してます。それはそちらも同じかと」
「妾は、どうかの………」
マシロの呟きに、ラルは少しだけ眉をひそめた。
AD2301 香坂財団 超銀河研究所
「新たな転移者、マイスター乙HiMEとそのマスターの女王陛下………」
自分専用の無駄に豪華な執務室で香坂 エリカは先程届いたばかりの情報を見ながら、険しい顔をしていた。
「ニナ・ウォンの場合は元マイスター乙HiME個人で力は発揮出来ないみたいですけど、今回の場合はすでにJAMと交戦した模様です。かなりの戦闘力との事で」
同じ物を見ていたミドリが、武装神姫から送られてきたと思われる戦闘データを確認しながら報告する。
「JAMも今度はちゃんとセットでさらったようね。なんでリリースしてきたかは不明だけど」
「取り敢えず、仮にも一国の女王陛下という事なので、今後の処遇をどうするかの緊急会議が行われます」
「王族はすでに学園の方に二名おりますし、そちらに預けるのが妥当かしら。VIPの扱いもこれから考えた方がいいわね」
「本当に色んな人達が来てますしね。待遇の方も考えないと………」
「その点も織り交ぜてちょっと緊急会議に行ってきますわ。場合によってはこちらから色々用意しませんと。学園には今エミリーとアコ、マコがいたわね。これから向かうと連絡を、ミドリはこちらに残ってる仕事の取りまとめをお願い」
「了解しました。あまり無理難題言う女王様じゃないといいのですが………」
ミドリの心配を他所に、色々と溜まっている仕事も兼ねて香坂 エリカは転移装置へと向かう。
「もう少し次元転移装置も増やさないといけませんわね。しかし流石に動力の問題が………Gの方々ももう少し融通を…」
現状、NORNの最大のスポンサーとなっている香坂財団でも手が回りきらない所が各所に出ている事に、香坂 エリカも色々ぼやきながら転移装置がセットされている部屋に入る。
「学園に向かいます。準備を」
「分かりましたエリカ様」
室内に待機していたオペレーターに目的地を告げ、エリカは準備が終わるのを待つ。
「座標設定完了、転移エネルギー確認、どうぞ」
「それでは行ってきますわ」
転移装置の中に入った香坂 エリカは転移装置の起動を待つ。
「転移開始します」
転移装置が起動、その場から目的地へと数瞬で辿り着く、はずだった。
「! 何か…」
何故かすぐに目的地に辿り着かない事に、香坂 エリカが違和感を感じた時、突然周囲の景色が目まぐるしく変わっていく。
「まさかエラー!? デバッグもプロテクトも徹底的に…」
何らかのトラブルかと思った香坂 エリカだったが、そこで自分の周囲を霧のような物がうずまき始めているのに気付いた。
「まさか、転移中に干渉!? 次の目標は私!?」
それがJAMによるモノだと半ば確信した所で、彼女の体はどこかへと弾き飛ばされていった。
転移連絡が有ったにも関わらず、何時までも現れない香坂 エリカが転移中に行方不明になった事が知らされるのは、それから少しの時が経ってからだった。
AD1929 紐育 ベイエリア
「502もようやく帰れると思ったら、厄介な事になってるようね」
「明日は我が身、という奴かしら」
自由の女神を望む喫茶店で、帰還前にお茶をしていた圭子とラチェットが先程知らされた情報に渋い顔をしていた。
「詳しい情報はまだアップロードされてませんが、502のウィッチの失踪と同時にマイスター乙HiMEとそのマスターが出現したのは間違いないようです、陛下」
余人に見られないよう、圭子のカメラバッグの中からサイフォスがデータの詳細を確認する。
「502もこちらも、部隊まるごとだったのにいきなり一人だけってのも妙な話ね」
「代わりに他の世界の人間が出てくるってのもね。JAMのやり方が変わったのかしら」
「FAFの報告からもJAMの戦術がかなり高度かつ変則的なのは確認出来ています。なんらかの新しい戦術かと」
「もしくはただの好奇心かもね。調べる限りマジメに考えれば考える程、JAMってのの考えが分からなくなるわ」
「そもそも完全に人間じゃない者の思考を理解しようするのが困難、どころか不可能なのかもね」
「考えてみればこうやって違う世界の人間同士が普通に会話できてる方が不思議なのかも知れないわね」
