第二次スーパーロボッコ大戦 EP21
「そっち行ったぞルッキーニ!」
「うじゅ!」
その場で旋回しながら、ルッキーニの放った銃弾が奇怪な敵へと突き刺さる。
まるで粘土細工でも穿つかのように、謎の敵の体が削れていき、そして跡形もなく弾け飛ぶ。
「何なんだこいつら………」
あまりに異様な敵に、シャーリーの表情は険しくなる。
機械か生物かすら判然としない敵に、どう対処すればいいのかすら判断出来なかった。
何より、一番の問題が有った。
「たあっ!」
飛鳥が霊刀 千鳥雲切で謎の敵に斬りかかるが、飛鳥ごとすり抜けてしまう。
「やはりダメです。私の攻撃は銃撃も剣も通用しません………」
「幽霊か何か、ってわけじゃないよな」
自分達の攻撃は効いてるのに、武装神姫の攻撃はまるで幻影でも相手にしているかのようにすり抜ける奇怪極まる敵に、シャーリーの疑惑は更に深まっていく。
「お姉さま、こちらの増援部隊が来ます」
「そうか………って待てよ?」
こちらに向かってくる一般歩兵部隊の戦闘車両を見つけたシャーリーだったが、そこで先程の事を思い出す。
「接近中の部隊! こちらウィッチのシャーロット・E・イェーガー大尉! 敵はネウロイじゃない! 距離を十分に取って近寄らない方がいい!」
『了解! って、ネウロイじゃない?』
通信が届き、車両は停止。
そこから降車してきた兵士達が手に手に重火器を構え、一斉攻撃を開始する。
だが、放たれた無数の銃火は飛鳥の時と同様、謎の敵をすり抜けてしまう。
「やっぱりか!」
『どうなっている!? 攻撃が全然効かない、それ以前に当たっていない!?』
「退避しろ! こいつら、ウィッチの攻撃しか効かない!」
導き出した結論を叫びつつ、シャーリーは謎の敵へと向かって突撃しながら弾幕を張る。
「何なんだこいつら! どこから来たんだ!?」
「恐らく、違う世界から」
「ルッキーニ! あれやるぞ!」
「OKシャーリー!」
短期決戦をするべく、シャーリーはルッキーニの手を掴み、己の固有魔法の超加速を使ってルッキーニを加速して撃ち出す。
「うりゃあああぁ!」
更にルッキーニは固有魔法の多重シールドを発動、複層に重なったシールドが謎の敵にまとめて直撃し、直撃を食らった謎の敵はまるで風船がごとく砕け散る。
「こいつら、シールドに弱い! ルッキーニ、もう一回…」
『うわああぁぁ!』
そこで響いてきた絶叫に、シャーリーはそちらを見る。
「馬鹿! 退避しろって言って…」
現状が飲み込めないのか、今だ攻撃をしていた一般兵達の間近にまで謎の敵が接近しており、シャーリーは慌てて援護に向かう。
「く、来るな!」
「何でだ! なんで弾が当たらない!」
「逃げろ! 早く…」
「ひいぃ!」
最早狂乱状態になっている一般兵達だったが、その内の一人に突然謎の敵が覆い被さる。
「ひ、い………」
悲鳴を上げていた一般兵だったが、突然その体が色を失ったかと思うと、黒く変貌し、そして崩れ去る。
「な………」
今目の前で起きた事を、シャーリーは理解出来なかった。
「シャーリー?」
「見るなルッキーニ!」
「ダメです!」
こちらに来ようとしたルッキーニに思わす叫び、飛鳥が即座にルッキーニのまぶたを塞ぐ。
「見えないよ〜」
「私がいいって言うまでそうしてるんだ!」
自分自身狼狽してるのを感じつつ、シャーリーは一般兵を守るべく固有魔法を使って一気に距離を詰めていく。
ウィッチとしてして戦場に立つ以上、戦死する者達を見るのは珍しくも無いが、今、目の前に起きている事はそれらを超越していた。
「すぐにここから離れろ!」
「あ、あいつが炭に………」
「うわあぁぁ!!」
更に襲いかかろうとする謎の敵の前に強引に割り込み、叫びながらシャーリーは銃を乱射する。
恐慌状態の一般兵達は、悲鳴を上げながら自分達が乗り込んできた車両に乗り込み、壮絶にスピンしながら撤退していく。
(どうなってる!? 触られただけで人が、炭に!?)
