第二次スーパーロボッコ大戦 EP17
「これは………」
「すごい………」
間近でそれを見た艦娘達が、絶句する。
波の穏やかな海原と、突き抜けるような青空。それらの気象条件を完全に無視したそれは、周辺に波も立てず、強風を吹かせるでもなく存在している。
それは海面から天空までそびえ立つ、凄まじく巨大な霧の竜巻だった。
しかもそれは移動する事も弱まる事も無く、発見された数日前からその場に鎮座している。
「これは、一体何?」
「分からないわ………けど、吹雪も暁達もこの航路を通っていたはず」
「ま、まさか沈没したの!?」
「分からない………ただ、この中に深海棲艦が引きずり込まれたって情報も来ている」
「じゃあ、いなくなった皆も!」
「Hey! きっとブッキー達は無事ね! 答えは、このミスト・トルネードの中にあるね!」
先頭に立つ艦娘が、そう言って目の前を指差す。
「皆、準備OK?」
「確かに、これが何かを調べるのは急務です」
「やるしかないわね」
「吹雪ちゃんも暁ちゃん達も、きっと待ってるよ!」
「それじゃあ、GO!!」
「お〜い、こっちダこっち!」
コンゴウの甲板上で、エイラはこちらに向かってゆっくり降下してくるカルナダインに手を振る。
「重力と慣性制御か、技術的には霧より上か?」
腕組みしながら、コンゴウはありったけのレーダー、センサーでカルナダインを精査する。
「すごい、プロペラもジェットも無いのに飛んでる………」
「これが異世界の技術………」
「っていうか、さっきまで消えてなかった?」
「すごいのです………」
その隣で暁型四姉妹が唖然とした顔をしていたが、ある高度まで来た所でカルナダインは停止、そこから複数の人影が重力制御で甲板へと降りてきた。
「お久しぶりです、エイラさん、サーニャさんも」
「よ、元気だったか宮藤?」
「貴方がコンゴウさんね、改めて、私が《TH32 CRUELTEAR》よ」
「霧の大戦艦コンゴウ、そのメンタルモデルだ」
「暁ちゃん達! 無事だった?」
「あ、吹雪さんだ!」
「そっちこそ、どうしてこの飛行艇に?」
互いの知己に挨拶をかわす中、最後に降りてきた宮藤博士と甲板に出てきた周王が少し苦笑して互いに差し出した手を握手する。
「お久しぶりです、周王博士」
「こちらこそ、宮藤博士。まさかまたこんな形で会えるとは思ってませんでしたけれど」
「状況の確認は? 海上に出現した施設への敵襲はなんとか撃退に成功したと聞きましたが………」
「今何人か救援に行って調査中だそうです。分かったら連絡が来るでしょう」
「調べなければいけない事だらけね………」
お互い、これから忙しくなりそうな事を感じつつ、二人は思わず嘆息する。
「海はいいね〜、漂流中だけど」
そこでいつの間に降りたのか、ギター片手に加山が決め台詞と共にポージングする。
「………誰ダあれ?」
「この世界の帝国華撃団の加山さんです」
「変な人」
「そういう事言っちゃダメなのです!」
エイラも唖然とする中、芳佳が紹介するが響の一言を慌てて電が取り消そうとする。
「はっはっは、正直なお嬢さん達だ」
「何者ですか?」
「情報部の人間だそうだ」
周王も思わず宮藤博士に問うが、返ってきた言葉に眉を潜める。
「もう情報部が出張ってきてるなんて………」
「華撃団という組織は随分と動きが早い。まあお陰で襲撃にも対処出来たが」
「それにしても本当に金剛型そっくりだね〜中身は別物なんだろうけど。これがどこかの国の近海に現れたら、外交問題になってたかもしれないね」
「そうなのか?」
「言われテ見れば………」
「ここで良かったのかもね」
加山の指摘に、コンゴウは首を傾げるがエイラとサーニャは今更ながらその事に気付いていた。
「そう言えば、頼んでたのは?」
「今下ろすわ。カルナ」
『了解、物資降下に入ります』
カルナダインのコンテナ部が開き、そこから物資の入った木箱がゆっくりと降りてくる。
「これでお魚だけのご飯じゃなくなるね」
「塩味だけからもナ」
「寝間着どこ!?」「石鹸は?」「お菓子! お菓子!」「うわ、お肉が塊で入ってるのです!」
中身を大騒ぎしながら確認する暁型四姉妹だったが、そこでクルエルティアがある提案をする。
「もしよければ、カルナダインに乗るって手段もあるけど」
『え?』
「これなら、すぐに目的地につくわ。この後、東京に一度戻る事になったから」
「………どうする?」
クルエルティアの意外な提案に、暁型四姉妹は手を止めて顔を突き合わせる。
「どうする?」「うむ………」「鎮守府無いんだよね?」「けど………」
「私は残るわ」
一番最初に決断したのは、周王だった。
「博士、どうして?」
「気になる事が色々あるから、少しコンゴウさんの力も借りて、海域を調査したいの。アイーシャもどこかにいるかもしれない。何より、彼女を一人にしておけないわ」