「言えてるわ。お互い部下が一緒になってお土産買いあさりに行ってる事とか」
「変な物買ってこないといいんだけど。特にマルセイユあたり」
ティーカップを戻しながらラチェットが笑みを浮かべ、圭子もそれに応じるように笑う。
「そう言えば前線基地で見つかった資料のレポート読んだ?」
「全部ではないけど、一応ね。問題はどこまでが正確な資料かどうかだけど」
「明らかなオカルト雑誌まで混じってたからね。あの粘土細工みたいな不気味なの、そのオカルト雑誌だとノイズって呼んでたけど」
「正式な呼称と確認されたら、それ採用されるらしいわね。遭遇したら逃げろって書いてあったのよね?」
「突如として現れて人間を襲って消えるある種の災害、こっちのネウロイとほぼ一緒ね」
「ただ、付随事項の方が気になるわね」
「ノイズが消える前に歌が聞こえる、って奴ね。詳細は全く不明らしいけど」
「そちらの世界への接触も急がねばなりません。仮称ノイズ相手には、我々は何の役にも立ちませんので」
「それこそひょっこり現れたりしないかしらね〜」
サイフォスの苦言に、圭子も思わずぼやいた時だった。
口論のような物が聞こえ、二人はそちらを見る。
見ると、港湾労働者のような者達とスーツ姿の明らかにガラの悪い者達が、何か口論の真っ最中だった。
「何かしら」
「労働者とマフィアあたりがショバ争いしてるんでしょ」
「この前まで砂漠だったのに、もうショバ争い?」
「大統領主導で半月で堀り起こしたのは凄いけど、その影響で色々ややこしくなったらしいわ」
「新手の事業の発生と旧来の事業とでね。どこでもありうる話か」
「積荷や船や港湾の管理権で揉めるのは珍しくないわ。悪化するようならすぐ警察が飛んでくるし」
「治安が良いのか悪いのか………この間真美が拳銃強盗に有って返り討ちにしちゃったけど」
「多分誘拐も兼ねてたわよ。両腕へし折るだけで済ませるなんて優しい子ね」
「こっちの世界だとウィッチに手を出すのは余程の命知らずか世間知らずの二択ね」
そこはかとなく物騒な会話をしている二人だったが、向こうの口論が更に激しくなってきているのに顔をしかめる。
「河岸を変えようかしら」
「それがいいかもね。お土産を買うならいい店知ってるわ」
「あんまりいいの買っても砂漠じゃすぐ傷むしね…」
「陛下!」
代金を置いて席を立とうとした二人だったが、そこでサイフォスがいきなりカメラバッグから飛び出してくる。
「磁界異常感知、大規模転移の前兆です!」
「どこで!?」
「ここです!」
サイフォスの警告に圭子は護身用の拳銃を、ラチェットはスカート下のホルスターからナイフを取り出す。
「紐育華撃団基地に連絡!」
「すでに警告は送って…次元歪曲発生! 来ます!」
「あっち!」
ラチェットが周囲を見回しながら叫ぶ中、サイフォスと圭子がちょうど口論していた者達の向こうに唐突に霧が発生し、渦を巻き始めるのを見る。
即座にそちらへと走り出した二人だったが、口論していた者達は数名が異常に気付くが興奮していた者達はすぐに気付かない。
走りながら圭子が上空に向けて発砲、銃声に皆が振り向き、そして全員が異常を悟った。
「あなた達、すぐに避難しなさい!」
「何だいきなり!? つうかなんだこの霧!」
「早く! ここは危険よ!」
「だから何が…」
圭子とラチェットが警告を発する中、口論していた者達は困惑するが、そこで誰かが霧の竜巻から何かが出てくるのに気付く。
「な、何だアレ?」
「化け物!?」
出現したそれが、妙にカラフルな色合いで奇妙に捻じくれた外見をしているのに誰もが驚くが、圭子とラチェットの顔色が変わる。
「ノイズ!」
「なんて事………!」
「来るな化け物!」
そこでマフィアらしき男が懐から拳銃を抜いてノイズに向けて連射、他の者達もそれに続いて次々と拳銃を取り出して撃ち始めるが、放たれた弾丸は全てノイズを素通りしていく。
「銃が効かねえ!?」
「どうなってる!?」
「この野郎!」
「ダメ!!」
港湾労働者らしき男が工具を振りかざしてノイズに向かっていき、圭子が止めようとするがそれよりも相手がノイズに接触するのが早かった。
