第二次スーパーロボッコ大戦 EP28
「まずいわね………」
学園からリアルタイムで送られてくる戦況を見ながら、フェインティアが呟く。
「トリガーハートの攻撃も効かないとは」
「前回は見なかったタイプの敵ね」
フェィンティアの肩にいるムルメルティアも同様の意見を持ち、二人そろって考え込む。
その背後では、何とかして増援が送れないかの議論がひっきりなしに行われていた。
「やはりダメです。飛距離が足りません」
「射出カプセルだと、姿勢制御が精一杯です〜」
メルとシーが何度もリボルバーカノンでの射出距離を試算するが、どうやっても足りそに無かった。
「けどあのままだと、あいつらやべえぞ!」
「この前は502統合戦闘航空団と巴里華撃団双方共闘でかろうじて撃退したが、数だけでも数倍はいる」
直枝がリアル送信の戦況を指差し、グリシーヌがセーヌ川に現れた時とは比べ物にならない規模に、表情が険しくなる。
「戦艦に姫級までなんて、鎮守府総出撃レベルね!」
「なんでもいい、私達があそこまで行く方法は!?」
「………」
すでに艤装を装備した金剛と加賀が声を荒らげるが、グランマは無言でうつむくだけだった。
「う〜ん、そのリボルバーカノンのカプセルって自力じゃ飛べないんだよね?」
「はい、元々片道でしか使えない物でして………」
クルピンスキーが確認するのを、花火が説明する。
「前に東京まで行った時は、行くのに15分、帰るのに数ヶ月かかったしな」
「この時代だと、大型輸送機なんてないでしょうし………」
ロベリアが茶化すが、ポクルイーシキンはむしろ深刻な顔をしていた。
「でもさ。そのカプセルをもう一回加速出来ればいいんだよね?」
「う〜ん、誰かに押してもらうとか?」
「誰が成層圏より上で押してくれるってんだい」
ニパとシスターエリカの提案に、さすがにグランマが呆れ返る。
だが、その一言でフェインティアがその方法を思いつく。
「ブレータ!」
『はいフェインティア』
「今から送るのを大至急シミュレートして!」
カルナダインのサブAIになっているブレータに、今思いついたばかりのミッションを送り、少しの間を持って返信が来る。
『可能です、フェインティア』
「すぐにクルエルティアにシミュレーション結果を送って準備を! こっちも準備に入るわ! 有るわよ、貴方達を送る方法!」
『え?』
フェィンティアの話すその方法に、一同は驚くしか無かった。
「うわっ!」
「きゃあ!」
飛んできた砲弾を辛うじて迎撃したが、吹き上げる爆炎にシャルロットとセシリアが悲鳴を上げる。
「旧式なのに、なんて威力………」
「あれを旧式と言っていいのかどうかですわね」
二人の前に、長髪のスレンダーな女性の姿、だが両腕は無数の砲塔の付いた艤装を持った戦艦ル級が立ちはだかっていた。
「どうやら、人っぽい姿した奴程、強いみたいだね」
「ええ………」
そう言いながら、二人は同時に銃口を戦艦ル級に向けてトリガーを引いた。
放たれた銃弾とレーザーは双方戦艦ル級に直撃するが、他の深海棲艦なら多少はその体を削れるはずの攻撃が、平然と弾かれる。
「なんて防御力………!」
「だりゃあああ!」
二人が注意を引いている間に、上空から回り込んだ鈴音が双天牙月の一撃を叩き込もうとする。
だが戦艦ル級は片手の艤装を持ち上げ、その一撃を受け止める。
「このっ!」
拮抗した状態で、艤装の砲塔と、甲龍の崩山が同時にゼロ距離砲撃。
爆風と共に、双方が吹っ飛ばされる。
「鈴!」
「なんて無茶を!」
「けどこれなら………!」
吹っ飛ばされた甲龍をシャルロットとセシリアが二機がかりで受け止め、こちらもダメージを食らいながら鈴音が笑みを浮かべる。
爆煙が晴れていく中、そこにはすでにダメージを受けた部分の再生が始まっている戦艦ル級の姿が有った。
「あれでもダメですの!?」
「けど、今!」
セシリアがあまりの再生力に驚く中、シャルロットが合図を送る。
直後、戦艦ル級の頭上から強烈な閃光が降り注ぐ。
「ドンピシャ! 作戦通りだよ!」
シャルロットが後方、学園の外苑から放たれたあかりのライトニング・ジャッジメントに思わず拳を握り締める。
この一撃のために、専用機三機がかりで効果範囲まで誘導し、のずるとはさみが護衛に立ってあかりを温存するという、シャルロット提案の作戦は見事的中していた。