「………どういう意味だ」
こちらを見て断言した周王に、コンゴウ当人が僅かに目を細める。
「簡単よ、貴方が今ここにいる中で、一番幼いからよ」
『は?』
暁型四姉妹だけでなく、エイラまでもが周王の一言に間抜けな声を漏らす。
「………どういう意味だ?」
「そのままよ。短い間だけど、一緒に過ごして分かったわ。コンゴウさん、一見貴女は外見と言動は大人びて見えるけど、その実世間知らずと言うには過ぎる部分が多いわ。メンタルモデルとやらを構築してから、ほとんど外的刺激を受けていないわね? 私は自己学習型AIは専門外だけど、それでも貴女がデータのみで実体験が極めて少ないって推測出来る」
「………そうかもしれない」
「あの、どういう意味?」
「彼女は、君達よりもずっと年下って事だ」
『え〜!?』
「………さすがにそれはオレもびっくりだ」
宮藤博士のぶっちゃけた説明に、暁型四姉妹+加山から驚きの声が上がる。
「なら、私らも残るゾ。はっきり言って、こいつの戦い方かラ何から無茶苦茶過ぎるしナ」
「火力は頼りになるけれど」
「どうする?」「う〜ん………」「どうするって言われても」「あの、忘れてないかな? 深海棲艦がまだここいらにいるかも知れないのです」
『あ!』
「それなら、私もこの船に乗ります」
電の一言に、一番大事な事を忘れていた姉妹達が声を上げ、吹雪も乗船を決意する。
「物資は多めに用意してもらってきたので、しばらくは大丈夫だと思いますよ」
「足りなくなったらすぐ運ぶから」
「取り敢えず、中に運ぼう」
魔法力を発動させたウィッチ達が中心となって、物資が運び込まれていく。
その中、宮藤博士と周王と加山の三人で、今後について何か話し合っていた。
「そうですか、ここでも敵襲が………」
「小規模な物でしたけど。ただ、その襲ってきたのが、艦娘の子達が戦ってる深海棲艦とかいう勢力で………」
「なるほどな。だとしたら、この海域に他にもいる可能性は捨てきれない」
「可能性は在り得るかと。私はちゃんと見てなかったのだけれど、このコンゴウの火力で倒せず、艦娘とウィッチの子達の攻撃で倒した、と」
「対応を考えると吹雪ちゃんをコチラに乗せてた方がいいだろう」
「………巴里華撃団と502がパリに現われた深海棲艦と戦ったとは聞いているが、もしその話が本当だとしたら………」
「おとうさ〜ん、エイラさんとサーニャちゃんがユニット見てほしいって〜」
「ああ、今行く」
芳佳の呼ぶ声に宮藤博士はそちらへと向かおうとするが、そこでちらりとコンゴウの船体の兵装を見る。
(ネウロイはコアさえ破壊できれば、物理攻撃のみでも撃破出来る。だが、深海棲艦はそれが不可能なのか?)
新たな懸念を思案しつつ、宮藤博士は取り敢えず目の前の仕事を片付ける事にした。
「ふああ〜………」
「朝だよマスター!」
まだどこか疲れの残る一夏だったが、枕元のクレイドルから起きたツガルに叩き起こされる。
「眠い………」
「情けないな〜、お隣のプリンセスはとっくの昔に朝練に出てったよ」
「マジ? タフだな〜」
「マスターも起きて起きて!」
「分かったって………そういや授業とかどうなるんだろ?」
「先生方が会議して決めるらしいよ」
「千冬姉の事だから、普通に授業しそうだな………」
「取り敢えず、一般生徒の授業は通常通りという事だな」
「その方が混乱も少ないでしょうね」
食堂の一角、千冬とどりあが中心となり、一緒に転移してきた教師陣の間で簡単ながら今後について話し合われていた。
「それはそうかもしれませんが………」
「並列してやる事も多いです」
「分かっている。ライフラインはなぜか普通に使えるが、他にも問題は山積みだからな」
同席していたエグゼリカとエリューの指摘に、千冬は腕組みして考える。
「まずは………」
「織斑先生〜、朝食の準備できました〜」
「そうか、では食堂の使用許可を」
転移してきたのはなぜか生徒と教師のみで、職員が全くいない状況に、一番最初に生徒達の交代制で食事当番をさせる事に決定した千冬だったが、それも一時しのぎにしか過ぎない事も理解していた。
「それにしてもパラレルワールド、か………一昔前にフィクションで流行った時はあったらしいが、実際に起こると、洒落にならんな」
「正直な所、信じられないと言いたい所ですけれど、こうもあれこれ見たら信じるしかないですしね」
「私達も最初そうでしたから」
思わずため息をつく千冬に、まだどこか半信半疑のどりあだったがエグゼリカが自分達の時を思い出して助言する。
「アンドロイドに異星人か、見た目では全く分からんが」
「頭にアンテナ生えてる訳でも、タコさんみたいな姿してる訳でもないようですし」
「さすがにそこまで極端なのは………すぐに慣れると思いますよ」
「慣れていいんでしょうか………」