先程まで兵士だった物が、確かに炭のようになっているのを横目で見ながら、シャーリーは空になったマガジンをイジェクト、即座に予備のマガジンを装填する。
「こいつは、ヤバすぎる!」
ただそれだけを結論として導き出し、シャーリーは弾幕をばら撒く。
だがそこで、突然銃撃が止まる。
「あ!?」
連射のし過ぎで、銃身が焼け付いてジャムを起こすという、素人のようなミスを起こしたシャーリーが即座に銃を投げ捨て、予備の拳銃を抜いた。
「うりゃあああぁ!」
だがそこで、上空から多重シールドを張ったルッキーニが謎の敵へと落下しながら直撃、残った敵をまとめて押し潰した。
「ふぎゃっ!?」
「ルッキーニ!」
墜落と言ってもいい無茶な機動に、反動でルッキーニの体が大きく跳ね、シャーリーが慌てて受け止める。
「勝手にルッキーニさんを行かせてしまってすいません、お姉さま」
「いや、助かった。でもルッキーニ、流石に今のは無茶だって」
「えへへ、でも全部倒したよ?」
「反応全消失、敵壊滅を確認しました」
「そうか………」
跡形もなく消えた敵と、犠牲となった兵士だった炭が風に流されていくのを見ながら、シャーリーは改めて冷たい汗を感じる。
「飛鳥、伝達出来る全てに今の敵の事を伝えてくれ」
「分かりました、お姉さま」
「下手したら、ネウロイよりもヤバイって事をな………」
未知の敵に、前回を上回る困難な戦いが起きるであろう事を、シャーリーは感じ取っていた………
異なる世界 横須賀鎮守府
「調査のためにあの霧の竜巻に突入した第五遊撃部隊とは音信不通です。周辺を精査しましたが、破片その他は一切発見されず、撃沈の可能性は低いと思われます」
「吹雪と第六駆逐隊も今だ発見出来ていません。こちらも撃沈の痕跡は発見出来ず」
「そうか………」
提督室で報告してきた二人の艦娘、メガネを掛けた長髪の艦娘、大淀型軽巡洋艦《大淀》とショートカットの活発そうな艦娘、長門型戦艦二番艦《陸奥》の報告に、秘書官を務める長髪の強気そうな艦娘、長門型戦艦一番艦《長門》は思わず呻くようにうつむく。
「提督、今後の指示を。第二調査隊を派遣しますか?」
長門は執務机の向こう、イスに座ったままこちらに背を向けている自分達の指揮官に判断を伺う。
「そうしたい所だが、また行方不明になられても困る。何より、破片一つ見つからないって事は、無事だと考えるのが妥当だろう」
相変わらず背を向けたまま、椅子から立ち上がって窓の方に向かう海軍士官服姿の男性、この鎮守府を指揮する提督はそう結論付ける。
「気になるのは、あの霧の竜巻に深海棲艦も吸い込まれてるって所だ」
「はい、どうやら向こうも捜索しているらしく、たまに鉢合わせする事も………」
「成る程、つまりは向こうにとっても予想外の事態という事か」
大淀からの報告を聞きつつ、窓の向こう、その先に広がる港から再度捜索に出る艦娘達を見ながら提督は頷く。
「あの霧の竜巻の監視は交代しつつ続行、今出発した隊を持って捜索は一時中断とする」
「でも提督………」
「全ての鍵はあの霧の竜巻だ。あれが何か分からない限り、失踪した者達の行方は分からないだろう」
「了解しました。そのようにします」
何かを言おうとした大淀を遮り、長門が返答する。
「他の鎮守府からも捜索隊が出てるとの情報も来ています。もっともこちらは深海棲艦の方を探っているようですが」
「どこもかしこも、あの竜巻にご執心か。興味を持つなって方が無理だろうが………」
陸奥からの報告に、提督は鼻を一つ鳴らす。
「もしよその鎮守府の捜索隊と遭遇したなら、情報共有を優先。まずは行方不明の艦娘の所在を確認するのが第一目標だ。深海棲艦は情報くれないだろうからな」
「そう伝えます。向こうにその気があればいいのですが………」