戦艦ル級の咆哮とも悲鳴とも聞こえる絶叫が周囲に響き渡るが、閃光が晴れるとそこには大ダメージを追いながらも、未だ戦闘可能状態にある戦艦ル級が、その目に青い憤怒と憎悪の炎を燃やしていた。
「もう一発よ!」
『無理! 今のが最後のブリッドよ!』
「あんですって! せっかく苦労したのに!」
『のずるもはさみもブリッド使い果たしてるわ! これ以上の援護は不可能よ!』
「けど、パンツァーの攻撃範囲にこいつを誘導する訳には………!」
あかりからの絶望的な通信に、シャルロットは奥歯を噛みしめる。
シャルロットの懸念を現実化させるがように、戦艦ル級からの猛烈な砲撃が次々発射された。
「何とか持たせるしかないわ! トドメさせる奴が来るまで!」
「持てば、の話ですけれど………」
第三世代IS三機がかりでも苦戦している状況に、セシリアの背を冷たい物が流れ落ちる。
そして、戦艦ル級の背後からダメージを完全に再生させた他の深海棲艦達も姿を表し始める。
「どう戦えばいいってのよ!」
鈴音が絶叫しながら、深海棲艦へと向かっていく。
それは、その場で戦っている者達の思いその物を吐き出しているようだった。
『ダメです! ISの攻撃は全く効きません!』
『ブリッドがほぼ品切れです! これ以上は無理!』
『敵が全然減らねえ! このままじゃ、こっちの弾切れも近えぞ!』
IS、パンツァー、そして401からの報告に、美緒は拳を強く握り締める。
「大変な事になってきました! 深海棲艦の攻撃に、どこも押されております! どういう仕組みかは不明ですが、凄まじい再生力! ゾンビ映画もかくやです!」
つばさの実況もどこか焦りを帯びていく中、美緒は必死になって状況打開の手を考える。
「私の魔法力が残っていれば………!」
今すぐにでもここから飛び出して助太刀したいが、自分にそれが不可能な事は誰よりも己自身が理解しているだけに、美緒は愛刀を手に考える。
『坂本少佐! なんとしても音羽を呼び戻してくれ! もうナノスキンの残時間が五分切ってる!』
「分かっている! 他に誰か増援に迎える者は!?」
『今向かってます! くそ、こいつら固い!』
『どいて〜!』
僚平からの悲鳴じみた声に、美緒は声を荒らげるが一夏とどりすからの返信も、苦しい物だった。
『誰かこっちにも! すごい砲塔持った奴を抑えきれない!』
『こっちも限界!』
『待っててください! もう少しだけ!』
『あとちょっと!』
各所からの増援を求める悲鳴に、亜乃亜やミサキが必死に応じようとするが、彼女達も目の前の敵に対処するだけで手一杯だった。
「何か、打つ手は………」
美緒の焦りは、最高に達しようとしていた。
「限界が近いな」
「ええ」
嶋の出した結論に、千冬も頷く。
だが、どりあだけは沈黙したままだった。
「………仕方ありません。奥の手を使いましょう」
「奥の手?」
「………出るのか」
「ええ」
どりあが立ち上がりながら、優雅に微笑む。
「どうやら、あの子達だけでは荷が重いみたいですし」
「頼む。どうやら、ISではあいつらに対処できないようだ」
「さすがにお化けと戦うのは初めてですけれど」
「今後、増えるかもしれないがな」
嶋の危険な言葉にも笑みを崩さず、どりあはその場を後にした。
「ダメ! ダメだってばお姉ちゃん!」
「離せ! 今出ないと!」
「退院してもしばらくはセットフォーム禁止って言われてるのに!」
「そんな事言ってられるか!」
病室から出撃しようとしているねじるを、妹のねじりが必死になって止めようとしていた。
「それに海の上じゃ戦い用がないよ!」
「ISに掴まってりゃいい! 前もやった!」
「けど!」
「あらあら、姉妹ゲンカ?」
そこにどりあが現れ、首を傾げる。
「どりあさん! お姉ちゃん止めてください!」
「どいてくれ! この状況じゃ…」
「ダメよ、せっかく治った傷がまたひどくなるわ」
「けど!」
「それじゃ、代わりの人が出撃するって事でどうかしら?」
「代わりって、誰がいる!?」
「いるじゃない、ここに一人」
「「え………」」
「また来た!」
「迎撃を!」
IS、パンツァー、双方が飛んでくる砲弾を必死になって迎撃する。
「着弾阻止を最優先して! シールドで受けようとしたらダメよ!」
二日酔いからようやく復活した真耶が防御の指示を出す。
彼女がまとっている教師用R―リヴァイブは、一度着弾しそうになった砲弾を受け止めた箇所が破損しており、普通の砲弾ならそこまでダメージにならないのを知っているIS学園生徒達は彼女の言葉を遵守する。
