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「インターフェイス、同調開始」
「ラグとかバグとか、いじっておく」
「制御系はこっちに回して」
「探査先は風神で指定します! 気休めにもならないかもしれませんが………」
「魔導針を共振するのじゃ! 理論上は可能だったはず!」
「やってみます」
「魔力を回復させておいて、どれだけ負荷がかかるか見当もつかない」
アイーシャ、ティタ、亜弥乎が中心となってデア・エクス・マキナへのハッキング準備が進められ、可憐の駆る風神とナイトウィッチ達がそれをサポートするべく、持てる探査能力をフルに発動させる体勢を整えていく。
「エレガントソード!」
「右ダ姉ちゃん!」「そこかっ!」
「たあぁぁぁ〜」「攻撃!」
準備の進める者達の周囲で、エリカとユーティライネン姉妹、それにヴァローナとウェルクストラが護衛にあたっていた。
「準備は済みました!? なるべくお早めに!」
「準備はもう直終わる」
「問題はタイミング、まともに行ったら全員プッチリ潰される」
「ユナが頑張ってはいるけど………」
エレガントソードを振りかざしながら叫ぶエリカに、ハッキング準備を整えた三人は仕掛けるタイミングの難しさに重い顔をしていた。
「一応聞いとクけど、潰されるっテどうなるンダ?」
「ショック死するか廃人になる」
「ちょっと待テエエ!! そんな事をサーニャにさせる気ナノか!?」
「大丈夫、ウィッチの人達はそこまでは多分いかない。行くとしたら私達の誰か、もしくは全員」
「やはり、そうなるでしょうね………」
何気なく聞いてきたエイラの問いに淡々とアイーシャが答え、思わずエイラは声を荒らげるがエリカは予想していたのか、表情を険しくする。
「元々処理能力の次元が違い過ぎます。激流に家庭用ホースでバイパスを作るような物です」
「あたしも手伝うけど、アレの処理を何かに優先させないとチャンスは無いかな〜」
「つまり、あのデカいのの気を引けばいいという訳か」
「だから、アチコチからエースウィッチ抽出したんダろ?」
「こちらの意図が気付かれる前に、上手くいけばいいのだけど」
エースを抽出した事で、徐々に劣勢になりつつあるウィッチ達を横目で見つつ、エリカは剣を振るい続けた。
「エリカ7! 状況は!」
『エリカ様、こちらはまだ大丈夫です! 増援に向かいますか!?』
「攻龍の防衛に専念なさい! まだその船に沈まれる訳にはいきませんわ!」
『了解です、エリカ様!』
エリカ7に指示を飛ばしながら、エリカは腰の回復ドリンクに手を伸ばし、それが最後の一本だという事に気付く。
「あまり悠長にしていられる状況ではなさそうね………」
「全くだ、ここを離れる訳にもいかんし」
エリカの呟きに、アウロラも賛同しながら、すでに自分の分は飲み干した回復ドリンクの代わりを妹からせしめようとする。
「姉ちゃんまだそっちに残ってるダロ!」
「こっちはこっちで大事でな」
そう言いながらアウロラはせしめた回復ドリンクを飲みかけの酒瓶に注ぎ込み、ロックで喉へと流しこむ。
「早くしてくれ宮藤! でないと役立たずの酔っぱらいが出来上ガる!」
エイラの悲痛(どこか違うが)な叫びが、その場に響き渡った。
「行きなさい、カルノバーン・ヴィス!」
飛来したアンカーが砲撃ポッドの一つに突き刺さる。
本来ならすぐにアンカーからの侵食が始まるはずが、逆に一度突き刺さったはずのアンカーがじわじわと抜け始める。
「!? ナノマシンコーティング!」
それが内部からナノマシンで反発されていると気付いたクルエルティアだったが、アンカーが抜ける直前、飛来した銃撃が砲撃ポッドを貫き、爆砕させる。
「どうやら、外身だけでなく中身も妙な作りになってるみたいだな」
「あなたは…」
「31のマルセイユだ。他の部隊からもエース級が集まってきている。あのデカブツに攻撃を叩き込んで隙を作ればいいんだな」
「まずは目標までどうやって近付くか、ね」