「全く。深海棲艦だけでも大変だってのに、ショバ争いまでしてる余裕が有るのだろうかね?」
「提督は気にしなさすぎです」
提督の指示兼愚痴に陸奥が思わず苦言を漏らす。
「軍令部にも報告を上げておけ。場合によっては…」
「大変です提督!」
提督の指示の途中で、荒々しく提督室の扉が開けられ、そこへショートカットの小柄で元気そうな艦娘、睦月型駆逐艦一番艦《睦月》が飛び込んでくる。
「何事だ!」
「今通信が入ったんだけど、霧の竜巻からいきなり謎の軍勢が出現! 監視に当たっていた部隊を攻撃しつつ、どこかに向かっているって!」
「何だと!?」
「詳しい情報は!?」
長門と大淀が驚愕しつつ、問い詰める。
「それが、電波状況が悪くて監視部隊との連絡が途絶したって! けど、多分…」
「ここか」
睦月が口ごもる中、提督はあるもっとも恐ろしい可能性を口にする。
「今出ている部隊で監視部隊に一番近い部隊を至急向かわせて情報収集。鎮守府に第一種警戒態勢を発令」
「了解! 全艦娘を臨戦態勢! 艤装装着を準備、弾薬燃料を補充させろ!」
『了解!』
提督の指示に長門が詳細を付け加え、その場にいた艦娘達が一斉に提督室を飛び出していく。
「私も準備を」
「急がせろ。どうにも嫌な予感がする」
「………提督のカンは当たってほしくない時ばかり当たりますからね」
「言うな。だが最悪の予感はしてない………と思う」
「そう願います。近隣の部隊も呼び戻しておきましょう」
「頼む」
それだけ言うと、長門も早足で提督室を後にする。
「謎の敵か。深海棲艦の新型か、それとも別の………」
提督の呟きを聞く者は誰もいなかった。
「見つけた!」
「あれは一体………」
事態急変の報を受け、監視部隊の交代要員として向かっていた艦娘達が、遠くに見える奇怪な軍勢に気付く。
「哨戒機飛ばして!」
「了解です」
旗艦を務めるウェーブヘアの大人びた艦娘、妙高型重巡洋艦三番艦《足柄》が素早く指示を出し、隣にいたショートカットのスレンダーな艦娘、装甲空母大鳳型一番艦《大鳳》が手にしたボーガンを上空に構え、そこから矢を発射する。
放たれた矢は飛来する途中でレシプロ戦闘機へと変化し、そのまま遠くにいる謎の軍勢へと向かっていく。
「総員臨戦態勢! 何が起きるか分からないわよ…」
「ああっ…!」
足柄の指示の途中で、大鳳が声を上げる。
その視線の先では、謎の軍勢に向かっていた偵察機が破片となって海面へと落ちていく所だった。
「発砲確認! 間違いなく敵よ!」
「で、でも今何か光ったような………」
「というか、変な光で攻撃してきたような?」
「スポットライト!?」
足柄が断言するが、撃墜の様子を見ていたセミロングのツーサイドの艦娘、川内型軽巡洋艦一番艦《川内》とロングヘアに後ろにリボンをつけた艦娘、川内型軽巡洋艦二番艦《神通》が見た事も無い攻撃に唖然とし、髪をお団子にした艦娘、川内型軽巡洋艦三番艦 《那珂》が的はずれな事を思わず口走る。
だが謎の軍勢が一部、こちらへと向かってくるのに全員が気付くと、即座に臨戦態勢を取る。
「何よあれは………」
足柄も思わず呟く。
それは自分達の知るいかなる飛行機にも似ない形状をし、全体が鳴動しているのか輪郭はぶれ、更にその表面を縞模様が絶えず明滅している、不気味な存在だった。
「通信に異常発生っぽい!」
亜麻色の長髪で変わった口調で話す艦娘、白露型駆逐艦四番艦《夕立》が通信機の雑音に顔を曇らせる。
「輪形陣、対空戦闘用意!」
『了解!』
素早く艦隊が陣形を組み直すと、即座に全員が手に手に砲を構える。
そこに謎の敵がこちらに閃光を放ち、海面に直撃して盛大な水柱を立てる。
「被害は!」
「かすめただけです!」
「こっちより射程長いよ!?」