「多くなってきてない!?」
「前線で支えきれなくなってきてる!」
「デサントした子は振り回されるか落ちるし!」
「そっち飛べないの!?」
「学生試合で飛行ユニットの使用は禁止されてるの!」
「ましてやあれ、むっちゃ高いんやで!」
「個人装備は大変ですね………」
学園に被害が及ばないように奮戦する双方の生徒達のそばに、一人の人影が現れる。
「あ」
その人影、こちらに向かってくるどりあの姿に気付いた生徒の一人が声を上げるが、どりあはゆっくりと上着を脱ぎながらその生徒にそれを手渡し、生徒は思わずそれを受け取る。
「どりあ様!?」
「どりあ様が来てくれた!」
思わず歓声を上げる帝都学園の生徒達の前へと出ながら、どりあはメガネを外し、手持ちのブリッドを確かめる。
「誰か、ブリッドを貸してくださらない?」
「「「どうぞ!」」」
いささか手持ちが少ない事に、どりあが生徒達に借貸を申し出ると、虎の子のブリッドを誰もがためらいなく差し出す。
「どりあ様が出られるの!?」
「下がって! 邪魔をしたらダメよ!」
帝都学園側に促され、IS学園の生徒達も思わずどりあに、道を譲る。
「瑠璃堂先生!」
「それじゃあ少し行ってきますから、ここはよろしくお願いしますわね」
声をかけてきた真耶にまるで散歩にでも行くような口調でそう言うと、どりあは両手を広げる。
「セットフォーム」
瞬時にしてその体をボンテージを思わせる装甲と、巨大な翼のような飛行ユニットが覆う。
現状の学園内のパンツァーでは間違いなく最強のスーパーパンツァー、パンツァーネーム《ドリル・クイーン》がその姿を表し、翼を模した飛行ユニットがゆらめき、その体を浮かべたかと思うと、瞬時にしてその姿が掻き消える。
「え?」
「あそこ!」
見ていた生徒達が思わず間抜けな声を上げるが、誰かが指差した方向を見ると、そこにはすでに姿が小さくなりつつあるドリル・クィーンの姿が有った。
「は、速い………」
「IS以上………」
残った生徒達は、ただ絶句するしかなかった。
「うわっ!」
捌ききれなかった砲弾が、シャルロットの手にしたアサルトカノン・ガルムを半ばから吹き飛ばす。
「もう持ちませんわ!」
「こっちも手一杯! きゃあ!」
セシリアは手にしたスターライトMkVのエネルギー残量が少なくなり、鈴音は海面から飛び上がってきた駆逐イ級を悲鳴を上げながらかわす。
「一体どうしたら…」
シャルロットが呟いた時、何かが急激に迫ってくる。
「何ですの!?」
「この速度、誰が…」
セシリアと鈴音も気付いた時、再度海面から飛び上がろうとした駆逐イ級を、鋭く黒い物が貫く。
「あれって………」
それが、前回見た流体金属のドリルだと気付いたシャルロットは、誰が来たのかを悟った。
流体金属のドリルは、変幻自在にその場を縦断し、深海棲艦を次々と貫き、駆逐クラスはそのたった一撃で限界に達し、崩壊していく。
ドリルは来た時同様、瞬時にして主の元へと戻る。
そこには、専用機持ち達の記憶とはまるで違う姿をした、ドリル・クイーンの姿が有った。
「瑠璃堂先生、ですの?」
「な、なんかすごい………」
「下がっていなさい。これは私が相手致しますから」
「けどあいつは…」
普段通りの穏やかな口調で告げるどりあに、専用機持ち三人は唖然としていたが、そこに容赦なく戦艦ル級の砲撃が放たれる。
「あぶ…」
シャルロットの警告よりも早く、どりあは手にしたツールを動かす。
高速で動く流体ドリルが、放たれた砲弾を空中であっさりと貫き、破壊する。
その間、どりあは虚空に佇んだまま微笑すら浮かべていた。
「あらあら、せっかちさんね」
平然としているどりあに、戦艦ル級は異常なまでに殺気立った目で睨みつける。
「死、ネエ…!」
「喋った!?」「私も聞きましたわ!?」「ウソ!?」
戦艦ル級の口から飛び出した言葉に、専用機持ち達は仰天するが、どりあは気にせずに次々放たれる砲弾を叩き落としながら一気に距離を詰めていく。
「こちらから行きますよ」
手元へと引き戻された流体ドリルが、瞬時に伸びて戦艦ル級を狙う。
戦艦ル級はとっさに片腕の艤装をかざしてそれを防ごうとするが、流体ドリルは突如としてその軌道を変化、艤装を回避して戦艦ル級の脇腹をえぐり飛ばす。
「ガアアァ!」
「固いわね」
戦艦ル級の口から絶叫がほとばしり、どりあは予想以上の手応えの硬さに僅かに顔をしかめる。