振りかざした工具は何も無いようにノイズを素通りし、そのまま地面へと落ちる。
「?」
一瞬何が起きたか分からなかった男は、自分の手を見て、ノイズが触れた部分が炭と化して崩れているのに気付いた。
「な、え…」
その顔が驚愕へと変貌する直前、ノイズがその男へと覆いかぶさり、触れた部分が一気に炭へと変わっていく。
「い、あああぁ!」
何が起きたか分からない男の絶叫が響く中、その全身が炭となってその場に崩れ落ちる。
「う、うわあああぁぁ!」
「に、逃げろ!!」
状況が理解出来ないが、ヤバいと判断した港湾労働者とマフィアが一斉に逃げ出す。
「ひっ…」
マフィアの一人がノイズに追いつかれそうになるが、そこへ銃弾が連続で当たり、ノイズの方が崩れ去る。
「き、効いた?」
「ここは私達に任せて!」
「数が多いわね。貴方達がそのまま攻撃しても無駄よ! 助けてほしかったら、その手に持った物全て置いてきなさい!」
使い魔のキタキツネの耳を生やした圭子が硝煙の漂う銃を手に叫び、ラチェットがナイフを次々投じながら命令するように叫ぶと、皆が慌てて拳銃や工具を置いて逃げ出す。
「すいません陛下、私の武装では…」
「分かってるわサイフォス。あなたは逃げ遅れた人がいないか見てきて」
「ここは私達で防ぐしかないわね」
置いていかれた拳銃を拾いながら、圭子とラチェットは次々と出現するノイズを前に頬を歪ませる。
「ロートル二人で、どこまで持つかしら」
「すぐにみんなが来てくれるわ。それまで持たせましょう」
すでに一線を引いた二人が、半ば絶望的な数のノイズにためらいなく攻撃を繰り出した。
最初に感じたのは浮遊感、そしてすぐに上下感覚が消失する。
「何? 何が起きたの!?」
視界に渦巻く霧と、見た事の無い光景が次々と入れ替わりに飛び込んでくる。
「これって、ひょっとして…」
こうなる直前に見た物、突然目の前に出現した霧の竜巻、そしてそれから霧が伸びてきたような気がしたが、やがて体がどこかに引っ張られ、光が見えたかと思うと叩き出されるように地面らしき物に放り出され、上下感覚が戻ってくる。
「あいたぁ〜、一体何がどうなって…」
頭を振りながら状況を確認しようとするが、耳に響いてきた銃声に一気に精神が覚醒する。
「戦闘!? ノイズ!」
銃声の方に振り向くと、そこで見た事のある敵の姿に、ためらわずそちらへと向けて走り出す。
そして、首から下げられたペンダントを手にとってかざすと、口から歌が紡がれる。
戦いの開始を告げる歌が。
「なんて数! 数えてられない!」
「しかも完全に目つけられてるわね」
マフィアが置いていった拳銃を二丁拳銃にして迫ってくるノイズ相手に連射する圭子に、片手に拳銃、もう片手にナイフを持ったラチェットが背中合わせになりながら、ほぼ全方位から迫ってくる相手に二人は険しい顔をしていた。
「攻撃の効果は出てる。出てるけど………」
「魔法力でも霊力でも、かなり込めないと倒せないわね」
下手に消費をケチると、倒しきれずに迫ってくるノイズ相手に、二人は苦戦していた。
「弾が切れるのが先か、私達のガス欠が先か………」
「あの回復ドリンク、持ってきておくべきだったわね」
「紐育華撃団、ストームウィッチーズ双方今出撃準備中です! もうしばし堪えてください!」
サイフォスも攻撃を試みるが、ことごとくすり抜けて意味が無い事に焦っていた。
「ラチェット、あとどれくらい持ちそう?」
「きびしい、とだけ言っておくわ」
「奇遇ね、私もよ」
互いに呟く声に覇気が失われつつある事に気付くも、その手は攻撃を止めようとしない。
「陛下! 10時方向!」
サイフォスの声に二人がそちらに振り向くと、他の倍のサイズはあろうかという中型ノイズがこちらへと向かってくる。
「圭子!」
「分かってる!」
二人が同時にそちらに銃口を向けるが、そこでいきなりノイズの動きが止まる。
「何が…?」
「これは…」
他のノイズの動きも止まり、二人が首をかしげた時、耳にある歌が飛び込んできた。
「歌?」
「確か、ノイズのいる所には歌が…」
そして二人の視線は、その歌の歌い手を捉える。
こちらに向かってくるショートカットの少女が、歌いながら赤いクリスタルのような物が付いたペンダントをかざす。