「慣れないと、色々大変ですよ………発狂しかけた人もいたって話だし」
「………メンタルケアも必要になりそうだな」
こちらを見て首を傾げる千冬とどりあに、エリューが助言するのを真耶が不安そうに呟くが、亜乃亜の余計な助言に千冬が顔をしかめる。
「さしあたり、食料庫には生鮮食品は一定量備蓄されているし、倉庫には緊急時用の保存食料がある」
「けれど、見つかったのはIS学園側の備蓄食料だけでした。そうなると………」
「倍の人数は想定されていない、という事ですね?」
運ばれてきた朝食を前に、千冬が現状を報告した所で真耶が言葉を濁し、どりあがその意味を指摘する。
「遠からずして、食糧問題は深刻化するだろうな」
「一応、支援要請は向こうで受理され、物資の搬送は数日中に行われますが………」
「この人数分をすぐに、という訳には………」
エグゼリカとエリューも言葉を濁し、教師陣も朝食を前に考え込む。
「あの〜………」
そこで、いの一番に朝食に手をつけていた亜乃亜が恐る恐る手を挙げる。
「それなら、いい手があるんですけど」
「それは?」
「それで、どうだった? クーちゃん」
「はい束様、現状では再度の敵襲は無い模様です。収拾出来る限りのデータはこちらに」
IS学園の整備ブースの一つを勝手に自分用にし、紅椿と白式の修理を行っていた束の背後に銀髪の少女、助手的存在のクロエ・クロニクルが立ち、現状を報告する。
「う〜ん、やっぱり情報収集が目的だったみたいだね。やる事派手過ぎるけど」
「束様以上の事をする者達がいたとは意外でしたが」
「あっはっは、ひどいな〜。あとクーちゃん」
「何でしょうか」
「その子は何?」
「バウ!」
束が振り返りながらクロエの足元、そこにいる片目にブチ模様のある全体的に寸詰まりな犬を指差す。
「その、戦闘に巻き込まれそうになっていたので一応確保したのですが、懐かれたらしくて………」
「あはは、誰かのペットかな?」
「ガウ!」
「うわ!?」
作業の手を休めて撫でてみようとした束だったが、突然牙を剥かれて慌てて引っ込める。
「大丈夫ですか?!この、コイツ!」
クロエは手にした仕込み杖を抜こうとするが、束はそれを手で制する。
「こらこらクーちゃん、ワンちゃんにムキなんなくていいから。私は大丈夫大丈夫、人見知りする子なのかな?」
「さあ………どうしましょう?」
「取り敢えず、邪魔にならない所に置いとけば飼い主か誰か気付くでしょ」
「分かりました、捨ててきます。ついでに朝食の準備を」
「適当でいいよ〜、状況が状況だし」
犬を抱いてその場から消えるクロエに手を振りながら、束は作業を再開する。
「う〜ん、やらなきゃならない事いっぱいだな〜」
作業の手を休めず、束は勝手に持ってきたコンソールに白式と赤椿に残った戦闘データを表示させる。
「JAM、か………これに対抗出来る物を用意しとかないとね♪」
未知の敵に、束はむしろ嬉々としながら作業を続行していた。
「なんとか、あちらの方は落ち着いたようですね」
「今の所は、だけど」
一晩経ち、再度帝国華撃団基地の指揮所に集まった面々の前で、学園からの報告に誰もが安堵と一抹の不安を感じていた。
「人的被害がほとんど出なかったのは幸いだな」
「どうにも報告書見る限り、全員かっさらうつもりだったみてえだな」
嶋と米田がエグゼリカとエリューから送られてきた学園現状のレポートに目を通しつつ、呟く。
「ここまで大規模な捕獲は前回は見られなかった物です。話には聞きましたが、この敵はかなり特殊とみていいでしょう」
「それならば、最初から誘拐すればよかったのでは?」
「恐らく、戦闘能力を確認してから確保するつもりだったのだろう。こちらでも似たような事があった」
エリューの出した推論に群像が疑問を呈するが、大神が帝都での戦闘を思い出して返す。
「この際、それは後でもいいだろう。今一番の問題は」
「絶海の孤立した場所に八百余名が移動不能な状態にある」
門脇の言わんとする事を、途中から大神が代弁し、誰もが頷く。
「ライフラインは生きているそうだけれど、問題はやはり食料ね………」
「残った物と、災害時用の緊急食糧で使いまわしても限度が来るのは目に見えている」
「しかもかなり遠いってきてやがる。手持ちでそんだけの人数分の食料積んで、飛んでいける宛はあるかい?」
ポリリーナと嶋の客観的分析に米田が問うが、渋い顔だけが返ってきた。
「カルナダインなら数時間で行けますが、ベイロードにそこまでの余裕は………」
「となると………」
「最速でそれだけの物資を運べるのは、我々の船だけ、という事になります」
「頼めるかい?」
「いいでしょう。こちらとしても、そんな人数が飢える状況は回避したい所です」
かねてから大神から打診されていた件に、僧が再度確認し、米田からも依頼された事に群像が頷く。