クルエルティアのセンサーには、デア・エクス・マキナとの間に多数配備されている攻撃ポッドの存在が感知されていた。
「その点は大丈夫だろう、来たようだしな」
マルセイユの言葉が示す通り、何人ものエース級がその場に集結しつつあった。
「行くよウルスラ!」「はい姉さん」
先陣を切るように、ハルトマン姉妹の駆るホルス1号機が突撃、砲撃ポッドに次々と攻撃を加えていく。
「まずは、周辺のお供を潰してかないとね」
「無駄に多いがな、片っ端から行くぞ!」
「分かりましたマスター!」
ポクルイーシキンとルーデル、そしてハーモニーグレイスがハルトマン姉妹に続けとばかりに攻撃を開始し、他にも各所からエースウィッチ達の銃撃が無数のポッドを次々と撃破していく。
「なかなかやるわね〜」
「マイスター、問題は標的にどの程度の攻撃が有効かという事だ」
フェインティアが関心する中、ムルメルティアはそのポッドの向こう、激戦を繰り広げるスーパー・エルラインとデア・エクス・マキナへと視線を向ける。
「無理に攻撃を仕掛ける必要は無いわ」
「私達がここでこれらを一体でも多く破壊すれば、その分ユナの負担が減るのですから」
「手が空いたら、援護射撃をすればいい」
ポリリーナと沙雪華が組んでヒット&アウェイを繰り広げ、ミサキは乱射しまくりながら、ちょっとでも隙あらばデア・エクス・マキナを狙っていた。
「忌々しいけど、それが妥当でしょうね。半分スクラップだけど、アレが一番戦闘力が高いようだし」
「口が悪いのは相変わらずだね〜」
フェインティア・イミテイトが大型ビーム砲を連射する中、ポクルイーキシンは苦笑しながら次の獲物を探す。
各部隊から抽出されたエース達は、誰もが少なからぬダメージを負っているが、誰一人として戦意は衰えず、スーパー・エルラインを援護するべく、奮戦を続ける。
「こんなのじゃダメ………もっとあいつの演算処理に多大な負荷を掛ける何かが………」
フェインティア・イミテイトは他のエース達の戦闘を見ながら、それでは足りない事を感じていたが、打開策が思いつかない。
「オリジナル、クルエルティア」
「何よ、今忙しいの!」「………目標周辺の敵性体掃討率64%、目標の演算処理の負荷率は低いわね」
フェインティアは怒鳴り返すが、クルエルティアはフェインティア・イミテイトの危惧している事を感じ取っていた。
「意味がよく分からんが、あのデカいのに干渉するにはまだまだ足りないという事か」
「そうなるわ。ただ、このメンバーでもデア・エクス・マキナと正面から渡り合えるかどうかは不明ね」
マルセイユが銃撃を続けながら小首を傾げるのを、その隣でパッキンビューを振るうポリリーナが頷く。
『ポリリーナ君、聞こえてるか』
「宮藤博士! 現在スーパー・エルラインを援護中ですが、やはりデア・エクス・マキナへの攻撃は難しいようです」
『こちらでも解析した。もし、デア・エクス・マキナにハッキングを仕掛けるならば、その演算処理が最大になるタイミングを狙うしかない』
「だからそれをどうしろって言うのよ!」
「……マイスター、演算処理を最大にするという事は、向こうにとって奥の手を使った時なのではないだろうか?」
『あ』
宮藤博士からの通信に思わず怒鳴り返したフェインティアだったが、かたわらのムルエメルティアの一言に、全員が思わず声を上げる。
「エルナー!」
『聞いていました、私も同意見です。デア・エクス・マキナに最大の隙が出来るのは最大の攻撃手段を用いた時、すなわち先程のミラーリンクシステムを発動した瞬間に他なりません』
「けど、どうするの? 永遠のナントカ号、どう見てもボロボロだけど」
「現在参戦している戦力で、永遠のプリンセス号の主砲に匹敵する破壊力を持つ攻撃手段は存在しません」
「だがこのままだと、戦線の崩壊は時間の問題だね」
ハルトマン姉妹が防戦一方の永遠のプリンセス号を指さし、ポクルイーシキンがかろうじて拮抗状態を保っている他の部隊を見回す。
「やるしかないな、どうにかしてあいつのイカサマシールドを発動させるしかない」