「しかもストレートに那珂ちゃん狙い!?」
「何か見た事無いっぽい!」
「それに、まさか光線兵器!? どの国も実用化してないはずでは………」
「泣き言は後! 応戦するわよ!」
皆が驚く中、足柄が率先して12.7cm連装高角砲を発射、他の艦娘達も慌てて対空攻撃を開始する。
「敵が回避行動を取っています!」
「見えてるわよ! 敵を私の射界に誘導して!」
「分かってるけど!」
「早い、それに高い!」
この部隊でもっとも攻撃力の高い足柄の攻撃範囲に誘導しようと、大鳳の戦闘機部隊や川内や神通の高角砲が謎の敵に攻撃を加えるが、向こうの性能は明らかにこちらを遥かに上回っていた。
「そこっ!」
狙い澄ました足柄の砲撃が謎の敵の一機に直撃、相手は爆発四散する。
しかし新手が反撃するかのごとく、閃光を放って足柄を狙ってくる。
「きゃあっ!」
「足柄!」
「足柄さん!」
「砲が一つ使えなくなっただけよ! 攻撃を止めないで! 増援要請も!」
「やっているのですが、先程から通信が…」
「もう全然通じないっぽい!」
「何ですって!?」
明らかな戦力差に足柄は焦りを感じ始めていたが、敵の本隊が向かっていった方向に、更に焦りが募っていく。
「こんなのが鎮守府に行ったら!」
「向こうには連絡が行ってるはずよ! 私達は、ここで敵を一体でも減らして…」
足柄が自分達の今の役割を叫んだ時、放たれた閃光が足柄を直撃する。
「んにゃああ!」
「足柄!」
どこか気の抜ける、だが確実にダメージを負った足柄の悲鳴に、大鳳が慌てる。
「だ、大丈夫………」
艤装が辛うじて彼女を守るが、すでにダメージは深刻な物へとなりつつあった。
「撤退しよう! このままじゃ…」
「言ったでしょう? こいつらを一体でも鎮守府に行かせないためにも…」
「しかし足柄さん!」
川内と神通が撤退を進言するが、足柄はそれでもなお戦おうとする。
その時だった。
上空から、甲高い聞いた事も無いエンジン音が響く。
「今度は何!?」
「あれ!」
エンジン音の元を大鳳が指差す。
そこには、こちらに向かってくる漆黒の影が有った。
「FRX―00、交戦開始(エンゲージ)」
漆黒の影はそう呟くと、手に何処かから機銃を出現、謎の敵に向かって攻撃を開始する。
「人!? いえ艦娘!?」
「飛んでますけど」
「あ、あんな艤装あったっけ?」
「さあ………」
「飛び入りでセンター!?」
「今よ! こちらも攻撃再開!」
超高速で飛び交う漆黒の影が、まるで飛行機のような艤装をした少女だと気付いた艦娘達が唖然とするが、漆黒の少女が敵を撹乱しているのに気付いた足柄が残った砲で攻撃を再開、他の者も慌てて続く。
漆黒の少女と艦娘達の連携攻撃に、謎の敵は次々落とされ、最後の一機が大鳳の放った戦闘機部隊と漆黒の少女の銃撃を同時に食らい、爆発四散する。
「何とかなったわね」
「あ………」
敵の姿が無くなると、漆黒の少女は即座に敵の本隊を追ってその場から立ち去っていく。
「何者だったんだろう?」
「さあ………でも、こう書いてました《雪風》と」
「私達も監視部隊と合流して鎮守府に戻るわよ! 急いで!」
謎の増援に皆が首を傾げる中、足柄は帰還を指示する。
(あの子が鎮守府に向かってくれたなら、鎮守府は………)
正体が分からない漆黒の少女に、足柄はどこか安心感を覚えていた。
また異なる世界 相模湾上空
「所属不明機、多数確認!」
『アローンじゃないのか!?』
「違います! 高度なステルス性を持ってる模様! 該当機種確認出来ず!」
夜闇の中、スクランブル発進した戦闘機が、突如として出現した謎の機体を目視にて確認、それはジェット戦闘機にも見えるシルエットをしているが、全身が鳴動しているのかその輪郭はぶれ、縞模様のような明滅を始終発光させている奇怪な物体だった。