「問題は、こちらの船の容量にも限度があるという事です」
「さすがに、何度も往復するのも問題だろうし、かといってあの人数避難させる手も………」
「遅れましたわ」
「エルナー、エリカちゃん戻ってきたよー」
そこに、今回の件のバックアップのために一度戻っていた香坂 エリカがユナと共に姿を見せる。
「お話は聞いてます。今度は太平洋に学校がまるごと出現したとか」
「映像見てたけど凄かったよ。バトルスーツみたいなの着てた子達と、もっと大きなパワードスーツみたいなの着てた子達と」
「今それを話してた所です。このままだと早晩物資の欠乏が始まりそうで………」
エルナーの説明に、香坂 エリカは意味ありげな笑みを浮かべる。
「それなら、いい手がありますわ」
「それは?」
「うわ、なんだこりゃ!?」
「荷物がいっぱい………」
「そうだね〜」
遼平と音羽+ヴァローナは、転移ポートから次々と送られてくる小型コンテナの山に、唖然とする。
「なんでも、組み立て型の転移装置だそうだ。前の奴みたいに船まるごとは無理だが、大型コンテナくらいなら送れるらしい」
「こいつを海の中の学園に設置するって話になったとさ」
「へ〜」
渡されたリストを元にチェックしていた大戸と、聞いたばかりの情報の確認に来た冬后が積み込みをどうするか悩んでいた所に、401のクルー達が訪れる。
「これっすか? 積んでくの」
「あと食料を中心とした生活物資だな。積めそうか?」
「イオナちゃんに言って、少し格納部分広げた方がいいかもな〜」
「残弾少ないから、その分削ってもいいかも」
杏平といおりがコンテナの数と体積から概算していき、少しばかり顔をしかめる。
「話には聞いてたが、自在に設備いじれるってのは本当か?」
「ナノマテリアル製の所は、ですけど。そうじゃない所も増えてきたからな〜………」
「超重力砲なんて、オーバーホールしないと次使えそうにないし」
「すげえイカサマだな………」
大戸の疑問にいおりが答えるが、前回のダメージを思い出した杏平が唸り、整備員としては信じられない話に遼平が顔をしかめる。
「亜乃亜ちゃん達は警備のためにしばらく向こうにいるって話だっけ」
「結構派手にやらかしたらしいからな。ここ程じゃねえけど」
「七恵さん言ってたけど、800人以上いて、男の子一人だけだって」
『何!?』
音羽の一言に、遼平のみならず杏平も敏感に反応する。
「なんちゅうハーレム比率………」
「つうか女子校なんじゃねえのか、それ?」
「元はそうだったらしいよ。何でかその人一人だけ男だけどISとかいうの動かせるらしいって事で入学したんだって」
「その人マスターにした神姫からの情報だと、不特定多数の女の子が頻繁に来るとかどうとか」
「なん、だと?」
「く、なんて奴だ………」
露骨に歯ぎしりしている遼平と杏平を音羽といおりが生ぬるい目で見つめる。
「………そいつ、絶対苦労してるな」
「違いねえ」
色々思う所がある冬后が呟き、大戸が同意しながら、作業は進められていった。
「食料の方、こちらで手配いたしますわ」
「生活物資の方はこちらで。冷蔵コンテナは小型の物なら用意できますから、食料はそちらに移してからにしましょう」
「いや、格納スペースを一部冷蔵仕様に出来るか?」
「やってみないと分からない」
追浜基地の会議室で、すみれ、香坂 エリカ、群像、イオナで搬送される物資についての打ち合わせが急ピッチで進められていた。
「量が量ですからね」
「用意して積み込むのも一苦労ね。搬送用の機器も準備させましょう」
「まあ、もうすでに始まってる所はあるが」
群像がちらりと外を見ると、そこでは美緒と僧の指揮の元、ウィッチ達が中心となって転移装置のコンテナがすでに401に積み込み始められていた。
「持っていくのはいいが、組み立ては?」
「設計者のエミリーが同行しますし、そちらのヒュウガさんが手伝ってくれるそうですわ。ただ問題が………」
「問題?」
「私が進めていたパラレルワールドへの商業的干渉計画は、実はまだ初期段階でして、用意出来ていない物が多いんですの。本来なら探索船の完成を待ってから探索する予定でしたのが………」
「予定通りに行かないなんてよくある事ですわ。それで、その用意出来てない物とは?」
「それは………」
「動力が足りない?」
「ええ」
401のブリッジで、転移装置の説明を受けていたヒュウガは、説明していたエミリーの問題点に首を傾げる。
「この手の転移装置は、初期起動に結構なエネルギーを消費するんです。一度繋いでしまえば後は問題無いんですが、今使用している転移ポートで転移可能なサイズの動力源はまだ開発中で………」
「う〜ん、これだけ食うとなると、401の動力からでも厳しいわね………」
「一応、向こうにある自家発電用ジェネレーターも使おうかとは思ってるんですが、実際どれだけの数値が出せるかは不明で」