「だからそれをどうやってするの? こっちの攻撃なんて、あの大きなお人形さんの足元にも及びそうにないし」
「総員の魔力で一斉攻撃、と言ってもさすがに足りないな」
「わ〜はっはっは!」
エースウィッチ達が攻撃の手を休めないまま考え込んで時、突然の笑い声と同時に小柄なウィッチが飛び込んでくる。
「待たせたな! 予備の刀を取りに行ってて遅くなったぞ!」
「マスターのアレは強奪なのです………借りてきた子ビビりまくっていたのです………」
遅れてきた義子が笑い声を上げながら砲撃と連射をかいくぐりながら攻撃ポッドを次々と斬り捨てていき、傍らでアルトレーネが何か肩を落としつつ、援護する。
「リバウの魔王も到着か」
「なるほど、アレが………」
「ウィッチってこんなのばっかり」
やたらとハイテンションな義子にウィッチ達は関心するが、フェインティアは呆れた顔でその戦いを見ていた。
『周辺の攻撃ポッドを撃破次第、廃棄艦を突撃させます!』
「こっちはこっちで無茶を…突撃?」
リューディアからの通信を聞いていたフェインティアだったが、ふとある事を思いつく。
「その特攻待って! クルエルティア! 貴女アンカーでどこまで回せる!?」
「現状だと、最大値の60%と言った所だけど………」
「私も似たような物ね、随伴艦のアンカーシステムを同期させて! ちょっとデカイのをスイングするわ」
「マイスター、ひょっとして」
「あんた達! こっちの全システムをアンカーに回すから、援護お願い!」
「何を…」
「ガルクアード!」「カルノバーン・ヴィス!」
周囲の返答を聞く間も無く、二つのアンカーが特攻予定だったリューディア艦隊の艦の一つに突き刺さる。
「随伴艦、全エネルギーをアンカーに集中! ブレータ! スイング範囲をシミュレート、範囲内友軍に回避を指示して!」「リミッター解除、侵食制御最大!」
トリガーハート二人がかりでスイング状態へと持って行こうとするが、さすがに質量が巨大過ぎて中々思うようにいかず、周辺の攻撃ポッドがそれに気づいたのか、無防備な二人に照準を向ける。
「マイスター、気付かれた!」
「ちょっと持たせて! 我ながらこんな原始的手段しか思いつかないなんて!」
ムルメルティアがそばで援護射撃を行う中、フェインティアはエネルギーバイパスと演算処理を全てアンカーへと回す。
「原始的だけど、悪い手じゃないわ」
そこへ、誰かが肩に手を置いてきた事に振り向くと、フェインティア・イミテイトが笑みを浮かべていた。
「私とリンクして、処理を回して。二人よりは三人の方がいいでしょ」
「あんたアンカー使った事ないでしょ!」
「基本システムはあなたのコピーよ、データは入ってる」
「マイスター、使える物は使うべきだ」
「仕方ないわね! 変な事すんじゃないわよ!」
フェインティアが悪態をつきながらリンクを開き、演算処理の一部をフェインティア・イミテイトに委託する。
「スイング開始、最大出力!」「速度上昇、どいてなさい!」「なるほど、これは中々………」
艦をまるまる一つスイングするというとんでもない状況に、周囲のみならず、戦場で気付いた者達は全員度肝を抜かれる。
「速度上昇!」「アンカー制御臨界まで持ってくわよ!」「こっちの処理限界の方が先来ない!?」「マイスター、本体に気付かれた!」
演算処理の全てをアンカーへと向けていた三人だったが、ムルメルティアの一言にわずかにそちらに意識を向ける。
「まずい、来るぞ!」
「回避を!」
マルセイユとポリリーナがこちらに狙いを定めているデア・エクス・マキナに気付くが、そこでスーパー・エルラインが前へと立ちはだかる。
「こちらで防ぎます!」
「姉さんとフェインティアはスイングの続行を!」
芳佳とエグゼリカの声が響き、皆を防ぐべくシールドが張られる。
直後、デア・エクス・マキナの放ったビームが直撃する。
「こっちもシールドを張るんだ!」
「張れない奴は後ろへ!」
ウィッチ達が率先してシールドを張り、張れない者達は慌ててその背後へと回りこむ。