「示現エンジンに向かっている模様!」
『やはりアローンの仲間か!? いや、アローンの反応が出た! 未確認機の更に後方!』
「こちらでも確認……!?」
そこで、戦闘機のパイロットは奇妙な光景を見る。
暗黒色の体表を持つ、巨大な天秤にも似た姿をした存在、アローンと呼ばれる以外、毎回姿形も違う全てが謎の敵が、突如として謎の所属不明物体に攻撃を開始する。
「アローンが所属不明機に攻撃!」
『どういう事だ!?』
「分からな…」
だがさらにそこで、謎の敵から放たれたミサイルのような物が、偵察していた戦闘機に向かって放たれる。
「所属不明機がこちらに攻撃! 回避しきれない! 脱出する!」
報告しつつイジェクトレバーを引いたパイロットが機体から脱出、直後に乗っていた戦闘機は爆散する。
「何が起きてるんだ………」
パラシュートで降下しつつ、パイロットはアローンと所属不明機の戦闘を見つめる。
だが、アローンはその圧倒的な力で所属不明機の攻撃を物ともせず、目的地へと向かっていく。
「あのまま示現エンジンに到達したら、とんでもない事になるぞ………!」
ブルーアイランド 示現エンジンコントロールセンター
相模灘中央に建造された人工島、その中核に存在する、世界のエネルギー問題を一気に解決した画期的エネルギーシステムの管制室では、深夜にも関わらず蜂の巣を突いたかのような騒ぎになっていた。
「所属不明機、更に増加」
「アローンと交戦しつつ、こちらに向かってきます!」
「何がどうなっているの………」
ブルーアイランド管理局局長を務める年配の女性、紫条 悠里が夜闇を貫くビームの押収に、表情を曇らせる。
「所属不明機は防衛軍にも攻撃をしてきています!」
「所属不明機、一部がこちらに向かってきました!」
「そちらの狙いも示現エンジン!? 一体どうなって…」
そこで、緊急を告げるホットラインが鳴り響き悠里は即座にそれを取る。
『現状はどうなっとる!』
「一色博士! アローンと所属不明機が交戦しつ、こちらに向かってきています! 狙いは双方、示現エンジンのようです!」
ホットラインから響いてくる年配の男性の声に、悠里は手早く状況を説明する。
『どこぞの第三勢力か!? とにかく、今あかね達が向かった!』
「所属不明機は高度なステルス機です! 防衛軍は苦戦中です!」
『ええい、三つ巴か!』
激しい戦闘が繰り広げられる映像が管制室の画面に映し出される中、そこに不思議な物が交じる。
赤、青、緑、黄の四色の光をたなびきながら、戦場へと向かう者達が。
「何あれ!?」
赤を基調とした、マーチングバンドのような風変わりな格好をした赤毛の元気その物の少女が、高速で飛行しながら思わず叫ぶ。
「アローンと、何かたくさん!」
その隣、青を基調とした格好の長髪の大人しそうな少女が、極めて端的に状況を叫ぶ。
「戦闘機!? でもアローンと防衛軍、両方と戦ってる!」
「違う、あんな戦闘機は存在しない」
緑を基調とした格好の、髪を後ろで結った凛々しい少女が予想外の光景に驚くが、その隣、黄を基調とした格好の緩やかなウェーブヘアの少女が素早く所属不明機を解析して呟いた。
「おじいちゃん! これどうなってるの!?」
赤の少女、アローンに唯一対抗出来る《バレットスーツ》をまとった《ビビットチーム》のリーダー格、一色 あかねが開発者の祖父に状況を確認する。
『わしにも分からん! だが、そいつらも示現エンジンを狙う敵らしいというのは確かだ!』
「あの、あの戦闘機みたいなの、誰か乗っているんでしょうか?」
青の少女、あかねの幼馴染の二葉 あおいが懸念事項を問う。
『ステルスが強くて、よく分からん! だが動きから無人機の可能性が高い!』