「未完成のを持ってきたって訳ね。ま、この状況じゃ仕方ないけど。こちらもナノマテリアルのアテがないと、修理の限度があるし」
「組成はもらいましたから、別の研究所で精製実験を近日中に始めます。ただ、こちらでもまだ理論段階の物なので………」
『ねえ、それっていつごろ出来そう?』
そこで話を聞いていたタカオが、パネルを二人へと向けながら聞いてくる。
「まだなんとも………」
『急いでよ! 私のボディが無いと不便でしょうがないのよ!』
「あ」
『あって何よ! ヒュウガ! まさかその事忘れてたんじゃないでしょうね!?』
「イオナ姉さまの方が先ですわ! これから先、超重力砲無しだとどこまで戦えるか分かりませんし!」
『だからって!』
「まあまあ、それくらいで…」
口論を始めた二人をエミリーがなだめようとした所で、突然警報がブリッジ内に鳴り響く。
「え?」
「これは!」
『巴里華撃団から緊急入電! 異常事態発生!?』
「まさか、また敵襲!?」
『映像来たわ!』
「これは………」
「くうっ!」
「予想以上に………」
「陣形崩さないで!」
「何か、見える!」
「あの光に向かってGoね!」
荒れ狂う竜巻を、縦深陣を組んだ艦娘達が突き進む。
明らかに自然の物とおかしいデタラメに吹き荒れる強風の向こう、僅かに見える光に向かって、最大戦速で突き進むと、唐突に風が止んだ。
「抜けた!」
「………え?」
突然開けた目の前の視界に、艦娘全員が絶句した。
「Oh、随分と狭い海域ネ」
先頭にいた、巫女装束のような衣装に大型の砲塔の艤装を持つ英語なまりのある艦娘、金剛型高速戦艦1番艦・《金剛》が物珍しそうに左右を見回す。
「どう見てもここは海ではありません」
「残念な事に私も一航戦に同意見ね」
その後ろ、甲板を思わせる肩当てに弓道着のような格好をした青い袴を履いた加賀型 1番艦 正規空母《加賀》と更にその後ろ、こちらは短い緋袴を履いた翔鶴型 2番艦 正規空母《瑞鶴》が珍しく意見を統一させる。
「これはどう見ても河川、しかも市街地のようですね」
「しかも、外国みたい」
「うん、見られてるよ北上さん!」
更にその後ろ、翔鶴型 1番艦 正規空母《翔鶴》が自分達が今航行しているのが整備された河川らしき水路、しかも両脇にマロニエの樹が一定間隔で植えられている事に気付き、殿の緑色のセーラー服に雷撃艤装を装備した球磨型 3番艦 重雷装巡洋艦《北上》と球磨型 4番艦 重雷装巡洋艦《大井》が川岸からこちらを物珍しそうに見ている明らかに西欧人らしき人達にたじろぐ。
「ハ〜イ!」
「ボンジュール!」
金剛がこちらを見てきた中年男性に声をかけながら手を振ると、男性も気さくに挨拶しながら手を振り返してくる。
「今の人………」
「ボンジュールって、確か………」
「フランス語ですね」
「まさか、ここ………」
「大井っち、後ろに鉄塔みたいの見えるんだけど」
「え!?」
戸惑う艦娘達だったが、北上の言葉に後ろを振り返ると、そこにはどこかで見覚えのある鉄塔が遠目に見えた。
「え、エッフェル塔!?」
「じゃ、じゃあここって………」
『巴里!?』
「なんとまあ………」
「どう見ても、これはアレのようだな」
「あの装備は、吹雪さんの物と同質のようです」
「また変わった連中が来た物ね」
「マイスター、残念ながら向こうもそう思うだろう」
巴里華撃団の司令室で、突然の警報に様子を見に来たグランマ、ラル+ブライトフェザー、フェインティア+ムルメルティアが、送られてくるセーヌ川の映像、そこを航行している人影に唖然とする。
「グランマ、敵対意思は無いようですが」
「多分、何が起きてるか分からないんだろうよ」
「こちらはいきなり戦闘だったがな」
「そうですね」
指示を乞うメルに、ため息をつくグランマだったが、ラルとブライトフェザーが自分達の時と比べればマシだと判断する。
「見世物だと思われてるわよ、野次馬が増えてきてる」
「いい兆候ではないな」
画面には何かのパフォーマンスと思われてるのか、手を降ったり声を掛けたりする人影が徐々に増えてきている事に、フェインティアとムルメルティアが呆れる。
「現在地は?」
「もう少しでヌフ橋に到達します」
「そこに確か機密搬入路があったはずだろ。そこから誘導しておき」
「通信出来るのか?」
「吹雪さんから聞いていた周波数帯に合わせます」
「何なら、私がひとっ飛びして引っ張ってくる?」
「マイスター、それは目立ち過ぎる」
「あんた達には、念のため出迎えの準備をしてもらおうか」
「出迎え、か」
『ボンジュール、艦娘の方々とお見受けします。聞こえますか?』
「ホワッツ?」
「聞こえてるわ、そちらは?」
突然入ってきた通信に、艦娘達は驚きつつも耳を済ます。