スーパー・エルラインのシールドで防がれてるとはいえ、拡散した余波が至近で直撃すれば充分殺傷力がある強力なビームに、ウィッチ達は全力でシールドを張り続ける。
「弾いてもこの威力のを、一体アレは何発食らってるんだ!?」
「当人達も数えてないでしょう」
衝撃波が吹き荒れる中、ルーデルが驚愕するのを、沙雪華は当然と言った声を上げた時だった。
「アンカー制御限界!」「一気に行くわよ!」「分かった!」『リリース!!』
限界まで加速が付いた艦が、二つのアンカーからパージし、アンカーから付与されたエネルギーと艦内動力炉のエネルギーが融合、臨界状態となって高速でデア・エクス・マキナへと向かう。
「よっしゃあ、行ける!」
「うまくいくといいのですが」
義子が歓声を上げるが、アルトレーネがぼそりと呟く。
加速した艦はデア・エクス・マキナへと直撃する瞬間、凄まじい爆発を起こした。
「やったか!?」
「いえ、寸前で迎撃された!」
「だがダメージは追わせたぞ!」
爆煙が晴れていく中、ダメージは負っている物の、致命的とは程遠いデア・エクス・マキナの姿が現れる。
「迎撃成功」「損傷レベルBランク」「修復開始…」
即座に修復を開始しようとしたデア・エクス・マキナだったが、そのセンサーに再びこちらに向かってくる巨大な物体が感知された。
「これでも食らうですぅ〜!」
敵陣を強引に突破してきたユーリィが、その怪力で総員退艦済みの駆逐艦をぶん投げる。
「皆も続け!」
「誰か手を貸して!」
「任せて下さい!」
飛来した駆逐艦を撃破したデア・エクス・マキナだったが、そこに怪力や魔力付与の固有魔法を持ったウィッチ達を中心とした者達が、大破した船や敵の破片を文字通りの力任せに次々と投じてきた。
「物理攻撃多数確認」「生体エネルギー付与確認」「危険レベルC、迎撃」
次々と飛来する破片で、魔力等が付与された物は特に危険と認識したデア・エクス・マキナは瞬時に優先順位を選定、次々と破片は撃破されていく。
「手を休めるな! 投げる物は幾らでもある!」
「はいですぅ!」
「迎撃してるって事は、当たると少しでも危険だって認識してるという事よ!」
「分かりました!」
バルクホルンやユーリィが中心となり、他の者達も激戦の末に減り始めた敵群の隙間を縫うように投擲や攻撃を行い始める。
「物理攻撃増加確認」「迎撃レベル上昇」「懸念要素消去」
飛来する破片を次々撃破していくデア・エクス・マキナが、それを行う者達へと狙いを向ける。
「まずい、来るぞ!」
「逃げるですぅ!」
狙いを向けられた者達が慌てて回避に移る。
逃さぬよう、デア・エクス・マキナは大出力のビームの発射体勢を整え、まとめて薙ぎ払おうとする。
それが、向こうの狙いだと気付いたのは、発射直前だった。
「今よ!」
僅かにデア・エクス・マキナの意識が逸れた瞬間、スーパー・エルラインを中心に、選抜されたエース達が一塊となって銃口を向けていた。
デア・エクス・マキナが攻撃を中断しようとした時、複数の銃口が一斉に火を拭いた。
「攻撃中断」「エネルギー拡散ラグ発生」「シールド防御困難」
下手に大出力の攻撃を放とうとしていた為、シールドを発生させる時間が無いと瞬時に判断したデア・エクス・マキナは、とっさにミラーリンクシステムを発動。
放たれた複数のエネルギーを帯びた攻撃は、デア・エクス・マキナの前に発生した転移ホールへと飲み込まれていく。
それこそが、待ち望んでいた瞬間だった。
「行こう」「そうする」「食らえぇ!」
アイーシャの一言を合図に、ティタと亜弥乎も一緒に、三人同時にデア・エクス・マキナへとアクセスする。
「あう………」「く、なんじゃこれは………」「逆流しそう………」
それをサポートするナイトウィッチ達も、流れこんでくる情報量に不快感を露わにする。
「もう、少し………」「ちょっと、きついかも………」「負けるかぁ………」
ハッキングしている三人は三人とも凄まじい汗を流し、苦悶に顔を歪めながらも全力で干渉を続ける。
『そこだ!』
気せずして、三人が同時に叫んだ時、周辺にある音が響き渡る。
異音を立てて止まる、大小二つの歯車の音が。