すると歌に応じるようにペンダントが弾け、それがパーツとなって少女の体に装着されていく。
それを纏うと同時に、少女はなおも歌いながら拳を振り上げ、突き出す。
その一撃で、目前にいたノイズが完全に消失した。
「新顔?」
「そのようね。なるほど、これが歌声の正体………」
謎の少女は歌いながらも構えると、周囲のノイズが一斉に彼女の方へと向かっていく。
少女はためらわず、向かってくるノイズに拳と蹴りで応じ、次々と破壊していく。
「おそらくは、歌に反応するタイプの特殊武装。データにありません」
「しかも、かなり強い」
「それは間違いないわね」
サイフォスの解析に、圭子とラチェットは頷きながらも残った力を込めて少女を援護する。
「大丈夫ですか!?」
「一応ね」
戦いながら近寄ってきた少女に声を掛けられ、圭子は苦笑して返す。
「なんでお二人の攻撃はノイズに効いて………それにその耳と尻尾………」
「説明は後」
「もう直こちらの増援が来るわ、それまで持たせてくれる?」
「増援って、ノイズ相手に…」
少女の疑問に、圭子とラチェットは魔法力のこもった弾丸と霊力のこもったナイフでノイズを攻撃してみせる。
「率直に言って、私達ガス欠寸前なの」
「多分そんなに持たせられないわ」
「何が何だか分からないけど、分かりました!」
少女がそう言ってノイズに向き直った時、奇妙な音が響いていくる。
「? これって………」
「はああぁ!」
それがテレビくらいでしか聞いた事の無い馬の蹄の音だと少女が気付いた時、愛馬ラリーに乗ったジェミニが馬上から愛刀を振るってノイズを一閃する。
「ラチェット無事!?」
「ジェミニ!」
「助かったわ」
「たまたまそばにいたからこっち来たのは正解だったね!」
間近でラリーを止めたジェミニに、ラチェットと圭子は胸を撫で下ろす。
「え? カウボーイ? 刀持った?」
一見ちぐはぐな格好のジェミニに少女は唖然とする。
「人読んで荒野のサムライ、ジェミニ・サンライズ参上! って誰?」
「姫、次元転移反応感知。彼女も異なる世界の戦士のようです」
名乗った所で見た事の無い相手がいる事にようやく気付いたジェミニだったが、ウェスタンハットから顔を覗かせたフブキが相手の正体を推測する。
「何が一体どうなって…」
「詳しい話は後ね。今は相手の殲滅が先」
「それもそう………え?」
間近から話しかけられた少女が振り向いた所で、自分の肩に小さな人影がある事に気付く。
「私は武装神姫、ヴァイオリン型MMS 紗羅檀(しゃらたん)。該当条件に一致、今からあなたが私のお姉様よ」
「これって、ロボット!?」
「武装神姫って言うんだよ。詳しくはその子に聞いて!」
「きっと頼りになります」
ジェミニはラリーを翻しつつ簡単に説明し、フブキが追加する中、ジェミニはノイズへと次々斬りかかっていく。
「とにかく、あなたの名前は? 出来れば所属組織も」
「えと、ガングニールのシンフォギア装者、立花 響! 所属はS.O.N.G.です!」
「私は加東 圭子、所属は第31統合戦闘飛行隊 《ストームウィッチーズ》隊長」
「ラチェット・アルタイル、所属は紐育華撃団副司令、ジェミニの上司ね」
「聞いた事ないんですけど!」
ノイズと戦いながら、少女 響は首を傾げる。
「それはこっちも同じよ」
「詳しくは、今分かるわ」
圭子とラチェットが苦笑する中、上空から響いてくる風変わりなエンジン音に響が思わず上を見る。
その音源が急降下しながら、放たれた弾幕がノイズを次々貫き、消滅させていく。
「無事かケイ!」
「なんとかねティナ!」
地表スレスレでホバリングして安否を確認するマルセイユに、圭子は胸を撫で下ろす。
「皆もすぐに来る! 後は任せろ!」
「頼んだわ!」
「あの、飛んでる? 足にプロペラつけて?」
「あれがウィッチ。もう少ししたらもっとすごいの来ますわ」
「もっとって………」
初めて見るストライカーユニットを装備したウィッチに、響は唖然とするが紗羅檀が更に不穏な事を告げる。
「ジェミニ、ケイとラチェットの護衛に回れ! 私が遊撃する! そっちの黄色いの、行けるか!?」
「OK!」
「えと、はい!」