『吹雪さんから話は聞いております。その先のヌフ橋、皆さんから見て左側に機密搬入路が有ります。そこからお入りください』
「だ、そうよ」
「どうする?」
加賀と瑞鶴が他の艦娘達に判断を促し、皆が思わず互いを見る。
「どうするって言われても………」
「このまま北上さんが見世物になるのは耐えられないわ!」
「私は別に構わないネ」
明らかに増えてきているギャラリーに、北上と大井は困惑するが、金剛はむしろ嬉々として両手を振っていた。
「罠かどうかも不明だけど、このままよりはマシね」
「またしても同意見。つうか写真まで撮られ始めてるわよ」
鼻を鳴らして指示に従う事にした加賀に、こちらに向かって光り始めたフラッシュに思わず顔を隠そうとした瑞鶴が続く。
「Oh、確かにゲートがあるネ」
「こんな所に………機密施設の類でしょうか」
「多分ね」
「いくよ大井っち」
「はい北上さん」
艦娘達は、橋の上からは見えない位置に開いていくゲートから中へと入っていき、全員入ると同時にゲートは閉まる。
後には、橋の下から出てこない彼女達を不思議な顔で見ているギャラリーの姿だけが残った。
「これはまた………」
「搬入路の類のようね、しかも機密の」
「ひょっとして、とんでもない所に来ちゃった?」
各所に灯りの付けられた水路に、艦娘達はその目的を推察するが、やがて水路の脇にある歩道と、そこに立つ人影が見えてくる。
「ようこそ、巴里華撃団基地へ」
「歓迎するよ、カワイコちゃん達」
「一応ね」
こちらに向けて頭を下げるメイド服姿のメルに、軽い挨拶をする軍服姿のクルピンスキー、更に赤いボディスーツのフェインティアに艦娘達は明らかに顔をしかめる。
「ワッツ? 巴里、華撃団?」
「じゃあ、ここはやっぱり巴里なの?」
「待ってよ! 私達はマリアナ沖にいたはずよ!?」
「マリアナ沖とは遠いね〜。こっちはペテルブルグからだったよ」
「同じ惑星なだけマシね。私は下手したら違う銀河系よ」
「………何の話?」
「さあ?」
困惑する艦娘達に、クルピンスキーとフェインティアの言葉が更なる困惑をもたらす。
だが、加賀はその言葉を聞き流しつつ、矢筒の矢に手を伸ばしていた。
「それと、その物陰で待ち構えている人達はどういう事かしら?」
「おや、気付いてた?」
「勘は冴えているようだな」
鋭く通路の影を睨みつける加賀に、クルピンスキーはおどけて見せるが、用心して隠れていたグリシーヌが手にしていたハルバードを壁に立てかけると、背後にいた他の花組隊員やウィッチ達がぞろぞろと得物を一度手放しながら姿を現す。
「すまない、少し用心深くなっていてな。巴里華撃団、花組のグリシーヌ・ブルーメールだ」
「横須賀鎮守府所属、第五遊撃部隊の加賀よ」
グリシーヌがしゃがみながら差し出した手を、まだどこか不審の目で見ながら加賀が握り返す。
「それでは皆さん、こちらへ。お荷物はあちにお預けください」
「艤装おけるスペースあるデスか?」
「あるよ、充分にね」
メルの案内に金剛が首を傾げるが、クルピンスキーが含みの有る笑みを浮かべてみせる。
「それにしても、皆さん吹雪さんのと比べると随分と大型の艤装を使ってられるんですね」
手に大型レンチを手にしたまま、ポクルイーシキンが艤装をしげしげと見つめる。
「ブッキーは駆逐艦、私は戦艦だから当たり前ね」
「で、吹雪さんはここに?」
「負傷されてましたので、治療設備の有る船に。もう治ったと聞いてますよ」
「船? 治療設備って、入渠設備のある船なんてあるの?」
「正確には私達トリガーハートの母艦、カルナダインよ」
「話は聞いたが、そちらでは随分と原始的な方法で修理しているらしいな」
「原始的………って何よ、そのしゃべる人形!?」
「そっちにはまだ武装神姫が現れてないって事ね………」
「今回は関わっている世界が多すぎてプロフェッサーも把握しきれていないそうだ。直に誰か派遣されてくると思うが………」
状況が全く理解出来ない艦娘達が先導するメルに続いて水路から格納庫へと移動し、その先に広がる巴里華撃団施設に絶句する。
「Oh、これはなかなか」
「鎮守府より大きいんじゃないかしら?」
「あっち、デカい人形みたいな艤装とエンジンだけみたいな艤装が置いてあるんだけど………」
「あちらは巴里華撃団で使用している霊子甲冑・光武F、そちらはウィッチの方々が使用しているストライカーユニットです。今予備ハンガーを用意しますので、艤装はそちらに」
「それはご親切にどうも」
「翔鶴姉、他に言う事あるんじゃない?」
「まあ、これ用なら艤装置いても問題なそうだよ?」
「ちゃんときれいなのでしょうね!? 北上さんの艤装を小汚いのに置いたら許さないわよ!」
水路から上がった艦娘達が口々にあれこれ言いつつも、艤装を外していく。
ウィッチや華撃団の目には、それを手伝う何人もの妖精達の姿が見えていた。