「三人とも、離れてなさい。少し本気で行く事にします」
「少しって…」「その通りにしましょう。攻撃が効かない私達では、足手まといになります」「織斑先生並よ! いいから逃げるわよ!」
自分達がアレほど苦戦した戦艦ル級と平然と戦うどりあに、専用機持ち達は大人しく任せて防衛線に引く。
「それでは、少し本気で行かせてもらいますわね」
「ガアアァ!」
咆哮を上げる戦艦ル級に対峙しながら、どりあはツールにブリッドを装填した。
「また来た!」
「任せて!」
飛来した流れ砲弾を、黒ウサギ隊が中心となって叩き落とす。
「損耗率は何%まで!?」
「10%! それ以上破壊されたら、修復は不可能です!」
設置中の転移装置防衛を担っている黒ウサギ隊副隊長のクラリッサは、バトルスーツ姿のエミリーの試算に頷く。
「そちらはお願いしますわね。私はこれで精一杯ですので」
転移装置のコア部分の制御装置をフィールドで覆ったヒュウガは、のんきに言いながら卵型ポッドに立てこもってフィールドの演算に集中する。
「お願いします! それは壊れたら取り返しが効きません!」
「隊長の方はどうなっている!?」
「それが、分離した装甲を半分付けただけで出撃したそうです!」
「くっ! だが、ここの防衛が我々の任務だ!」
試合直後で整備すらしていなかったシュヴァルツェア・レーゲンで強引にラウラが出撃した事に、クラリッサは歯噛みしながらも、己達の責務を果たそうとする。
「戦況はどうなってます!?」
「だいぶ押されてるようだ! 先程、瑠璃堂教官も出撃された!」
「どりあ様まで!?」
同じく防衛にあたっていたパンツァー達から驚きの声が漏れる。
「前線に出てる人達から、相手はまるでゾンビだって言ってきてる!」
「パンツァーの攻撃は効くみたいだけど、海の上じゃ!」
「増援はいつ来るの!?」
IS、パンツァー、双方の生徒から不安が漏れる中、今度は防衛線をかいくぐったらしい小型機が、転移装置に一直線に向かってくる。
「特攻か!?」
「撃ち落とせ!」
「まずい、爆弾積んでるぞ!」
突っ込んでくる小型機の腹にある爆撃用爆弾らしい物体に誰もが慌てる中、何者かがパンツァーやISの背を蹴って宙へと跳び上がり、一刀の元に小型機を爆弾ごと両断。
小型機が爆発を起こす中、その人影は身軽に地面へと降り立つ。
「危なかったね」
「加山隊長!」
「どうやら、相手はこっちの管轄のようだ。一応、オレにも少しばかり霊力が有るんでね。攻撃は効くみたいだ」
手にした愛刀・妖刀苦肉をかざしながら、加山は普段通りに微笑む。
「だとしたら、オレが最終防衛線って事かな?」
「恐らくは………」
「正直、私の攻撃も効いてないからね」
加山の苦笑交じりの呟きに、エミリーとヒュウガが即答、加山の頬が僅かに引きつる。
(前の戦いでは、ここの生徒達も十分に戦力になると思っていたが、まさか霊力や魔法力を持たない事がここまで響くとはね………いや、相手が海上じゃ、華撃団でも対処出来ないか。早急な対策が必要だな。この戦いが終わったら!)
「また来たぞ!」
生徒の誰かが叫ぶのを聞きながら、加山は愛刀を構えた。
「「う〜ん………」」
401のブリッジ内で、二人の天才的頭脳が唸っていた。
「何か分かりましたか?」
「分かったというか」
「分かりたくないというか」
僧の質問に、束と蒔絵が同時に答える。
「何でもいい、現状で分かっている事は」
「取り敢えず、これかな」
蒔絵が一つのデータをブリッジ内に映し出す。
「401の全センサーで確かめたけど、あの深海棲艦とかいうの、妙な反応出してる」
「かなり独特というか、奇妙なエネルギー数値ね。センサーの種類によっては、感知したりしなかったり」
「問題はこっち」
束の追加説明に蒔絵が更にあるデータを表示する。
それは、深海棲艦への攻撃の瞬間を解析した物だったが、片方は攻撃を食らっても反応がほとんど変わらず、もう片方は明らかに反応が減っている。
「こっちはIS、こっちはRVの攻撃の瞬間。攻撃エネルギーの数値はそんな変わらないけど、相手の反応は明らかに違う」
「物質が破壊されても、内在エネルギーが減らないってのは物理学の常識から完全に外れてるね〜。天使とかいう子達のプラトニックエナジーだっけ? それが効くのはどうやら深海棲艦のエネルギーと対極のエネルギーをぶつけて、対消滅させないと攻撃が通らないからだと思うよ」
「あくまで仮説だけどね。再生の方はもうちょっと調べてみないと分からない」