マルセイユの指示にジェミニが快く答え、響が僅かに遅れて返答しつつも、迫ってきたノイズを拳の一撃で消滅させてみせる。
「やるな! じゃあお前は私と反対方向に対処だ! 離れすぎるなよ!」
「分かった!」
即席のフォーメーションを構築し、それぞれがそれぞれのスタイルでノイズと対峙する。
「なんでこんなにノイズが!」
「こいつらの事知ってるの!?」
「シンフォギアはノイズと戦うために作られたんです!」
「聞きたい事は色々あるけど、まずはこの場をどうにか…」
ノイズと戦いながら色々気になる事を言う響に他の者達は反応するが、押し寄せてくるノイズの相手が先決だった。
そこへ、ジェット音のような物が響き渡り、フライトモードのスターが飛来すると変形して次々と着地する。
「紐育華撃団、レディゴー!」
「ロボット!? 待ってノイズ相手に」
蒸気を吹き出しながら出現したスターに響は驚くが、その攻撃がノイズに効いている事に更に驚く。
「なんで? 何が一体どうなって?」
「後よお姉様」
紗羅檀に言われた響が混乱しつつも構え直すが、そこで更にスターがもう一機、なぜかゆっくりと降下してくる。
「ジェミニさん!」
「こちらに!」
よく見ると、スターの真下にいる真美とライーサがスターを持ち上げて飛んでおり、そのままジェミニのそばへと下ろす。
「シンフォギア並の怪力………」
「ありがとマミ! ラリーはラチェット達についてて!」
ジェミニはそのまま自分の愛機へと乗り込み、起動させる。
響き渡る発動音と共に、ジェミニの愛機ロデオスターがガンバレルソードを抜いて構える。
「行くよロデオスター!」
「置いてかれるわよ、お姉様」
「わ、分かった!」
正直完全に訳が分からなくなっている響だったが、取り敢えずノイズの殲滅を優先させる。
続々到着する援軍に、戦況は一気に変化していった。
だがすぐそばでその様子を見ている者達がいる事に気付いている者は誰もいなかった。
「………何がどうなってるでち」
「分からない………変なのと変なのが戦ってる」
「深海棲艦より奇妙なのと、奇妙な艤装付けた人達」
「どうする?」
「今考えてる………そもそも私達はなんでここにいるでち?」
「さあ………?」
「降下!」
戦場上空に到達した紐育華撃団母艦エイハブから、マイルズ率いる陸戦ウィッチ隊がパラシュート降下、着地と同時にノイズへと向かっていく。
「また違うの来た!?」
「あれは陸戦ストライカーユニットを装備した陸戦ウィッチね」
「色々いるんだ………」
小型の戦車を思わせる陸戦ウィッチに、響はもう何度目か分からない驚愕を感じつつも拳を振るう。
「飛行型はこっちに任せろ!」
「マルセイユを中心にライーサと真美は制空権を確保! こいつらをここから絶対出さないで!」
「シンジロウ、星組隊員達に常時霊力を放出させるように! すり抜けられたら霊子甲冑も無意味よ!」
ラリーの背に乗って戦線から一歩引いた圭子とラチェットの指示が戦場に飛び交い、ウィッチと華撃団は連携してノイズを駆逐していく。
「S.O.N.G.にもこれだけ人手あったらな〜」
「大丈夫、多分加わると思うわ」
「え?」
響の呟きに、紗羅檀が妙な返答をした事に響は首を傾げる。
だがそこで、ノイズの一部が港湾から海の方へと向かっていく。
「逃げる!?」
「いや違う!」
てっきり逃走を開始したと思った者達の中、昴がノイズの向かっていく先に浮かぶ遊覧船に気付く。
「まずい、あの船を狙っているのか!」
「攻撃…」
「ダメだ、船が近すぎる!」
「させるか!」
水面を跳ねるようにして船へと向かっていくノイズに陸戦ウィッチ達が砲口を向けようとするが、射線が重なる事に躊躇し、星組のスター数体がフライトモードにチェンジして先回りしようとするが、遊覧船は近すぎた。
船上の観光客達がこちらに向かってくるノイズにパニックになり、遊覧船も回頭しようとするが、その真下から何かが水中を突き進んでいく。
「雷跡だと!?」
遊覧船護衛へと向かっていたマルセイユがその正体に気付き、どこかから放たれた魚雷はノイズに命中すると次々爆発、遊覧船に向かっていたノイズを撃破していく。
「効いてる!」
「あいつらに効く魚雷、という事は………」