「へ〜、艤装とやらが大きくなると妖精さん達も増えるんだね」
「見えるの?」
「まあね」
「霊力や魔力のある人間には見えるらしい。吹雪の時もそうだったが」
「言っとくけど、私は見えないからね」
「私もだ」
「見えないのがノーマルで〜す。こんなに見える人達がいる方がサプライズで〜す」
クルピンスキーやグリシーヌが興味深そうに妖精達を見る中、フェインティアとムルメルティアは憮然としている。
「それではこちらに。グランマがお会いになられます」
「グランマ?」
「我々巴里華撃団の司令だ。そこで今分かっている事を説明するそうだ」
「正直な所を言えば、何が起きてるのか私達も分かってませんけど」
「深海棲艦って、そっちの敵だろ? こっちに来てエラい目に有ったぜ」
「エリカ、そういえばいつ戻ってくるんだろ?」
巴里華撃団の隊員達が、前回の戦闘を思い出しつつ、艦娘達を案内する。
「深海棲艦と戦った? 貴女達が?」
「ボク達もだよ。苦労したけどね」
「あいつら、やけに固かったからな〜」
「管野の拳耐えた奴って、考えてみれば初めてじゃない?」
「特にあの帽子付きはすごかったわね」
「今思い出しても、よく倒せました………」
ウィッチ達が口々に言う事を、艦娘達は怪訝な顔で聞いていた。
「帽子付きって、あの奇妙な艤装でヲ級を倒したというの?」
「奇妙と言うにはお互い様だろうな」
「違いないね」
「今の内に言っとくわ、すぐに気にしてる余裕は無くなるから」
「??」
半信半疑の加賀に、グリシーヌとクルピンスキーが含み笑いで答える中、フェインティアは何か遠い目をしながら忠告する。
「さあこちらへ」
メルの案内の元、艦娘達が支配人室へと入ると、グランマとラル(+ブライトフェザー)が待ち構えていた。
「ようこそ、巴里華撃団へ」
「歓迎、というのもおかしいかもしれんが、よく来た」
「横須賀鎮守府所属、第五遊撃部隊の金剛デ〜ス」
「加賀よ。で、吹雪さんはどこに?」
代表して金剛が挨拶する中、加賀が一番気になる事を口に出す。
「あの子は今どの辺だったかい?」
「吹雪さんは治療が終わった後、他の艦娘の方と合流。他の船に移っております」
「ああさっき通信チェックしていた船さね」
「今通信繋げます」
グランマが首を傾げた所で、控えていたメルが答え、その間にブライトフェザーが通信装置を外部操作する。
程なく、支配人室に設置された蒸気モニターに紅瞳の三白眼が映し出される。
『何の用だ』
「吹雪の仲間がこっちに来たんだよ。ちょっと呼んでもらえるかい」
『そうか』
それだけ言うと、画面は即座に切り替わり、そこで寝室の整理をしていた吹雪の画像が映し出される。
「ブッキー!」
『え、金剛さん!? 加賀さん達も!』
『金剛さん?』『本当だ』『いつこっちに来たんですか!?』『今どこに!?』
「映像付随通信? しかも乱れが全くない………」
「まだ実用化されてないんじゃ?」
画面に吹雪のみならず、第六駆逐隊の姿も映し出されている事、しかもリアルタイムでノイズの類も一切無い事に加賀と瑞鶴は驚く。
「取り敢えず暁達も一緒なのね」
「これで行方不明になってた子達は全員ね」
まだ驚愕は覚めやらぬが、画面の向こうに行方不明になっていた者達が全員いる事に、瑞鶴と翔鶴は胸を撫で下ろす。
「で、ブッキー達は今どこにいるネ?」
『え〜と、コンゴウさん現在地ってどこですか!?』
「ワッツ? 金剛はこっちネ」
『………そうか、お前も金剛か。私は霧の大戦艦コンゴウ、そのメンタルモデルだ』
「? どういう事?」
「恐らく、似て非なる同一パラレル存在です」
「何それ?」
「説明は後でブライトフェザーにさせよう。同名の別人だと思えばいい」
同じ名前同士の存在に、艦娘達が首を傾げるが、ブライトフェザーとラルの説明に一応は納得した事にする。
『現在地のデータを送る。そちらの現在地は巴里華撃団本部か』
「サンキュね、ミストコンゴウ!」
『………何だそれは』
「霧のコンゴウなら間違ってはいないでしょう。………これ、北太平洋?」
「しかもど真ん中………何がどうしてこんな所に………」
『え〜と、色々ありまして』
「その分の説明もこっちでしとくから。そっちに異常は?」
『今の所ありません! こっちのコンゴウさんもよくしてくれますし』
『何ダ、お仲間もこっち来たのカ?』
『他の艦種の艦娘の人達?』
そこに話し声を聞いたエイラや周王が顔を見せてくる。
「取り敢えず、こっちで状況説明はしとくわ。理解できるかは不明だけど」
『まあ、私もまだよく理解出来てませんし………』
「こちらだってそうさ。もっとも、理解出来るかどうかでなく、しなくちゃいけなくなるんだろうけどね」
「??」
フェインティアとグランマの説明に、艦娘達は更に首を傾げる。