「マジかよ、霧相手の方がマシに思えてきた………」
杏平が二人の天才の仮説に、唖然とする。
「ここまで来ると、オカルトの領域だな」
「というか、どう見てもオカルトというかホラー映画なんですけど………」
群像もその仮説に頷く中、静は撃たれても斬られても平然と襲ってくる深海棲艦に恐怖を覚えずにいられなかった。
「それで、当艦で対処出来るか?」
「無理」「無理だね〜」
群像の問いに、蒔絵と束は即答。
「向こうの持っている奇妙なエネルギーを対消滅する方法が、この船にはないし………」
「箒ちゃんといっくんが頑張ってるけど、紅椿や白式の攻撃が効かないようじゃ、普通の魚雷やミサイルなんて無駄無駄」
「だが、撃たないわけにもいかん」
断言する二人に対し、群像は先程から防衛線を突破されないように矢継ぎ早に援護攻撃を指示していたが、確かに一時しのぎにしかならなかった。
「401のクラインフィールドはあの攻撃に耐えられそうか?」
「無理だと思う」「厳しいだろーねー」
群像の問いに、蒔絵と束は再度即答。
「ハルハル、さっきの映像を」
「了解した」
ハルナが一つの映像を映し出す。
そこに防衛に当たっていた真耶のRーリヴァイヴが被弾して大きく破損する瞬間の映像が写っていた。
「ISはさ、本来はエネルギーフィールドである程度の物理ダメージは無効化するらしいんだけど、これはそれをほぼ無視して破損している」
「信じられないけど、向こうの攻撃も物理法則無視してるっぽいねー。私もビックリだ」
「だとしたら、クラインフィールドでも防げるかは疑問か。そうなったら我々はただのデカイ的だ」
「艦長、本当に最後の手段としてしか、この船を盾にする事はできません。また、ナノマテリアル補充の目処がいまだ無い以上、船体のダメージはかなり深刻な物となるでしょう」
蒔絵、束に続きキリシマ・僧と続いた言葉に群像は表情を更に厳しくする。
「侵食兵器か、超重力砲だったら何とかなったかもしれないけど………」
「何それ? そういうの積んでるの?」
「当艦の侵蝕魚雷は使い果たし、超重力砲は前回の戦闘で破損し、修理のアテもありません」
「あっそ」
蒔絵がポツリと呟いたのを束が敏感に反応するが、僧の説明にあっさりと興味を無くす。
「コンゴウの到着まであとどれくらい掛かる」
「今の速度が続けば、15分以内。バーストモード連続使用してる」
『コンゴウ、変な所で無茶するからね〜』
「それまで、持つか?」
群像の質問に、イオナとタカオが確認するが群像の目は各所で広げられている激戦に向けられていた。
「空羽さん達の所はなんとか押してます。一乗院さんの所は膠着状態。先程瑠璃堂先生も出たので、戦線の維持は可能でしょう」
「一箇所を除いてな」
僧の的確な指摘に群像は、ある一箇所、紅椿と零神が奮戦している画面を見つめる。
その画面の下には、ナノスキンの残時間が表示され、それは三分を既に切っていた。
「お願いします! 出撃許可を!」
「ダメだ」
追浜基地の一室で、デスク越しに詰め寄るソニックダイバー隊に、門脇は絶対に許可を与えようとしなかった。
「もう時間がありません! このままじゃ音羽さんが!」
「なんとかしないと!」
瑛花を筆頭に、可憐とエリーゼも出撃許可を求めるが、門脇の態度は頑なだった。
そこへ、冬后も姿を見せる。
「皆、気持ちは分かる」
「ならば!」
「だが、見てただろう。ソニックダイバーの攻撃は奴らに効かない」
「それは、そうですけど………」
「攻撃が効かない上に時間制限がある以上、ソニックダイバーを出すわけにはいかない。今、カルナダインがパリからの救援部隊を搬送するために出撃する所だ。専門家に任せるべきだろ」
「だ、だけどこのままじゃ!」
冬后のあまりに正論過ぎる言葉に、誰もが言葉に詰まる。
「それに最初の例がある。ここにも襲撃が無いとも限らない。Gがカルナダインに搭乗する以上は、防空の要足り得るソニックダイバーをここから動かす訳にはいかない」
「………」
門脇の確固たる言葉に、ソニックダイバー隊の三人は沈黙せざるをえなかった。
「じゃあせめて、宮藤少尉を!」
「彼女は、今この場のウィッチの指揮官だ。そう簡単に離れるわけにはいかん」
「それに、霧のコンゴウももう直到着するはずだ。それに期待するしかないだろう」
「その前にナノスキン切れるわよ!?」