「クロノスギア停止確認! ミラーリンクシステム機能不全と転移ホールの消失も確認しました!」
虚空に浮かんでいた転移ホールが弾け飛ぶように消え去り、デア・エクス・マキナの動きがはっきりと止まった。
そこでエルナーの声が響くと同時に、最初に飛び出したのは三つのアンカーだった。
「行ってディアフェンド!」「行きなさい、カルノバーン・ヴィス!」「行け、ガルクアード!」
スーパー・エルラインと随伴艦二隻から放たれたアンカーはクロノスギアに直撃する寸前、未だ機能していた移相断層に阻まれるが、第一層の破壊に成功する。
「まだあるわ!」
「RV、全機スタンバイ!」
『ドラマチック・バースト!!』
フェインティアの声に応じるように、残った敵陣を突破してきた、ハッキングで疲弊したティタを除く天使達が、一斉にD・バーストを放つ。
サーチレーザーが、スプレッドボムが、召喚されたゲインビーが、荒れ狂う機械じかけの触手がまとめて叩きこまれ、限界に達した二層目が破壊される。
「まだある! これは、ナノマシンフィールド!?」
その下の三層目、ナノスキンに類似したフィールド層をティタが確認した時、スーパー・エルラインが突撃する。
「お願いゼロ! たああぁぁ!」
気合と共に、音羽が片手だけとなったスーパー・エルラインを駆って剣をフィールドに突き立てる。
「皆!」
「! ソニックダイバー隊、クアドラフォーメーション!」
「「クアドラ・ロック」座標固定位置、送りますっ!!」
「ホメロス効果修正プログラム送るわ、使って!」
音羽の意図を悟った瑛花がティタ同様、疲弊しているアイーシャのシューニア・カスタムを除く三機のソニックダイバーが突撃し、フォーメーションを組む。
ティタから送られたプログラムを元に可憐が即座にプログラムを修正、それを元にスーパー・エルラインを中心に、ソニックダイバーがフォーメーションを組んでいく。
「座標、固定OKっ!!」
「4!」「3!」「2!」「1!」
『クアドラロック!』
スーパー・エルラインとソニックダイバーがリンクして発生した人工重力場内で、修正されたホメロス効果発動プログラムを元にナノマシンデータが送り込まれる。
「ホメロス効果発動確認!」
「ソニックダイバー全機、ロックに出力を集中!」
「やってるって!」
どれもが軽くない損傷を負っているソニックダイバーが、ありったけのエネルギーをロックに集中させるが、出力差が違い過ぎるのか、すぐにはフィールド全体にホメロス効果が伝わらない。
「このままだと、時間が…」
「大丈夫」
クロノスギアの停止状態がいつまで続くか分からないのに音羽が焦った時、アイーシャの声と共に一気にホメロス効果が広がっていく。
「アイーシャ! 無茶したら…」
「皆でやった………悪いけど後は頼む」
エリーゼの焦った声にアイーシャが淡々と答えた直後、第三層が完全に崩壊する。
「まだ下に…」
「シュツルム!」
「そおら!」
可憐の言葉が終わるよりも早く、固有魔法をまとったホルス1号機と、ありったけの魔力を巨大スコップに込めたホルス2号機が第四層へと突撃してくる。
「ウルスラ! 全開で行くよ!」「やってます姉さん!」
「はっはっは、なかなか手応えがあるじゃないか!」「倒れるなよ姉ちゃん!」
ハルトマン・ユーティライネンの両姉妹がありったけの魔力を注ぎこむが、第四層も強固で両者の間に凄まじいエネルギーの火花が飛び散っていく。
「移相断層破壊危険域到達」「複製体制御不能」「再起動準備加速」
全く動けないと思っていたデア・エクス・マキナから突然聞こえてきた声に、間近で聞いた者達の顔色が変わる。
「こいつまた動き出そうとしてる!」
「急ゲ! 時間が無イぞ!」
ハルトマンとエイラが叫ぶ中、ガランドは即断した。
「各部隊ごとに集結、シールドに魔力を集中させろ!」
「ストライクウィッチーズ、突撃!」
「501に続け!」
ガランドの指示の元、ウィッチ達が持てる魔力を全てかき集め、部隊ごとに収束させたシールドで残った敵影を強引に突破しつつ、次々と第四層に突撃していく。