『その、ここは私達がいた世界じゃないそうなんです』
「ワッツ?」
「パラレルワールド、って言ってね…」
その後、艦娘達に状況を理解させるのに、かなりの時間を要する事となった………
「巴里に艦娘とやらがまた現われたらしいな」
「今度は戦艦とか空母とか名乗ってるそうよ」
「吹雪って子が駆逐艦と名乗ってたから、それよりは大型なのかしらね」
「詳しい所は巴里華撃団で説明中らしいわ」
早朝のリトルリップシアターで、数時間前にもたらされた情報を聞いたマルセイユに、圭子とラチェットが補足する。
「どうにも、飛ばされたのではなく、向こうから来たという話らしい」
「つまり、来れる状況にあるって事?」
「かもしれない」
眠気覚ましに用意されたマスターのコーヒーに砂糖を入れつつ、サイフォスの話に圭子が首を傾げる。
「シャーリーの話だと、違う世界への転移は勝手に飛ばされるとか言ってたな」
「ジェミニさんも似たような事言ってたわ」
「しかし、何でも帝都には扶桑のウィッチ養成学校と繋がりっぱなしになってるって話もあるわね」
「それ事態解せない。そもそもパラレルワールド同士を繋ぐには莫大なエネルギーが必要になる。そうやすやすと出来るとは………」
「この際、御託はどうでもいい。問題は私達は何時になったら元の場所に戻れるか、だ」
「その前に連絡だけでもしたい所ね。その帝都に繋がってる所から、今有線で無線機を繋げてるらしいけれど」
「今頃、大騒ぎになってるでしょうね」
「間違いなくな」
ラチェットの言葉に、マルセイユは思わず苦笑する。
「艦娘の人達の世界とこの世界が繋がってるなら、私達の世界とも繋がってないかしら?」
「可能性はあるとは思うが、それ以上の事は私にはなんとも………」
「随分と色々知ってるわね、この武装神姫って子」
「我々は元々、そのために造られた。ただ今回の件は想定外過ぎて、手が回りきらない」
「その小さい手に前回は随分と助けられたけどね」
「全くだ」
「ハ〜イ、ケイコ!」
そこに朝食の乗ったトレイを手にプラムが声をかけてくる。
「トーキョーから連絡が有ったわ。なんとか貴方達の任地と通信繋がりそうみたい」
「そう? じゃあちょっと無事だって事くらい教えてくるわ」
「私がいなくて戦線が崩壊してなければいいのだがな」
「それが一番の懸念事項ね………」
「確かに問題ね………」
マルセイユの笑えない冗談に、ケイコとラチェットが頬を引きつらせる。
「じゃ、行ってくるわ。朝食、私の分取っておいてね」
「早く来ないと保証できないな」
「陛下、私がガードしておこうか?」
「あら、足らなかったら追加で作るわよ?」
朝食の警備に入ろうとするサイフォスにプラムが思わず吹き出しながら、圭子を連れて通信施設のある司令室へと向かった。
『来たか、今繋いでる最中だ』
「ちゃんと繋がるといいんだけど」
『なんとかはしてみますけど………』
『これそっちです!』
通信画面に美緒とその周囲に幾つもの配線と格闘している静夏とアーンヴァルの姿が映し出される。
「え〜と、つまりこのニューヨークからトウキョウに繋いで、そこから有線で帝国劇場の地下からウィッチの学校に繋いで、そこから通信施設に繋いで、そこから君達のいたアフリカ戦線に繋ぐ、と」
「そうなるわね。本当に繋がるかしら………」
サニーサイドが指を立てながら中継箇所を確認していき、改めてかなり無茶をしている事を圭子が認識しつつ、繋がるのを待つ。
『繋がりました!』
『お、やっとか』
「代わって」
転移ホールから顔を出した土方の報告に美緒が頷き、圭子が通信マイクを手に取る。
「こちら第31統合戦闘飛行隊 《ストームウィッチーズ》隊長、加東 圭子少佐、聞こえますか?」
『加東少佐! こちら金子です! ご無事ですか!?』
「主計中尉、こちらは全員無事よ。一応ね」
『今どこにいるんですか!? こちらはもう大変な騒ぎですよ!』
「まあ色々有って………一言で言えば、ニューヨークに居るわ、皆ね」
『はあ!? なんでそんな所に!?』
「説明するのは色々難しいわね。とにかく、現在のそちらの戦況は?」
『それが、大変なんです! ウィッチの皆さんが消えた直後、とんでもない巨大な霧の竜巻が発生して、そこにネウロイが次々吸い込まれているんです!』
「何、ですって………」
『待て、それは本当か!?』
「とんでもない状況のようだね………」
通信口からの報告に、圭子のみならず、聞いていた美緒とサニーサイドも絶句する。
「待って! その霧の竜巻って今もあるの!?」
『はい! 今将軍の方々が緊急対策会議の真っ最中です!』
予想外過ぎる事態に、圭子の手から通信マイクが滑り落ち、床に跳ね当たって乾いた音を立てる。
同様の報告が艦娘達からももたらされ、新たなる不安要素の出現に、皆に戦慄が走るのに然程時間はかからなかった………