旋回しながら謎の魚雷の効果を確認したサジータも驚く中、マルセイユはある心当たりから周囲を探すが、肝心の魚雷を発射した相手は見当たらない。
「ケイ、こっちは大丈夫のようだ! どうやら他にも誰かいる!」
『どこに!?』
「恐らく水中だ! 詳しくは後だ! おい、そっちは頼んだぞ!」
通信の後半は海面へと向かって叫んだマルセイユは残ったノイズを目指してその場を飛び去る。
「………何か頼まれたみたいでち」
「よく分からないけど、あの変なのをあそこから逃したら危ないよ」
「ユーもそう思う」
「船はなんとか逃げたね」
「じゃあ警戒維持、海に逃げようとした奴はは容赦なく攻撃でち!」
「はあっ!」
「たりゃあ!」
聖詠と共に力を込めて放った響の飛び蹴りが、最後に残った中型ノイズの上部を吹き飛ばし、ロデオスターの放った斬撃が下部を両断、上下から食らった攻撃に中型ノイズは崩壊していく。
「後は!?」
「反応はありません、それで最後です」
「え、ノイズの反応が分かるの?」
「ダイアナは星組で一番感知力が有るんだ。彼女がいないって言うなら後はいないね」
「とにかく全員無事ね?」
「私はなんともないぞ」
「こっちも大丈夫ね」
「さて、残るは………」
ウィッチ、星組双方無事な事を確認した圭子は、海の方を見る。
「あの〜、先程はありがとうございました!」
真美が海面へと向かって叫ぶ。
「多分、艦娘の人達ね」
「でもどこにも姿が………」
「待ってください、確かに水中に誰か…」
ノイズにダメージを与えられる魚雷、という事で艦娘の艤装だと推察した者達が海面を見る。
「安心して! こっちは味方よ! 多分そっちの事も知ってるわ!」
ラチェットも海に向かって叫ぶと、気泡と共に何人もの影が水面へと飛び出してくる。
「ぷはあっ」
「ふ〜」
「取り敢えず、敵ではないみたい………」
「こちらを知ってるようだし………」
「うん」
水中から、水着姿の少女達が次々と姿を表す。
「えと、艦娘の方々ですか?」
「そうでち。呉鎮守府所属第ニ潜水艦隊、旗艦の伊58。ゴーヤと呼んで」
「伊168、イムヤです」
「伊8、はっちゃんって呼ばれてます」
「U―511、ユーとお呼びください」
「伊401、しおいでいいです」
それぞれ自己紹介する艦娘達に、ウィッチと華撃団は目を丸くする。
「艦娘ってのが戦闘艦の力を有してるっては聞いてたけど………」
「あなた達、全員潜水艦なの?」
「そう。提督の命令で謎の霧の竜巻の調査に赴いたはずなのでちが………」
埠頭まで近付いてきた潜水艦艦娘達が、そのまま上陸しようとするのを何人かが手伝いながら話を聞く。
「待って、失踪してた艦娘達は元の世界に帰還したはずだけど………」
「あ、そうなの?」
「私達は呉鎮守府の所属で、失踪してた方々は横須賀鎮守府の所属なんです」
「なるほど、所属が違くて連絡が行ってなかったのね」
「え〜と………」
一人全く話が分からず取り残されている響がどうすればいいか分からない中、間近まで寄ってきたロデオスターのハッチが開く。
「お疲れ! 響、だっけ?」
「あ、そちらこそ。所で何がどうなって………」
「う〜ん、話すと長いんだよな〜」
ジェミニに話しかけられ、シンフォギアを解除しながら、響が改めて見覚えの無い場所にいる事に戸惑い、ジェミニがどこから話すべきか迷う。
「そもそもここ、どこですか?」
「………気付いてないでち?」
「そのようね」
「お姉様、二時方向」
「二時………こっち?」
「そのまま視線を上に」
他の者達もある事に気付いてない事を悟る中、響は紗羅檀に促された方向に向き直り、そのまま顔を上げていくと、あるものすごく目立つ物に気付く。
「………え? あれって………」
「知ってる物かしら?」
「お台場………じゃないよね?」
「あれは本物の方よ、お姉様」
「それじゃあ、まさかここって………ニューヨーク!?!?」
「気付いてなかったの?」
「紐育華撃団って名乗ったはずよ」
「この鉄拳娘、変な所で鈍いでち」
絶叫する響に、圭子、ラチェット、ゴーヤはそれぞれの理由で呆れる。
「色々大変な事になりそうね」
「元からです………」
「違いない」
紗羅檀、フブキ、サイフォスの三体の武装神姫の言葉は、ある意味一番的を射ていた………