「いっけ〜!」
芳佳もありったけの魔力を込めて、スーパー・エルラインの剣を振り下ろす。
数多のウィッチ達の魔力の前に、とうとう限界に達した第四層も破壊された。
「まだ下に…!」
「おどきなさい! エレガントソード!」
「バッキンビュー!」「クルクル、パ〜ンチ!」
美緒の魔眼が更にその下の第五層を捉えた時、エリカ、ポリリーナ、ユーリィの攻撃が第五層へと炸裂する。
「はああぁぁ!」「たああぁ!」「これでも食らえぇ!」
更に剣鳳、鏡明、ミサキも加わり、次々と光の戦士達も参加していく。
「ライトニングシュート!!」
ユナも駄目押しとばかりに砲撃を叩き込み、とうとう第五層も破壊された。
「やっ…」
ユナが思わず歓声を上げかけるが、そこに再び駆動しようとする大小の歯車が視界へと飛び込んできた。
(今、再起動されたら勝ち目はもう…)
エルナーも最悪の展開を予想してしまう。
クロノスギアを守る移相断層を全て破壊したはいいが、皆が力を使いきり、もう一撃を放つ事が出来そうに無い事を幾人かが気付いた時、突然何かがクロノスギアへと飛び込み、爆発を起こす。
「今のは!?」
「あれ!」
吹き荒れる爆風の中から、紅い影が弾き出された事にエグゼリカが気付く。
「ガルクァード!」
それがフェインティア・イミテイトだと気付いたフェインティアが慌ててアンカーで回収する。
「あの至近でビーム砲のオーバーブースト叩き込んでやったわ………利用された借りは返させてもらったわよ………」
己のダメージも顧みず、ビーム砲を自爆させたフェインティア・イミテイトが破損箇所から潤滑液をしたたらせながらも、笑みを浮かべる。
「今です!」「総攻撃〜!」
駄目押しとばかりに、アーンヴァルとストラーフを先頭に、武装神姫達が己達が持つ最大の攻撃をクロノスギアへと叩き込んでいく。
一発一発の破壊力こそ小さい物の、その全てが的確にクロノスギアの各パーツへと炸裂していく。
全ての防壁が破られ、そして狙いすました各パーツへの攻撃に、とうとうクロノスギアが、そしてデア・エクス・マキナ自身も完全に動きが停止した。
「今です!」
「お願い皆! 力を貸して!」
皆の力を結集させた千載一遇のチャンスに、エルナーの指示とユナの声が響く。
「私の全ての魔力を!」
芳佳がありったけの魔力を放出させる。
「随伴艦、全リミッター解除! アールスティア、ディアフェンド、力を貸して!」
エグゼリカが随伴艦の出力を全開まで上げる。
「ゼロ、出力全開!」
音羽が零神の核融合エンジンを最大まで上げる。
「ビックバイパー、プラトニックエナジー全開!」
亜乃亜がRVを通じて残った全てのプラトニックエナジーを放出させる。
「まだです! まだ足りない!」
「皆の力を、一つに!」
エルナーとユナの言葉が響くと、それまでスーパー・エルラインから放出されていた光の粒子が、巻き戻すようにスーパー・エルラインへと集まっていく。
「これは………」「魔力が、吸い寄せられていく?」
最初にウィッチ達が何が起きているかを気付く。
「そうか、少ないが持っていけ宮藤!」「芳佳ちゃん!」
ウィッチ達が次々魔力を放出させ、その全てがスーパー・エルラインへと集っていく。
「フェインティア!」「分かってるわクルエルティア! 全部貸してあげるわエグゼリカ!」
トリガーハート達も随伴艦のリミッターを解除、そのエネルギーも吸い寄せられる。
「ソニックダイバー、出力低下!」
「どういう仕組でしょうか?」
「どうでもいい! やっちゃえ音羽!」
ソニックダイバーも出力が下がるのを、逆にリミッターを解除してありったけ出力を上げ、それも吸い寄せられていく。
「皆、RV出力全開!」
「了解!」
「プラトニックエナジー全開放、行くわよ亜乃亜!」
天使達も残ったプラトニックエナジーを全て開放、スーパー・エルラインへと吸い寄せていく。
「ユナ! 使って!」「お腹空くけど、我慢するですぅ!」「とっと片付けなさいよ!」
光の戦士達が口々にユナに言葉をかけながら、残った力を全てスーパー・エルラインへと吸い寄せさせる。