「つまり、攻撃していいんですね!?」
緑の少女、剣道部主将でクラス委員長の三枝 わかばが念を入れて問い質す。
「あの機体、赤外線その他の生命反応が全然無い。つまりは壊しても大丈夫だと思う」
『そうか! アローンと一緒で大変かもしれんが、なんとしても示現エンジンを守ってくれ!』
黄の少女、あかね達のクラスメイトの天才少女、四宮 ひまわりが解析結果を報告、それを聞いたあかねの祖父が即座に交戦を許可する。
「来るよ!」
「え〜と、どっちから攻撃すればいいのかな?」
「向かってきた方!」
「つまりあっち」
四者四様の反応をしつつ、所属不明機から放たれたミサイルを、四人が散開してかわす。
「ネイキッドラング!」
あかねの手に、赤い大型のブーメランが出現し、あかねはそれを全力で投じる。
見た目以上の高速で飛んだブーメランは飛来したミサイルを撃墜、そのままあかねの手元に戻ってきたのを受け取る。
「ネイキッドインパクト!」
あおいの手に青いハンマーが出現、所属不明機にすれ違いざま叩き込み、一撃で所属不明機は粉砕、爆散する。
「ネイキッドブレード!」
わかばの手に長大な剣が出現、すれ違いざまに所属不明機を両断していく。
「ネイキッドコライダー!」
ひまわりの両手からビットが射出、バリアを構成して所属不明機の攻撃を防ぎ、反射して迎撃していく。
「アローン程強くないね」
「けど数が………」
「ここは私とひまわりちゃんでなんとかする! 二人はアローンの方を!」
「そこまで来てる!」
「分かった! お願い!」
わかばとひまわりに対処を任せ、あかねとあおいはアローンへと向かっていく。
『所属不明機は防衛軍でも相手にしとるが、ステルス性が高くて苦労しとる! アローンにも仕掛けとるようだが、こちらは歯牙にも掛けられとらん!』
「何しにきたんだろうね?」
「さあ?」
祖父からの報告に首を傾げつつ、あかねは見えてきたアローンに向けて、ネイキッドラングを思いっきり投じる。
ネイキッドラングはアローンの体に突き刺さったかと思うと、そのまま周囲をえぐるようにして突き抜けあかねの手に戻ってくる。
「あれ? 何かいつもと違うような………?」
「あかねちゃん!」
「おわっと!」
いつもより攻撃が効いている気がするあかねが再度首を傾げるが、そこにアローンから放たれたビームがかすめ、あわてて回避する。
「そこ!」
こんどはあおいがネイキッドインパクトを叩き込むが、こんどは当たった部分を起点に大きく周辺が吹き飛ぶ。
「? 何か、おかしい?」
あかねと同じ疑問を感じたあおいだったが、そこでふとアローンが放ったビームの反射光がアローン自身を照らし、ある事に気付く。
「あかねちゃん! このアローン、あちこち傷だらけだよ!?」
「え、本当だ!」
『何じゃと!?』
暗くてよく分からなかったが、確かにアローンの各所には戦闘の物と思われる痕跡が残されていた。
『それって、ここに来る前に何かと戦っていたって事?』
『あり得ない! アローンと戦えるのは、バレットスーツを来た私達だけのはず!』
通信を聞いたわかばとひまわりも驚くが、だがアローンの弱体化がすでに何かと交戦した後だというなら、辻褄は合っていた。
『ええい、何者じゃ!? こちらで確認している限り、このアローンにダメージを与えた物は誰もおらん! その所属不明機ですらダメージは与えられておらんぞ!』
「なぜかは分からないけど、チャンスだよ!」
「一気に倒そう!」
短期決戦を挑もうとしたあかねとあおいだったが、そこでアローンの体が鳴動する。
「これって!」
「また!」
それがアローン変異の前兆だと知っていた二人は、慌てて距離を取る。
鳴動は収まらず、アローンの姿が似て非なる物へと変貌していく。
