ヤマクラにて
政人と山下は地下鉄に乗った。
ヤマクラ本社に行くためだ。山下は昔の恋人の彼女の事を思い出していたのか、
地下鉄でヤマクラに向かう時はぼんやりと窓を見つめながら無言だった。
駅で地下鉄を降りると、二人は地上に出る。
ヤマクラの巨大なビルが二人には見えた。
二人はそのままビルに向かう。
自動ドアが開きヤマクラの表玄関で入り口の受付の陽気な青い服装をしている女性に声をかける。
「ヤマクラ製薬にようこそ。何のご用件でしょうか、なお本社の営業時間は5:00
までとなっております」
「警察です」
受付の女性の顔が曇る。
「は〜い。何のご用件ですか」
「ヤマクラの社長さんに聞きたい事があってね」山下は続ける。
「おまちください」
受付の女性は総務の内線にタッチパネルで番号を入力すると、内線の電話で総務に連絡する。
受付の入り口の近くにはホログラムの巨大なヤシの木があり、
そこから実が落ちて実が開けると、
to Dear customer 親愛なるお客様へ
とホログラムで文字が浮かび上がる。
政人はそれを眺めていたが、受付の女性が、
「総務と連絡は取れました」
と言うと向き直る。
山下が、
「でいいのかね。社長と面会とゆうのは」
「社長からですが、総務には立ち寄らないで96階の部屋に直接来てほしいとの
連絡がありました」
「では行こう」
山下は政人に言う。
政人はそれを聞いて無言でエレベーターに乗り上に向かう。
70階を過ぎる頃にはエレベータからの東京の景色は一望できた。
そのまま二人は上に向かう。
巨大な洋風のプールの
明かりの灯っていない水面だけライトアップされた巨大なルネサンス様式のプールでその女は一人泳いでいた。
水着姿の彼女は数十分泳いだ後、二人が彼女の所へ来て呼ぶと、
水面から上がって、タオルで体を拭いていた。
二人が社長の女に話しかける。
「誰。警察らしいわね」
「捜査で伺いました」
「何の捜査?」
「大分前の事になりますが、システムに女性の意識をいれたとゆう問題がありましてんね、ヤマクラ製薬グループもこの事件に関わっていたとゆう疑いがありまして、捜査中なんです」
女社長は口ごもると、
「詳しくは知らないけど、大分の前の事件で話題になっていた事?」
「ええ。そうです」山下が言う。
「意識に組み込まれた女性の遺体はあるわよ。でも大分前の事件じゃない」
「ええ。再捜査です」
女社長は、
「遺体は保管庫にあるわよ。あの事件以来、ずっと手はつけていないままだけど。
それと事件に関わったのは私の亡くなった父じゃない」
「被害者のための再捜査ですよ。
その遺体は何処にありますか?」
「冷凍保存室にあるわよ」
「じゃあ、その遺体を警察で引き取りたいのですが」
すこし社長は沈黙すると、
「40階の冷凍保存室にあるわよ。保存室の番号は43259738」
政人はその番号は使い古した警察手帳に書き込むと、
山下に
「じゃあ、行ってみましょう」と言うと40階の冷凍保存室に二人は向かった。
エレベーターの40階の扉が開くと、カプセルホテルのような冷凍保存室に着く。
そこでヤマクラの管理している男に事情を話す。
番号を入力すると彼女の遺体が出てきた。
山下は懐かしそうに彼女の遺体の頬を撫でる。
「大変だったが、君の苦しみは俺が最後に救ってやる。
俺の退職前のやり残した最後の大仕事だ」
政人は警察庁に連絡して死体を運ぶ車を手配してもらった。
その数十分後、車に遺体を乗せ、二人は警察庁に戻る。