瑛花が代案として芳佳の出撃案を出すが、それも門脇に却下され、冬后はちらりと戦況が移される小型画面に、凄い速さで向かっているコンゴウの現在位置を確認するが、それよりもナノスキンの時間切れの方が早い事をエリーゼが指摘する。
「………坂本少佐も分かっているはずだ。彼女ならば、何か策があるかもしれん」
「戦歴ならば、お前達より上だからな」
「………分かりました」
(音羽、無事でいて………)
納得するしかなかった瑛花は、音羽の無事を祈るしかなかった。
「どいて! ミサキちゃんの所行かないと!」
「待ちなさいユナ!」
今にも飛び立たんとするカルナダインに乗り込もうとするユナをポリリーナが止める。
「どうしてポリリーナ様!? ミサキちゃんも音羽ちゃんもピンチなのに!」
「だからよ! 相手が余りに異質過ぎる。私達の力は通じるだろうけど、間合いが違いすぎるわ!」
「それに、カルナダインはあまり大人数が乗れるように出来てないわ」
「みんなで丸くなって乗れば!」
「圧縮コンテナじゃないんだから」
「ユーリィ狭いのはちょっとイヤだけどがんばるですぅ!」
エリカも一緒になって説得するが、ユナは納得せず、ユーリィもユナに続こうとする。
「ダメですユナ!」
「エルナーまで!」
そこへ帝国劇場から駆けつけたエルナーまでもがユナを止める。
「深海棲艦は、その名の通りに水上、水中戦を得意とする敵のようです。対し、我々は基本はパンツァーと同じ陸上戦が中心となります。機動性に欠けるライトニングユニットでは、深海棲艦相手に対処は困難です」
「けど!」
「今は、対処可能な戦力を最高速度で送るのが何より優先されます。パリからの増援部隊を送った後、トリガーハートとRVを到達可能距離でカタパルト発進させる予定です。私達では、到着するのに時間がかかりすぎます」
「う………」
エルナーの理路整然とした説得を受け、ユナが言葉に詰まる中、カルナダインが上昇を開始する。
「皆をお願い!!」
それに向かって、ユナ達は手を振るしか出来なかった。
「このぉ!」
襲い掛かってきた駆逐イ級を、音羽はすれ違いざまにMVソードの一閃で斬り裂く。
「オーニャー、もう時間が!」
「分かってる!」
「しかしこれは………」
ヴァローナが残り少ないナノスキンの有効時間に焦りを覚えるが、音羽は剣を振るい続ける。
アーンヴァルもサポートずるが、どれだけ攻撃しても襲ってくる深海棲艦に、周囲を囲まれつつあった。
「上空に退避を! 私が何とか…」
「だから一人じゃ無理だって! それに上昇したら、集中砲撃される!」
自分達では一時的に動きを留めるのが精一杯の相手に退避もままならず、音羽は剣を振る手を止めない。
「残る120秒!」
「これ以上は…」
「けど…」
『限界だ音羽! もしそんな所で時間切れになったら!』
僚平からも焦った声が届く中、音羽がまだためらっていた時だった。
「いっけええぇぇ!!」
気勢と共に、白式の背に乗ったどりすが、カイザードリルの回転を衝撃波に変えながら、こちらへと突っ込んでくる。
その衝撃波に巻き込まれた深海棲艦達は絶叫を上げ、駆逐クラスは一撃で崩壊していく。
「間に合った!」
「後は任せて!」
時間切れの前に到着した一夏とどりすが、それぞれの得物を構えて零神を援護する。
「オーニャー!」
「後お願い!」
千載一遇の好機と見たヴァローナに促され、音羽は零神をGモードに変形、一気に離脱を試みる。
「遅いぞ一夏!」
「すまん! これでも急いだんだ!」
「慣れるのにちょっとかかった!」
箒が思わず怒鳴るが、一夏は普段のクセで頭を下げ、その背でどりすも声を上げる。
「どうにも、増援を分断させる意図が有ったらしくて」
「変にしつこかったのだ!」
「知性のある個体が混じってるようですね」
一歩遅れてきたツガルとマオチャオの説明に、アーンヴァルも頷く。
「オレの雪片弐型でも効かないが、プリンセスのドリルなら効く!」
「何とかそれで倒してきた!」
「間合いが問題か」
試合では互角の戦いだった二人だが、海上の戦闘となると明らかに間合いが違う二人がどうやって協力してきたのかを謎に思うが、ふと白式とドリルプリンセスの胴体を結んでいる太いワイヤーロープの存在に気付き、
見なかった事にして箒は撤退していく零神の方を確認する。
(幸い敵はこちら、というかプリンセスに注意が向いている。今の内に…)
そこで箒はある違和感に気付く。
海面に、零神のとは別の影がある事に。
「桜野さん!」