天秤を思わせる形状からアームが増え、まるでシャンデリアのような形状へと変化し、先端の部分の灯籠のような発光体から四方八方にビームが乱射される。
「うわあぁ!」
「あかねちゃん!」
矢継ぎ早のビームの乱射に、あかねとあおいは逃げ惑うが、迫ってきたビームの前にネイキッドコライダーが飛来、バリアで二人を守る。
「二人とも大丈夫!?」
「後は防衛軍が受け持つって」
残った所属不明機を防衛軍に任せ、援軍に駆けつけたわかばとひまわりだったが、強烈なビームの乱射に近付く事すら出来ない状態だった。
「どうしよう!?」
「ドッキングで一気に倒すしかないよ!」
「けど、接近する隙もチャージする隙も無いわ!」
「私とわかばでその隙を作る! 二人はドッキングを!」
「待ってひまわりちゃん!」
そう言いながらひまわりはバリアを張りながら飛び出し、わかばも慌てて続く。
放たれるビームの乱射を二人がかりで次々と弾き、あかねとあおいへと近付けないようにしつつ、アローンへと肉薄して注意を引きつける。
「今の内だよ、あおいちゃん!」
「うん、あかねちゃん!」
二人は頷くと、胸元からバレットスーツの起動の要となるオペレーションキーをかざす。
「オペレーション!」「ビビットブルー!」
宣言と共に、あおいがあかねの額にキスをすると、二人は青い光球に包まれ、そのシルエットが一つに溶け合う。
そして光球の中から、青いロングヘアにドレスを模したバレットスーツをまとった大人びた姿となって出現する。
「ビビットブルー、オペレーション!」
バレットスーツの奥の手、ドッキングを果たして一心同体となった二人が、手に巨大なネイキッドハンマーを構える。
「じゃあこちらも!」
「隙を作るね!」
ひまわりが防御しつつ、わかばが一気に前へと出て、旋回を続けるアローンのアームの一つにネイキッドブレードを振り下ろす。
「とりゃああ!」
気合一閃、アームの一つを斬り飛ばし、ビームの乱射が弱まる。
「このっ!」
更にひまわりも放たれたビームをネイキッドコライダーで反射、ビームの発射部分へと直撃させ、破壊する。
「今だ! ビビッドインパクト、セーフティー解除!」
あおいと一体となったあかねが、大型化したネイキッドハンマーをかざしながら叫ぶ。
するとネイキッドハンマーの各所が展開して燐光を発し、更には中央分が旋回を始め、あおいのカウントと共に出力を上げていく。
「エンジン出力、120%! 150% 180%!」
『臨界突破! 出力200%!』
二人が同時に叫び、ビビッドインパクトをかざす。
『ファイナル・オペレーション!!』
宣言と共に、ネイキッドハンマー後方のブースターを噴射させながらの渾身の一撃が、アローンへと叩き込まれる。
たった一撃でアローンに許容限界以上のエネルギーが流れ込み、その巨体が一気に爆散する。
「やった!」
「他のは?」
わかばが歓声を上げる中、ひまわりは周囲の状況を確認するが、所属不明機もすでに全滅していた。
「ふひ〜、疲れた〜」
「お疲れ様」
ドッキングが解け、また二人へと戻ったあかねがため息を漏らし、あおいが笑みを浮かべながら声をかける。
『あの妙な連中を含めて、全ての敵の撃破を確認したぞ。皆、夜遅くにご苦労じゃった。後はこちらでやっとくから、帰っていいぞ』
「は〜い………」
「あかねちゃん、大丈夫?」
「送ってくから」
「私もねむ〜い」
もうすでにうたた寝状態のあかねを支えつつ、三人は帰路を急ぐ。
だが、それを遠くから見つめる存在には誰も気付いていなかった。
「またしても………」
あかね達の学校の制服に身を包み、首元にマフラーを巻いた黒髪の少女が、手に両端が羽根を模した風変わりな弓を持ちつつ、歯噛みする。
「けど、あの妙な連中は一体………」