「最終攻撃、準備」
「リミッター解除、エネルギー装填開始」
武装神姫達が口々に呟きながら、スーパー・エルラインへと接触してエネルギー全てを送り込んでいく。
スーパー・エルラインがかざした砲口には、全てのエネルギーが集結し、それは最早純粋な閃光となって溢れていく。
「攻撃レベルAA確認」「致命的損傷確実」「防御不可能」
デア・エクス・マキナは今まさに己へと向けて放たれようとする一撃に、淡々と状況を理解していく。
その時、満身創痍のスーパー・エルラインの姿が、かつて己を封印した古のエルラインへと重なる。
『いっけえええぇぇ!!!!』
五人の光の救世主の声が重なり、文字通り最後の一撃が放たれる。
ただただ眩い閃光がその場を照らし出し、そして収束された光が、クロノスギアを貫き、完全に吹き飛ばす。
「クロノスギア、破損確認」「自己修復可能レベル超越」「機能不全発生、再起動困難、再起動困難」
「これが貴方の最後です、デア・エクス・マキナ!」
エルナーの宣言を皮切りに、クロノスギアで大規模な爆発が発生、そしてそれはデア・エクス・マキナの各所へと広がっていき、やがて全身を覆い尽くす。
「各機能停止」「各所爆発発生」「全機能、起動困難………起動不可能可能性大」「敗北認識」「敗北要因不明、不明、不明不明不明不明…」
次々と小爆発を繰り返しながら、デア・エクス・マキナの体が崩壊を始めていく。
その状態になって尚、デア・エクス・マキナは何故敗北したかを思考し、そして理解出来ないでいた。
「簡単だよ。あんたがひどい事するから、皆怒ったんだから!」
「デア・エクス・マキナ。あなたは己の絶対的な力のみを信じ、小さな力を結集させる事が何を意味するか、それを考えなかった。それこそが、貴方の敗因です」
「不明不明不めいフメイ…………」
ユナとエルナーの声を聞きながらも尚、デア・エクス・マキナは最後まで敗因を理解出来ないまま、最後に大爆発を起こしながら、次元の間の闇へと沈んでいく。
「お、終わった………の」
「目標のエネルギーレベル急速低下、機能停止と確認出来ます」
「や、やった!! 私達、勝ったんだ!」
「はい! 大勝利です!」
「やったあああぁ!」
スーパー・エルラインの中で皆がようやく勝利を認識し、ユナが一際大きな喝采を上げる。
そこで、スーパー・エルラインの合体が解け、五人がその場に現れる。
「ユナ!」「芳佳ちゃん!」「音羽!」「エグゼリカ!」「亜乃亜!」
仲間から声を掛けられ、五人が手を振って答える。
だが、そこで誰もが異変に気付いた。
「あれ?」
「何か、光ってません?」
誰もが、自分達を淡い燐光が覆っている事に気付く。
そして、徐々に自分達の姿が透けていく事にも。
「え、エルナー!? 何が起こってるの!?」
「これは、次元変動の自己修復が始まったんですね」
「それはまさか………」
「はい、デア・エクス・マキナが機能停止した事により、それまで歪められていた次元が元に戻ろうとする力が働き始めたんです」
「え〜と、つまり………」
「元の世界に戻る、って事?」
「はい」
「ええ〜〜〜!? まだ打ち上げパーティーしてないよ!?」
エルナーの説明に、ユナが絶叫を上げる。
「あ、そういえばそうですね」
「そんな時間ももう無いみたいです」
芳佳とエグゼリカが頷く中、燐光が徐々に強くなり、各々の姿が更に透けていく。
「あ、あれ!」
そこで音羽が一点を指さす。
そこには、全ての武装神姫が整列していた。
「全ミッション完了を確認」
「私達も元の世界に帰投します」
「元の世界って?」
「う〜ん、喋っていいかな?」
音羽がずっと思っていた疑問を口にした所に、ヴァローナが近寄ってきて首を傾げる。
「もう大丈夫でしょう。それに気付く人は気付いています」
「まあ、薄々は」
エルナーの言葉に、亜乃亜は思わず苦笑する。
「彼女達武装神姫は、ここにいる誰かが、未来から私達をサポートするために送り込んできた存在、そうですね」
「その通りです」