「え?」
「オーニャー!」
箒が叫び、音羽が気を取られるのとヴァローナが声を上げるのは同時だった。
水中から突然巨大な怪物の口腔に女性の半身が生えた奇怪な姿の潜水ヨ級が高々と跳び上がり、零神の軌道を塞ぐと同時に、その口腔から雷撃を放ってくる。
「しまっ…!」
水中用の魚雷とは言え、相対速度で逆に突っ込む形となった零神を音羽は必死に回避させるが、間に合わず接触、爆炎が零神を覆う。
「桜野さん!」
「水中にも!?」
「待ち伏せ!?」
三人が声を上げるが、程なくして爆炎から零神が姿を現す。
「だ、大丈夫!」
「よ、よかった………」
音羽の声に箒は胸を撫で下ろそうとするが、そこで更なる異変に気付く。
『零神にダメージ! メインバーニアがやられた!』
「た、大変です! それに時間が…」
明らかに挙動がおかしい零神の姿に、僚平とアーンヴァルの声が重なる。
「一夏!」
「分かってる!」
「どけ〜!」
慌てて皆が零神の方へと向かい、煙を上げながら何とか体勢を維持しようとする音羽だったが、そこに深海棲艦が狙いを定めようとする。
「プリンセス! 先程のをもう一発…」
「さっきのが最後のブリッド!」
「捕まってろ!」
「うん」「OKマスター!」「分かったのだ!」
「イグニッションブースト!」
どりすが胴に、ツガルとマオチャオが襟元の左右にしがみつくと、一夏が白式を一気に加速させ、零神の前に出る。
「海面下に反応有り!」「上がってくるのだ!」
「さっきの!」
「行くぞ!」
そこに再度潜水ヨ級が襲いかかろうとするが、ツガルがホーンスナイパーライフルで女性体の両目を撃ち抜き、更にマオチャオがプチマスィーンズで女性体の頭部を集中攻撃、怯んだ隙に一夏とどりすは同時に得物を構えて急降下、その口腔に雪片弐型とカイザードリルが同時に突き刺さる。
「「いっけぇ!」」
二人が偶然にも同じ言葉を叫びながら、雪片弐型が振り抜かれ、カイザードリルが回転する。
女性の半身が凄まじい絶叫を上げながら、その体が崩壊しながら水中へと没していく。
「気をつけろ! まだ水中にいるかもしれないぞ!」
「今サーチするよ!」
「待てそれよりも!」
どりすに結ばれたワイヤーロープを引っ張りながら一夏が周辺を警戒し、ツガルがサーチしようとするが、箒がもっと大事な事を悟る。
「残30秒! オーニャー!」
「ダメ! 姿勢維持で精一杯!」
「一夏! もう一度イグニッションブーストを…」
「まずい、エネルギーが足りない!」
「え〜!?」
皆が慌てる中、無情にもカウントが進み、とうとうナノスキンの時間切れを示すアラームと共に零神がパイロットの安全確保のために緊急停止、緊急時用のホバーバルーンを出しながら海面へと落下、着水する。
『音羽!』
「大丈夫! 今の所は………」
僚平からの絶叫に近い通信に、固定を外しながら音羽は返信、即座に零神のバックパックから護身用の小型MVソード(人間用)を引き抜き、ただの筏と化してしまった零神の上に立ちながら構える。
「一夏!」
「分かってる!」
「そっちお願い!」
紅椿と白式+ドリルプリンセスが素早く音羽の前後を守るように立ちふさがり、更に音羽の四方を四体の武装神姫が護衛のように配置する。
『エマージェンシー! ナノスキンの有効時間が切れた! すぐに救援を! エマージェンシー!』
僚平が大慌てで上ずった声を上げる中、動けない零神の周囲を取り囲むように深海棲艦が向かってくる。
「どうすれば………」
音羽の口から、この戦いで初めて不安の言葉が漏れた。
「大変な事になりました! 桜野選手の起動可能時間がまさかのオーバー! 海上に取り残される事態に! 果たして救出は間に合うのでしょうか!?」
「誰か手空きの者は!」
『こちらトロン! こちらに戦力が集中してる模様!』
『どいて! 音羽ちゃんの所に行けない!』
『防御力の高い個体も混じっています! 戦線維持で限界です!』
エリュー、亜乃亜、エグゼリカからの通信に、美緒は思わず歯噛みする。
「ミサキ!」
『こっちも維持で限界! それに、あの距離まで跳ぶのは無理よ!』
『サイコさんのブリッドが品切れ! ミサキさんが頼りよ!』
続けてミサキと楯無からの通信に、美緒は思わず目の前のコンソールに拳を叩きつける。
「さ、坂本少佐?」
「誰でもいい、あそこまで乗せられる奴はいるか! 私が出る!」
「ええ!?」
『無理だよ! 坂本さん、もう魔法力が…』