険しい表情の少女もまた、所属不明機に疑問を感じつつ、その場を離れた。
「ふ〜〜む」
アローンと所属不明機の同時襲撃の翌日、示現エンジンコントロールセンターの一室にて、唸り声を上げる存在が居た。
「どうかいたしましたか、一色先生」
悠里が不思議そうに声をかける。
だがその声を掛ける先、先程から唸り声を上げているのは、奇妙な存在だった。
「やはりおかしい」
そういいながら、先程からコンソールに向かっていた物が振り向く。
それは、専用の小型イスに乗ったかわうそのぬいぐるみ、正確にはそれに何故か精神が憑依してしまった示現エンジンを開発した天才科学者、一色 健次郎その人だった。
「何がです?」
「前回のアローンじゃ。これを見てくれ」
健次郎はそう言いながら、コンソールにある映像を映し出す。
それは、暗黒色の体表を持つ、巨大な天秤にも似た姿をしたアローンと、その周囲を飛び交いながら交戦している、ビビットチームの少女達だった。
「あの時は夜間だったので目立たんかったが、画像処理をして分かった事がある。明らかにあかね達の物とは別の、交戦の形跡があるのじゃ」
「話には聞いてましたが、それは本当の事なんですか?」
「ここを見てみい」
健次郎はそう言いながらその存在、アローンの画像を拡大していく。
「これは、弾痕?」
「間違いなかろう、だが………」
「通常の兵器ではアローンにはダメージを負わせられない。それが可能なのは一色先生のビビッドシステムだけのはずでは?」
「ワシもそう思っておった。だが、前回の歯ごたえの無さは、すでに何かと交戦し、ダメージを負っていたのではなかろうか?」
「信じられません………我が国の最新兵器を持ってしても傷一つつかないアローンに、ビビットシステム以外でダメージを与えられる存在がいるとは」
「そもそも、アローン自体、どこから来てるのかも分からんのだ。その途中でこちらの予想を超える何かが有っても不思議ではない」
「その何かとは、何でしょうか?」
「分からん。それに………」
健次郎はまた別の画像を表示させる。
「こいつらの存在も謎だ。当初はアローンの子機か何かかと思っていたが………」
「これがアローンに攻撃されていたのは私も見ました。つまり、別の存在という事でしょうか?」
「恐らくな。とてつもなく高度なECMを搭載しているのか、レーダーの類にはほとんど映っておらん」
その画像、全身の鳴動で輪郭がぶれている謎の複数の戦闘機にも見える機影に、健次郎は視線を鋭くさせる。
「どこぞの国が送り込んだ偵察機とも思ったが、これほど高度な機体、しかも恐らく無人機らしき物を開発したという噂すら聞かん」
「確かに。ではこれは一体………」
「分からん………何か、ワシの想像すら超える何かが起きているのかもしれん………」
解析をする健次郎だったが、脇で見ていた悠里がふとある画像に目を留める。
「これは、何の跡でしょう?」
「………弾痕でも爆発でもない。あえて言うならそう、スコップか何かで掘ったような」
「掘る? アローンをですか? それこそ可能なのですか?」
「例えばの話じゃが、ビビッドシステムとはまた別種の、高密度のエネルギーを付与出来るシステムを用いればこのような戦闘の痕跡は付けられるじゃろう。アローンを掘るのはまた別種の問題が有るが」
「………もしそれが本当なら、このアローンは何と戦ったのでしょうか?」
「そんなシステムを持ちながら、スコップを武器にするような変わった存在、というのがいればの話じゃな」
「ビビットシステムを初めて見た時も非常識だと思いましたが、もしそんな存在がいるとしたら、この世の物とは思えませんね」
「それこそ、この世の物ではないのかもしれんな………」
その通りだと二人が知るのは、少し先の事だった。