エルナーの説明に、アーンヴァルが頷く。
「誰かって、誰?」
「それは未来になれば分かるでしょう」
「作れそうな人も何人かいるみたいですし」
ユナのもっともな疑問に、エルナーと芳佳が周囲を見回す。
そんな中、一度整列していた武装神姫達が、それぞれのオーナーの元へと飛んで行く。
「お世話になりました、マスター」
「こちらこそ世話になった、礼を言うぞアーンヴァル」
美緒がアーンヴァルへと礼を述べながら、その場で敬礼する。
「お姉様、短い間でしたが、楽しかったです」
「はは、よかったら遊びに来いよ。また一緒に飛びたいし」
飛鳥がシャーリーに頭を下げる中、シャーリーは笑って見送る。
「元気でねマスター」
「貴方もねストラーフ、あまりイタズラしちゃダメよ」
ミーナとストラーフが笑いあいながら、互いに手を振る。
「いい作戦だった、マイスター」
「そうかしらね? ま、色々助けにはなったわムルメルティア」
敬礼するムルメルティアにフェインティアは首を傾げる。
「楽しかったね、オーニャー」
「う〜ん、ちょっと色々ありすぎたけどね、ヴァローナ」
笑みを向けるヴァローナに、音羽はちょっと考えるが、笑みを返す事にする。
「最後の方だけは役に立ちましね、マスター」
「おめえは最後までそんな感じか。もっともオレ一人じゃ荷が重かったぜ、ウェルクストラ」
ほめてるかどうか分からないウェルクストラに、エモンは頬を書きながら礼を述べる。
更にその場を覆う燐光は強まり、互いの姿の向こう側が見え始めてくる。
「芳佳ちゃん、エグゼリカちゃん、音羽ちゃん、亜乃亜ちゃん、皆、ありがとう」
ユナがそう言いながら手を伸ばすと、他の四人も手を伸ばして互いに重ねていく。
「大変な事もいっぱいあったけど、皆に会えてよかったよ」
「そうだね、結構楽しかったね」
「そう言われれば、そうかも知れません」
「もう、会えないのかな?」
「う〜ん、次元転移は余程の許可が無いと無理かも?」
手を重ねたまま、皆が互いの顔を見、そして誰からともなく笑う。
「たとえもう会えなくても、ずっとお友達だから」
「はい!」
「そうですね」
「そうだよ!」
「そうそう!」
五人の弾む声が、その場に響く。
ふとそこで、エグゼリカが唯一姿が透けていない人物に気付いた。
「あ………」
「どうやら、ちょっとあいつに接触しすぎたみたいね」
その人物、フェインティア・イミテイトはそれだけ言うと、皆に背を向ける。
「イミテイト! 何をする気!?」
「あいつが、ちゃんと機能停止したかどうか、確かめてくる。確かめたら戻るわ」
フェインティアが制止するが、フェインティア・イミテイトは振り向かず、それだけ言うとデア・エクス・マキナが沈んでいった闇へと目を向ける。
「戻るってどうやって!」
「あんた達がそうやって戻れるんだから、あいつが完全に止まったら、私も戻れるでしょう」
「待って…」
「また後で」
フェインティアが向かおうとするのも構わず、そのままフェインティア・イミテイトは闇へと向って一直線に飛び込んでいった。
「エルナー………」
「彼女なりの、贖罪なんでしょう。それにあながち間違った事も言ってません」
「けど…」
「帰ってきますよ、きっと」
ユナが寂しそうな顔をするが、エグゼリカも寂しそうな顔をしつつ、フェインティア・イミテイトが飛び込んでいった闇を見つめていた。
だが、ふと重ねていたはずの手が崩れる。
すでに互いの手を握りあう事すら出来ない事に全員が気づくと、ユナは寂しさを振り払って笑顔を浮かべる。
「じゃあみんな、元気でね! また会ったら盛大にパーティだよ!」
「はい! 私料理いっぱい作ります!」
「私も手伝います!」
「食べる専門じゃだめかな?」
「それもいいと思うよ、それじゃあ!」
皆が大きく笑いながら手を振り合う。
そして互いの姿がその場から消えた。
同じくして、そこにいた全ての者達と、戦いに参加していた艦艇も全てその場から消え失せた。
後には、そこであらゆる世界を超えた戦いがあった事を示すような、破損された残骸のみが漂っていた…………