愛刀を手に自ら出撃しようとする美緒だったが、当の音羽に指摘される。
『増援が来るまで、何とか持たせます!』
『紅椿と白式なら、どうにか!』
『私もいるよ!』
『私達も!』
一夏と箒、それにどりすや武装神姫達がなんとか防戦を演じるが、明らかに状況は不利でしかなかった。
(どうする? 考えろ、何か手は………)
美緒は今までの経験や知識から何とか音羽救出の打開策を思いつこうとする。
ふとそこで、朝の会話を思い出す。
「篠ノ之!」
『は、はい!』
「篠ノ之流神楽の心得はあるか!」
『あ、有りますけど………』
「それを舞え!」
『………え?』
いきなりの指示に、箒が絶句する。
「早く! それしか手は無い!」
『あの、一体………』
『大丈夫! 坂本さんは何か考えが有るんだよ!』
『何かよく分からないけど、何とか時間は稼ぐ!』
『急いで!』
急かす美緒に、通信から箒の困惑の声が響くが、音羽を先頭に皆が美緒の指示を促す。
「あの、坂本少佐、一体何を………」
「最後の一手だ」
つばさも困惑する中、画面の中の箒が構えを変える。
「伝承通りであれば………」
美緒の口から祈るような呟きが、小さく漏れていた。
「まさか、紅椿で舞う事になるとは………」
着水した零神の上空に上昇しながら、箒はまだどこか困惑しつつも、神楽の準備に入る。
本来は篠ノ之流では扇を携えるが、代わりに双刀を構え、虚空に歩を踏み出す。
ゆっくりとした動きで、紅椿が舞い始める。
白刃を緩やかな動きで振り上げ、機体をひるがえし、しばらく練習すらしていなかった動きを思い出しつつ、紅椿が神楽を舞い続ける。
その意味は、すぐに効果となって現れる。
「あれ?」
「近付いてこない………?」
「うそ………」
紅椿が舞い始めると、まるでそれを恐れるように、深海棲艦達が距離を取り、攻撃すら止んでしまう。
「これは、一体………」
『集中しろ! 舞が狂えば、効果が切れるかもしれんぞ!』
当の箒自身も困惑するが、美緒からの叱咤に舞う事に集中する。
(集中だ。よく分からないけど、今桜野さんを守れるのは、私の神楽だけ………)
心を静め、ただ舞う事にのみ箒は集中する。
静かに、そして美しく舞う紅椿の神楽の姿は、学園内に伝わっていった。
「これ、どういう事かな?」
「さあ? 何でかな〜?」
401のブリッジ内で、紅椿が舞うと深海棲艦の動きが止まった事に、蒔絵と束が首を傾げる。
「説明出来ないのか?」
「全然分かんない、理論的に説明出来ない」
「実家の神楽にあんな効果があるなんて聞いてないな〜」
群像も不思議に思うが、蒔絵も束も全く説明出来ない状況に、困惑するだけだった。
「何か、おとぎ話みたいですね」
「言われりゃそうだな」
「おとぎ話?」
静が思わず呟いた言葉に、杏平も頷くが、ハルナは聞き覚えのない単語に首を傾げる。
「あまり認めたくはありませんが、本当にそうかもしれませんね」
「この際、どうでもいい。残弾は!」
「撃ちすぎだ! もうほとんど無え!」
「救出可能人員は誰かいるか!」
僧が正直に現状を確認するが、群像は今の内に状況を打開しようと策を考える。
「先程、ラウラさんが音羽さん達の増援に向かいましたが、試合後の整備がまだ不十分のようです!」
「あれがいつまで持つか、ですね………」
僧の言葉は、誰もが抱いている不安だった。
『これはどういう事でしょう!? 篠ノ之選手が舞い始めると、深海棲艦の動きが止まりました!』
「どういう事?」
「さあ………」
響いてくるつばさの実況と、バイパスした戦況映像を見ながら、ヒュウガとエミリーが首を傾げる。
「これこそ日本のカグラ舞の力! かつては閉じ込められた太陽神すら開放したという!」
「まあ起源は合ってるけど」
なぜか興奮しているクラリッサに、加山はどう説明すべきか悩む。
「神楽とは神座、舞を持って神を降ろし、穢れを払う儀式。彼女の舞で周辺の瘴気が浄化され、深海棲艦は近付けないんだろう」
「全く意味が分からないんだけれど」
「完全にオカルトですね」
「確かに。海の上じゃなければ、間違いなく華撃団の管轄だな〜」
加山の説明に、ヒュウガとエミリーが顔をしかめる。
(だが、それを上回る密度の瘴気の持ち主がいたら………)
加山の懸念は、すぐに現実の物になる。
「何よこれ!?」
「他の深海棲艦とは比べ物にならない反応が、音羽さん達の元へ向かってます!」
「………どうやら、親玉のお出ましのようだ」